概要
沖縄の国頭郡羽地村に伝わる伝承で語られる棺(棺桶)の変化(妖怪・マジムン)。
漢字表記は棺のマジムン。文献によっては山羊マジムンとの名前で紹介しているものもある。
古い棺の板切れなどが美女や牡牛、山羊などに化けて人を襲うとされる一種の付喪神、或いはそれに宿った邪悪な精霊だと思われ、そのような話は沖縄の各地に伝わっており、その1つの例として次のような話があるという。
昔、羽地間切の真喜屋に住んでいたある男が、深夜に隣の稲嶺村から用事で帰る途中で目の前を真っ白い山羊が通り過ぎるのを目撃した。不審に思った男は山羊を追い掛け回した末に浜辺まで追い詰め捉えると縛り上げた。
そして山羊をその場に残して帰宅した男は出迎えた妻にこれまでの経緯を話すが、不思議な事に話し終えるのと同時に男は高熱を出してそのまま死んでしまった。
翌朝の未明、妻が浜での山羊の様子を見に行くと、浜には夫が山羊だと思い縛り上げた奇怪な棺の板切れが縛られていたという。
また、今帰仁村には美女に化け青年を誘惑した話が伝わっており、青年の友人がその様子を垣間見た所、青年と話していたのは人間ではなく目玉が飛び出た舌の長い天蓋の様な化け物であった。
友人は何とか青年を説得し女を短剣で突き刺すと、女の棟から蛍火の様な青光りする血が迸り絶命し、翌朝改めて女の死体を確認すると、古びた棺の板切れに中央に短剣が刺さっていたという。
そのほか、羽地村源河と大宜味村との境で見ず知らずの美しい女性が男性に執拗に付き纏い知らない場所へと引き込もうとするので、男は必死に抵抗し続けていたが、そのうちに夜が明けると女は一片の棺の板となっていた。
これこそが先ほどの女の正体ではないのかと思った男はすぐさまそれに火を付けて燃やした所、陰湿な悪臭を伴った油が滲みでてきたという。
余談
琉球では「龕(がん)」と呼ばれる装飾された輿に収められており、牛馬に化け人を襲うという。
詳細は →龕の精
また、骨壺が山羊に化けて人に害を成す話も伝わっている。