概要
「ファイティングファンタジー(TRPG)」とは、ゲームブック「ファイティングファンタジー」のルールを用いた、TRPGのルールブックである。のちにマーク・ガスコイン、ピート・タムリンにより製作・発刊されたTRPG「アドバンスド・ファイティングファンタジー」とは異なる。
日本版は、創元推理文庫「スーパーアドベンチャーゲーム(ゲームブック)」から、「ソーサリー」の次に発売された。
タイトルは、単なる「ファイティングファンタジー」だが、ゲームブックの同名シリーズと混同するため、注意が必要。
一応、日本版正式タイトルは「スティーブ・ジャクソンのファイティング・ファンタジー」と、作者の名前と、途中に「・」が付けられており、差別化はされている。
本項では、ゲームブックのシリーズと区別するため、後ろに「TRPG」と付けて呼称する。
内容
ルール面は、技術・体力・運の、三つの能力値と、それに伴う戦闘ルールと、ファイティングファンタジーと変わりはない。
ただし、本書では魔法が最初から設定されておらず、魔法を使う系のキャラを作り、使う事が出来ない。「すり」などができるようにルールで決められているが、単に普通に剣や武器で戦うキャラクターしか作れないのだ。
※ただし、それまでに発売されていたファイティングファンタジーのゲームブック、および「ソーサリー」のシステムを組み込む事は可能。
これは、あくまでも「ゲームブックでTRPGに興味を持った者に対しての入門書」として本書が位置付けられているためであり、まずは普通に戦士タイプのキャラを作り、魔術を用いる事無くプレイして欲しい……という狙いがあったためと思われる。
元のルールがシンプルなため、上記のように、魔法を使えるようにする事は容易である。
シナリオ
本書内には、初級者向けと上級者向けの、二本のシナリオが入っている。
願いの井戸
井戸の底にある、小規模の地下迷宮を探索する、というもの。
小規模ではあっても、書斎があったり、ミイラのある墳墓があったりと、飽きさせない内容になっている。
難易度は低く、登場モンスターもそれほど強いものはいない。また、解くべき謎なども無いため、単に「迷宮に入って出てくる」だけでも楽しめる。
設定
かつて、貴族や王子たちが訪れ、金貨を投げ入れて願いをかなえたと言われている井戸。
その底には、今まで投げ込まれた金貨が溜まっていると伝わっていた。そして長い年月が経過して井戸が枯れると、近隣から一攫千金を企むトレジャーハンターたちが集まるように。
しかし、井戸の底には予想以上の危険が待ち構えていた。
迷宮の入り口は干上がった枯れ井戸であり、ロープを下ろして底に降り立つと、洞窟のような通路があり、その先に扉がある。そして扉を開くと、内部に小規模の地下迷宮を発見する。
登場人物・モンスター
- スラッシュベアード
最初の部屋の片隅に、机と椅子を出して座っているドワーフ。机の上に自身の非常に長い髭を伸ばし、その中に小鳥を住まわせている。冒険者たちと出会ったら、自身が携えている袋から木の実を出して勧めてくれる。これを口にするのを拒まれると、会話してくれなくなる。が、1/6の割合でその木の実は腐っており、運悪くそれを食べると消化不良を起こす。迷宮の情報をいくつか知っている。
- ナンドラス
迷宮の入り口に近い部屋に住む、魔法使い。その部屋は最初は空だが、誰かが入ると一分後に、本棚や暖炉、家具が、本人と共に姿を現す。邪悪な人物ではなく、誠実に礼儀正しく接したならば助言やアイテムを渡してくれる。
- ミイラ男
ナンドラスの隣りの部屋の、墳墓に葬られているモンスター。ナンドラスはこのミイラ男に、色々迷惑を掛けられているらしい。
- カメレオン・サーペント
ある部屋で遭遇するモンスター。あらゆる存在にそっくりに擬態する事が可能な爬虫類で、アイテムに化けていた。
- クモの王
本シナリオにおける(一応の)ラスボスのようなモンスター。人間の顔に、巨大なクモの胴体を持ち、飾り立てられた部屋の玉座に座っている。部屋に入ってきた者に対してはひれ伏せと命じ、従わない者にはクモ糸で拘束する。その姿に違わず、好戦的。
シャグラットの危険な迷路
黒エルフの老婆・シャグラットが購入した土地にある、地下迷宮を探索するというもの。
