概要
本作の主人公。ロンドンの下町に「スクルージ&マーレイ商会」という会計事務所(つまり、金貸し業)を構える初老の男性。
店名はかつての共同経営者ジェイコブ・マーレイの名を連ねており、彼の没後もそのまま残している。これは故人を悼んでの理由というよりは、看板を取り替えるのに余計な出費が掛かる為と思われる。
人物像
金に汚い強欲な守銭奴であると共に、他者の苦しみなど知る由もない徹底したエゴイスト。
こんな醜い性格が外見にも現れているのか、原作では初老とあるが、だいぶ老け込んだ容姿をしており、影では「くそじじい」呼ばわりされている。
書記のロバート・クラチットを薄給で酷使し、病院への寄付を求められても「死ぬなら死んだほうが世のためだ」と追い返し、甥のフレッドからのクリスマス会の誘いを「一銭にもならない」という理由で拒絶するなど、愛情や思いやりを一切持たず、世間では冷酷無慈悲な人物として蛇蝎のごとく忌み嫌われていた。
その嫌われようときたら、道ですれ違っただけの盲導犬すら、主人を引っ張って、対面を回避させるほどである。
活躍
ある年のクリスマスの前夜、自宅でくつろいでいると、7年前に死去した共同経営者のジェイコブ・マーレイであった亡霊が現れる。生前は金銭欲や物欲に縛られた人生を送っていたマーレイから、死後に降り掛かった彼自身への重責を例として語られる。
休むことも留まることも許されず、疾風のごとく速く移動しては、世界中を旅をさせられること。自分自身が生前にほんのちょっと優しくなれば様々な形で助けたり、救うことが出来た貧しい人々の姿やその末路を見せ付けられること。その人々を助けてさえいれば、今の状況にはなり得なかったのに、もはや救済を行うことは出来ず、延々と後悔と苦悩を強要されるという、過酷なものだった。
その旅は、現世での非情な行いに比例して長くなり、縛り付けられる鎖は重くなるという。つまり、死後も現世に縛り付けられ続けて、天国にも地獄にも行くことが出来ずにさまよう、無残な亡霊と化すということだった。
そんなマーレイ老人から、彼以上に利己的に生きるスクルージはすでに自分より鎖が増えていると聞かされ、更に悲惨な運命を辿らないように生き方を改めることを勧められる。
そしてマーレイが彼の元に送った三人の精霊(それぞれ過去・現在・未来を見せる能力を持つ)により、自身の苦い半生や周囲の現状、そしてそんな自分や彼らに待ち受ける未来を目の当たりにすることになる。
訪れる精霊達とその結末
過去のクリスマスの精霊
原作の描写がわかりづらい(子供のような老人という表現等)ので、作品によってその容姿が異なる。
ディズニー版では、細身で顔が蝋燭の如く燃えているという、いかにも精霊といった姿で描かれたが、実写版ではゆったりとしたローブを身に纏った、ただの若い女性だったりもする。
過去のクリスマスの精霊が見せる光景は、スクルージの生まれ故郷である田舎の場面から始まる。
貧困層ではないようだが、実家の父親とはうまくいっていないようで、クリスマス休暇も学校で一人寂しく過ごしていた。
だが、数年後の場面では、年の離れた妹ファンが父を説得し、迎えに来てくれている。
彼女の息子が、甥のフレッドである。物語開始時点で既に故人であるが、スクルージも認めるほど、心の広い淑女だったという。
成人後は、奉公先で真面目に働いていた。勤め先の主人が自分の金を使って開くクリスマスパーティーに対し、精霊が普段のスクルージのように無駄金を使っていると指摘したところ、そんなことはないと反論しており、この時点でスクルージには改心の兆しが見え始めている。
しかし、壮年期において、以前から懇意にしていた女性ベルに対し、彼女の両親が亡くなったことを機に結婚を申し込むも、スクルージが以前とは人が変わってしまった(この時点で守銭奴になりかけている)事を理由に婚約破棄を言い渡される。
更に初老期(ちょうどマーレイが亡くなる少し前)には、ベルが豊かではないけれど、子沢山で幸せな家庭を築き上げている場面を見せられると、もう見ていたくないと過去の精霊を彼の持っている帽子で消し去ろうとする。
しかし、最後まで彼の姿は消えず、やがてスクルージは疲れ果ててしまい、眠ってしまう。
現在のクリスマスの精霊
緑色の簡素なマントのような着物を無造作に羽織っているだけで、胸元を開いたままでいる大柄の男性。頭には、ところどころ氷柱の付いているヒイラギの花冠を被っている。
