概要
『シルヴァリオサーガ』の第一作『シルヴァリオ ヴェンデッタ』の主人公。
やる気なし、金なし、職業なし。 三拍子揃った本作の主人公。
やる時はやれるが、長い戦場経験がトラウマで、徹底して追い込まれないと本気を出さない。
反面、性格に似合わぬ戦闘力は過去の熾烈な経験に裏打ちされたもの。
とりわけ暗殺や奇襲など、有無を言わせぬ戦い方に対して偏った適性を備えている。
大虐殺時に逃げ出した経験があり、軍から見れば脱走兵という立場。
自分の存在が帝国にバレることを極度に恐れ、義妹のミリィとささやかな日常を過ごしている。
おかげでわりとシスコン気味。
過去にヴァルゼライドの戦闘を見たことで、“英雄” とは “怪物” の同義語であると悟った。
自身も星辰奏者 (エスペラント) として強靭な肉体を持ちながら、自分の力を欠片も信じていない。
人物
極論すると「矛盾した性質を持ち合わせたきわめて面倒くさい人物」
スラム出身の孤児という来歴もあってか、世界の命運を背負う覚悟や大義などというものとは無縁であり、軍属になったのも「軍事国家であるアドラーなら、軍人になれば食うに困らない」という程度の物。また基本的には自堕落であり、軍を脱走してからツケ上等で義妹のヒモという、わかりやすいダメ人間。
反面地頭はむしろ優秀な部類であり、手札が多すぎるあまり嵌れが強いが外すリスクが多い己の星辰光を的確に使いこなす。また「生まれが屑な奴はどうあがいても屑である」など、環境が与える人格への大きな影響を悟っているなど、ある種の達観的な思考も持つ。
加え、意識そのものはむしろ高い部類であり、先述の思想も「人として当たり前のことを意識してできれば、そういった差を含めても人並みにはなれる」と考えている。アドラーにおいては比較対象にすることもないだろう、クリストファー・ヴァルゼライドを比較対象として考えることができるなど、「頑張る」「人としての真っ当さ」「立派な価値観やあり方」そのものを直接否定することもなく、むしろそういったことができる立派な人間こそが優遇されるべきだと断言できるぐらいには「客観的な道徳心や倫理観」もしっかりとしている。
反面それを日常で実現する意志力は持ち合わせておらず、尻を蹴っ飛ばされないと頑張れない怠け者。そのため意識の高さも「それができない俺は落伍者」という結論に収まってしまう。
戦闘においても「手数と爆発力に長けるが持続力に劣る」点から「相手を激怒させたり油断させたうえでのだまし討ち」が大前提。そもそも正面からの真っ向勝負は能力的にも気質的にも好まないくせに本編では上澄みレベルの存在やら、そもそもカテゴリーとして上位互換の相手とばかり戦う羽目になっている悪い意味での悪運の持ち主。軍属時代も能力が優秀だからこそ難易度の高い仕事が回され、相性が悪い相手とかち合ってもなんだかんだでかいくぐってしまうせいでドツボにはまっていた模様。
総じて「当人の持つ各性質がまったくかみ合ってない」といえる人物。もし彼が完全に開き直って当たり前のように自分を正当化して善人をなじれるような悪人だったら。もしくは主人公のように一生懸命頑張ることが人より多くできるのなら。そういった自己肯定力を得られなかったのが最大の不幸といえる。
反面後述するが能力そのものは優秀であり、精神性も身内に対しては本当にやばい時血反吐を吐いて狂い啼くことになっても頑張って成し遂げるであるため、仲のいい者たちからは総じて高い評価を持っている。ただ当人は自己嫌悪の塊なので、その高評価を分不相応とみなしている。
経歴
上述の通りスラム街出身の孤児であり、細々と孤児同士で寄り集まって生きていたが、まとめ役といえる姉のマイナが失踪したことから散り散りになり、食いつなぐために星辰奏者の資質があったことから軍に属することになる。
後述の星辰光と当人の精神性が良くも悪くもかみ合った結果、貴種であるアマツの一人に見いだされ、のちにその孫娘であるチトセ・朧・アマツの副官として、佐官待遇にまで到達する、一種のシンデレラストーリーじみた成功を収めている。ゼファー自身その気質もあって、羨みながらももあこがれていた。
だがしかし、彼の任務は基本的に「暗殺」であり、またそれを成功させるために悪辣な手段すら取れてしまう性質を持ってしまったことが彼の不幸を加速させる。