豊穣の角笛のような松明を持っており、これを振りかざすことで、人々に幸福をもたらす事が出来る。
彼には1,800人の兄弟がいて、彼自身は一番若い、末っ子らしい。
現在のクリスマスの精霊の見せる光景は、現在のロンドンの街から始まる。
クリスマスの中でも働いている、一部の食料品店に集う人々(当時、貧しい人は家に窯がないので、お祝い事の際は、ご馳走をお店に作ってもらって受け取るという風習があった)や、普段は調子の良いことを言っては、不都合なことを起こると神の仕業と責任転嫁する者たちに対する皮肉が記されている。
こういった文面は、劣悪な労働環境で少年時代を過ごしたディケンズの得意とするところで、彼の社会改革主義が垣間見られる点である。特に、ディケンズの役人嫌いは他作品でも見られるほど有名。
その後、低所得者向けの住宅街にある、クラチットの家庭を見せ付けられる。
そこで初めて、彼の末息子ティムが難病を抱えており、松葉杖がなければ歩けない状態にある事を知る。
「ティムは長生き出来るのか?」とのスクルージが問いかけるも、現代の精霊は「テーブルの席が一つ空いていて、傍らには、持ち主がいない松葉杖が置いてある。だが、それがどうした?死ぬなら、死ねばいいだろう?余った人間を減らせるだろ?」と、冷たく返答する。
これが寄付を求めてきた病院の紳士に対して、スクルージが自分自身で放った言葉そのものであることであることに気付き、彼は猛省を促される。
次の場面では、甥のフレッドが開催するクリスマスパーティーを見せられる。
パーティーの最中、彼は「お金よりも大切なものがあるのに伯父さんは執着しすぎている、もっと物事を楽しめば良いし、いつかそうなれることを信じてる」と、スクルージの説得を続ける事を家族に話す。
あれほど冷たく接したにもかかわらず、亡き妹ファンの息子はスクルージのことを気に掛けていたのである。
現世では1日しか生きられないという、現在の精霊が最後に見せたのは、人間の子供の姿をした「無知(男の子)」と「欠乏(女の子)」だった。
救いを求める彼らを助けられないのかと問うスクルージに対して、現代の精霊は「監獄や救貧院はないのか?」と、ここでもまた、スクルージが寄付を求めてきた病院の紳士に対して発した発言で反問してくる。
現在の精霊は、この後、この世界での寿命を迎えて消え去り、スクルージは元の世界に戻される。
未来のクリスマスの精霊
黒衣を身に纏い、見えるものは手だけという、精霊というよりは、さながら「死神」の様相。
しかも、三人の精霊では唯一口を利かず、全て仕草だけでスクルージと意思疎通する。
未来のクリスマスの精霊が見せる光景は、街中で事業家達が集まっている場面から始まる。
どうやら、クリスマスの日に何者かが亡くなったという話題をしているが、誰も葬儀に行くつもりはないらしい。
他の誰かが行くのなら行くとか、食事くらいは出るのか等、冗談を言い合った後、彼らはここの仕事の為、散り散りに去って行く。
次に、盗品売買を行う裏の店の場面に移る。
三人の人物が同時に訪れるのだが、出会い頭に驚いた後、開き直って店主に招き入れられて、「商売」を開始する。
どうやら、彼らは「同じ人物」の遺品を盗み出して、売り捌いているようだった。
一通り商談が成立した後、精霊に連れられた先は、寝台のカーテンも盗み売りされて、一人寂しく寝かし付けられたその人物の遺体だった。
スクルージは自分と共通点の多いこの人物が気になるも、いざとなると、その中に居る人間に対してしている最悪の予想が当たることを恐れ、遺体の顔から落ちかけている覆いを取ることが出来ず、目を背けてしまう。その代わりに、彼の死が誰かに影響を与えたのかと、精霊に問い質す。
それに応じた精霊が見せたのは、故人に借金をしていたらしい夫婦が、次の債権者はもっと温情のある人だろうと、むしろ、故人の死を喜んでいるような光景だった。
「もっと優しいものが見たい」と懇願するスクルージに対し、精霊が次に見せたのは、未来のクラチット家だった。
ティムが亡くなり、悲しみに明け暮れる中でも、励まし合って生きていこうとする一家の姿を見せられて、スクルージはこの旅が終わりに近いことを察する。
そして、最後に、あの横たわっていた人物は誰なのか知りたいと願う彼は、教会の墓地へ連れて行かれる。