上述の精神性を持つ彼は、暗殺という行為そのものになじめず精神が摩耗。かといってほかの手段を得るために頑張るということもできず、現状に甘んじる状態。さらにチトセ自身が精神的に余裕がなくなっている時期だったことからすれ違いが加速。加えて任務の一環で、対立派閥が抱える研究者を家族ごと暗殺する任務を与えられてしまい、その研究者家族の人間性が彼の心を癒してしまったことが彼の精神をさらに追い込んでしまう。
そして作戦決行のタイミングで様々な非常事態が発生したこともあり、最終的に彼は完ぺきに心が折れてしまう。
そして耐え切れなくなったゼファーは、決意も罪も貫けない自身への嫌悪感、そして物語の英雄や悪役を現実で行える者たちに対する強い恐怖心を覚えた状態で脱走兵となる。
星辰光
狂い哭け、罪深き銀の人狼よ(シルヴァリオ・クライ)
基準値 | 発動値 | 集束性 | 拡散性 | 操縦性 | 付属性 | 維持性 | 干渉性 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
D | A | C | C | C | C | D | A |
本シリーズにおける異能「星辰光(アステリズム)」。
その一つであるゼファーが保有する振動操作能力。
「影響範囲内に存在する、自身の能力と同質の物体に干渉する」性質である干渉性、そして最大出力である発動値が非常に高く、逆に常態としての出力である基準値と持続時間をつかさどる維持性が低く、それ以外は平均値という特化型星辰光。
わかりにくい要素もあるが、要約すると「自分の影響範囲内で発生している振動に干渉して様々な現象を引き起こす」という「手数特化型」の異能。また基準値と発動値の差が大きければ大きいほど瞬間的な出力向上が見込める。
これにより「入念な準備期間で有無を言わさず仕留める奇襲や暗殺」に対する適性が非常に高い。加えて戦闘においても「有効な手札を見出し、その瞬間に一気に出力を高める、格上殺し」が可能という利点を保有。加えてゼファーが「やると決めたらどんな手段をとってでもやる」気質を持っていることもあって使いこなせており、彼が血統主義はびこる当時のアドラーでスラム出身の孤児でありながら佐官待遇になれたのも、この能力により「得意分野で大きな成果を上げ、苦手で分野でもなんだかんだで切り抜けて成果を上げる」ことにつながったことが大きい。
作中では総じて不利なマッチメイクで戦いになることが多いが、「適を油断させたり冷静さを亡くさせたうえで、くみ上げたキリングレシピで一気に仕留める」スタイルで勝利をもぎ取っている。はっきり言えばゼファーは「勝ち筋がある相手を破滅させる」ことに天賦の才覚を持っており、ある意味で当人の能力と極めてかみ合った星といえる。
暗殺任務においては「エコーロケーションで対処の位置やそれをスマートに行使できる道どりを完全に把握し、音響操作でサイレントキリングを成し遂げる」といった形で使用。基本戦闘においては獲物を高周波ブレード化させて切れ味を増すのが基本。
先ほども書いた通り手札が非常に多く、当人がそれを十全に引き出せることから非常に優れた星辰奏者。血統主義がはびこる当時のアドラーでスラム上りが佐官待遇になれるのは伊達や酔狂では断じてなく、続編で強化装備や特殊な強化を受けた星辰奏者、果ては完全上位互換の星辰体運用兵器が出てきてなお「多分ゼファーならなんだかんだで切り抜けるだろうなぁ」とファンから確信されるほど。
反面、前述の「基準値と維持性の低さ」が大きな問題点となる。維持性の低さは手数特化の性質とかみ合いが悪いため、戦闘においては「大量の手札があってもそれをすべて試す時間的余裕がない」ことにつながるため、自己否定心の塊であるゼファーからは信を置けない能力。加えて星辰光は基準値と発動値の差が大きければ多いほど反動が大きいうえ、星辰奏者は出力を微調整する能力がないため、ひとたび発動値に到達すれば使用後にのたうち回るほどの激痛が走ることになる。同レベルの出力格差を持つ星の保有者はなんだかんだで平然とできるだけの意志力を持っているが、ゼファーは「やると決めたらやれるけどそれ以外はやらない」気質なため、この点も非常に評価が低い点。
これらの性質上、「遠距離戦の押しつけ」「圧倒的物量による圧殺」「接近することが自殺行為」な類とは相性が悪い。だが公式や本編で幾度となく潜り抜けており、彼は能力・技量・戦術全てがかみ合った戦闘巧者と化しているが、これが原因でドツボにはまったプッツンしてへし折れた果てが脱走兵。