四辺が家に囲まれて、雑草まみれの中に打ち棄てられた墓石に刻まれていた名前は、エベニーザ・スクルージであった。没日は12月25日(没年は不明)。
一人の弔問客もおらず、遺品は盗み売りされて、死んだことを笑われ、喜ばれるような、哀れな最期を迎えたのは、彼自身だったのである(そして、マーレイ老人が諭したとおり、更に過酷な死後の世界が待っている)。
スクルージは、この救いがない未来をあえて見せられたことで嘆き崩れる。
そして、これまでの生活を見直し、毎年クリスマスを尊ぶ事を誓い、心を入れ替えるから、このような未来は変えられるのだと証明して欲しいと、未来の精霊に泣きつく。
しかし、未来の精霊は何も語らず、スクルージは精一杯の力で彼が消え去るのを引き留めようとしている内に、目が覚める。
結末
目覚めたスクルージは、自分が健常である事や、売り捌かれていたカーテンを始めとする家具も残っていることで、まだ「未来」ではなく「現在」であり、希望があることを確信し、狂喜乱舞する。
改心した彼は、何か善行をしたいと願うも、何から手をつけていいかわからなかった。
まずは、窓から通りすがりの少年に「今日は何日だね?」と問うと、少年は「クリスマス当日だよ」と答えた。精霊達は、一晩で三人ともやってきて、彼に様々な光景を見せていたのだった。
それならと、少年にお使いを頼み、クラチット家へティムの身体の2倍はあろう大きさの七面鳥を「匿名で贈る」事を決める。
この際に、少年に対して「お使いをしてくれたら1シリングあげる、5分以内なら半クラウンだよ(2シリング6ペンス相当=約2,083円)」と約束し、その通り半クラウン支払っているので、守銭奴だった彼の変貌ぶりが早くも見られる。
買ってきてもらった七面鳥は歩いて持って行くには重いので、自ら運賃を払って馬車で運ばせると、街中へ出向き、前夜に病院の救済募金へ訪れた紳士と出会う。
スクルージは彼に対して、素直に自らの行いを恥じて謝罪した上、過去の分を含めて多額の寄付を行うことを約束する。
夜には、冷たく断った甥のフレッドの家へ赴き、彼の家族達と温かい夕食を取る。
翌日、18分30秒間遅刻して出勤してきたロバート・クラチットに対し、以前のように冷酷な叱責をするフリをして、直後に「君の賃金を上げようと思う。君の家族の救済もしたい。さあ、まずは石炭をたくさん買ってきておくれ。そして、暖かい部屋でワインを飲み交わしながら、ゆっくり相談しようじゃないか。」と語り出して、その変貌ぶりでクラチットを驚愕させる。
未来のクリスマスの精霊が見せたような死の結末を迎えたのか、或いは未来が変わったのかは原作では記されておらず、その後スクルージがどのくらい生き長らえたかは不明。
わかっているのは、スクルージの変わりようが一部の人々には滑稽に見えたが、彼自身は全く気にしなかったこと(変わった彼を笑うものこそ、愚かだと知っていたから)。
ティムの難病が完治して、スクルージがティムにとって第二の父親を呼べる存在になったこと。そして、スクルージが周囲から「ロンドンで一番クリスマスの楽しみ方を知っている人」と言われ親しまれる存在となったことである。
そして、ティムの発した言葉と同様に、神に対し、全ての人々に祝福をお与えくださいますように、という一文で物語は結ばれる。
クラチットへの賃金
原作において、唯一の従業員であるクラチットへの賃金は「週に15シリング」と記されている。
1ポンド = 20シリングなので、1ポンドにも満たない。
第一次世界大戦前の大英帝国時代であるから、1ポンドは現代の日本円でざっくり20,000円前後としても、週に15,000円しか支払っていなかったわけである。
それでいて、冬場に石炭を使うことに対し、解雇をほのめかしているので、相当な守銭奴であったことがよくわかる。
関連タグ
スクルージ・マクダック:ディズニーキャラクター。ドナルドダックの伯父。エベニーザをモチーフとして創作されており、『クリスマス・キャロル』を原作にしたディズニーのアニメ作品『ミッキーのクリスマス・キャロル』では彼がエベニーザ、ドナルドがエベニーザの甥フレッドをそれぞれ演じている。とはいえ別の作品で「マクダック」として登場する際はドケチではあるが使うとなればキチンと使うし、孫の三兄弟や甥っ子のドナルドにはつい甘くしてしまったり、稼ぐ手段も真っ当で無ければならないという哲学を持っているなど財布の紐が硬いで済む範囲の人物