加えてこれらの性質上、外道手段すら行使する必要に迫られる事態が多々あったことも自己嫌悪の加速に一役立っている。作中では集団戦において「殺したの首を爆発させ、動揺した一瞬のスキをついて追加で首を刎ねる」というキリングレシピがあり、しかも何度も使った経験がある模様。こういった行為の度に自己嫌悪と激痛にもだえ苦しんでおり、能力名の通り自らを呪い狂い啼く羽目に陥っている。
ちなみに星辰光の名称と詠唱は神話伝承と当人の心情などを組み合わせたモチーフになっており、アドラーの場合は基本的にギリシャ神話から引用される。
ゼファーの場合はゼウスに狼の姿に変えられた傲慢なアルカディアの王「リュカオン」がモチーフになっており、そこに己自身の情けない嫉妬心と自己嫌悪をこれでもかと盛り込んだ、後ろ向き全開の詠唱となっている。
詠唱
創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星
輝く御身の尊さを、己はついぞ知り得ない。尊き者の破滅を祈る傲岸不遜な畜生王
人肉を喰らえ。我欲に穢れろ。どうしようもなく切に切に、神の零落を願うのだ
絢爛たる輝きなど、一切滅びてしまえばいいと
苦しみ嘆けと顎門が吐くは万の呪詛、喰らい尽くすは億の希望。
死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず塵(ごみ)と化せ
我が身は既に邪悪な狼、牙が乾いて今も疼く
怨みの叫びよ、天に轟け。虚しく闇へ吼えるのだ
超新星(Metalnova)───狂い哭け、罪深き銀の人狼よ(Silverio Cry)
運命に紛れ込んだ小さな砂粒
ここまでの段階でも壮絶な人生を送ってきた彼だが、彼はこの作品、すなわち「正しさという概念がもつ光と闇」をコンセプトとする作品の主人公。勝者の裏側に潜む敗者として運命に巻き込まれてしまう。
上述の通り彼はまごうことなき脱走兵なのだが、其れとは全く関係のない理由で地球の在り方すら左右しかねない事象の重要なファクターとなってしまう。付け加えるならそれまで意図的な仕込みは何一つないのに、その事態の重要人物ばかりが身内といえる環境であり、主人公補正の負の側面を叩き込まれているかのような来歴となる。
だが同時に、彼がファクターとなってしまった理由こそが、その運命の歯車を壊す決意を彼に与えることとなる。
……が、結果として太陽系消滅の危機を未然に防ぐ。その後も地球の命運を左右する事態に、負け犬としての行動がカウンターとなる安全性が高いファクターを生んでいた。など、世界の在り方すら左右する大いなる運命の歯車に対し、それを砕く小さな砂粒として常に多大な貢献を果たすことにもなっている。
何が恐ろしいかというと、それらは「書いている最中に影響がそこかしこからポップして導かれるようにこの形になった」と、原作サイドが絶句するレベルで運命力に振り回されていること。創作物というのは往々にして「キャラクターが勝手に動く」という場合があるが、その典型例。付け加えるなら砂粒誕生に対する過去の行動は、間違っても英雄譚の主人公じみた光り輝く前向きなものではなく、むしろ真逆の情けない後ろ向きな行動である。
そんなこともあり、原作のファンからは「また狂い啼いてる」という形でネタにされている。来歴が同贔屓目に見ても同情はしても問題があり、人間性からしてダメ人間。加えてどんだけひどい目にあってもなんだかんだで何とかしてしまうという信頼がこれにつながっている。
関連キャラ(他作品含む)
対極にして相似。ゆえに不倶戴天の怨敵となった英雄。
「やると決めたら徹底的にやってしまう」「そんな自分を自己嫌悪しており、周囲の高い自己評価が理解できない」「スラム上りの孤児でありながら、血統主義はびこるアドラーでのし上がってきた」など、箇条書きマジックじみた相似点を持ちながら「国家や国民全体の幸せを尊び、未来を見て進む光の雷霆」とかしたヴァルゼライドとは違い、「身内の小さな幸せを大事にし、過去を振り返り守る闇の冥王」となり果てたゼファーはまさに対局。
割と来歴や性質が似通っている他作品のキャラクター。
ただし両者はその理想が「正義の味方」なので、そんな存在を羨みあこがれることはあっても選ぼうとも思えないゼファーが直接会えば、間違いなくさらに自己嫌悪に浸ることは確定的に明らか。
関連タグ
インモラル:シルヴァリオサーガにおける彼の代名詞。