「願いの井戸」より規模は広く、その分登場する迷宮内の仕掛けやモンスターなども、よりバラエティに富んでいる。ただし、上級者向けとはいえ、「願いの井戸」同様に、難易度はそう高くはない。
設定
老女の黒エルフ・シャグラットは、財宝が溜め込まれていると聞いた地下迷宮の存在を聞き、それが存在すると思しき一帯の土地を購入していた。そして、度胸試しと銘打ち、冒険者を集め、迷宮内の探検と財宝の探索とを依頼するようになった。それを聞いたある冒険者たち=プレイヤーたちも、財宝を手にしようと、この迷宮に挑戦するのだった。
迷宮の入り口は、オークの木の中に隠されている。オークの太い巨木に登ると、内部が空洞になっており、ロープがそこに垂らされている。そのロープを伝い降りると、地下迷宮の入り口……四方に伸びる十字路の中心部に降り立つ事が出来る。
登場人物・モンスター
- シャグラット
迷宮の持ち主である、黒エルフの老婆。迷宮内で入手した財宝の一割と引き換えに、迷宮内の探索を依頼する。
- マルドゥーン
迷宮の北の部屋で遭遇するレプラコーン。この世界のレプラコーンという種族の特性に違わず、悪戯好きで、プレイヤーに対しても悪ふざけの延長の魔法をかけてくる。ただし、邪悪というわけではなく、わずかだが迷宮内の情報をもたらしたり、アイテムをくれたりもする。
- プーキー
二人の兄弟、グランティーとハンギーとともに、迷宮内で酒場を開いているドワーフ。
店の位置は、迷宮の北東端。そのメニュー内容はここを参照のこと。
- リッパー・シャーク
全部の壁が鏡張り……と思わせ、床は水という部屋に住む、サメの一種。雌雄のつがいと多くの子供が存在し、プレイヤーと同じ数だけ登場する。
- バーナバス
長く髭を伸ばした、乞食の老人。金貨を恵んでくれとせがむ。その言葉の真偽に関しては……。
- 取り替え子
迷宮内の一室にて遭遇する、人間の赤ん坊。しかし赤子に見えるのは外観だけで、実は様々なモンスターに変身する事が可能なモンスター。この変身能力で、自分に近づいた者たちを襲撃した。作中では狼男、ゴブリン、火炎魔人に変身した。
- 魔法使いの弟子の少女
ある部屋で居眠りをしていたところに、プレイヤーたちと遭遇する。長い金髪の美しい少女だが、弟子としては出来が悪く、しかも大食い。食料と引き換えに迷宮内の情報を教えてくれるが、無尽蔵な底なしの胃袋を持っている。
- ツリー・グース
(トリー・グースと表記されている)河川で分断された、とある部屋の対岸に生えている木から生まれたガチョウのモンスター。その姿は「赤い体色のガチョウ」。緑色になって実らせている木の実の一つに誰かが触ると、五個の木の実が一気に孵化。空中に舞い上がり、襲い掛かってくる。ある程度ダメージを食らうと、羽根が傷つき飛行不可能になる。
- サラマンダー
燃える石炭が敷き詰められた部屋に現れる、火トカゲ。あるアイテムで会話が可能。
- ジャイアント・トード
ある部屋で遭遇する等身大サイズの巨大ガマガエル。自身の冷たい肌で、卵を抱いていた。
- コカトライス
上記ジャイアント・トードが抱いていた卵から生まれたモンスター。いわゆるタイタン世界における「コカトリス」で、「鶏の頭部と胴体を持ち、棘の生えた蝙蝠の翼と、長い蛇の尻尾を持つ」という外観を有する。「蛇の王」の別名を持つため、ベースは蛇のモンスターらしい。ただし、大きさは普通の鶏および蛇と同程度。
石化能力は無いが、有毒の息を持ち、嘴で突く事で相手の体の一部を麻痺させる事が可能。腕ならば物が持てず、足に受けたら歩けなくなる。頭部や心臓に受ければ即死になる。
弱点は鏡で、鏡に映った自身の姿を見ると、即死する。
- 虎男
いわゆる獣人。ある部屋のベッドで寝ていた。赤毛の男で、プレイヤーたちに気付くと襲い掛かる。傷を負うと変身して本性を現す。
- アナトール・ラー
邪教の僧。銀のブレスレットを持ち、その能力でゾンビの群れを操っている。また、襲い掛かろうとしても強制的に相手をテレポートさせてしまう。ただし、魔法のお守りに弱い。
- 仙人
迷宮内の洞窟に近い部屋に住む、杖を突いた老人。本名は発音不可能で、質問してもはぐらかすのみ。迷宮内の友人の元へと行きたがっている。
- モーフィール
迷宮内の一室に住む魔法使い。元の部屋から、さらに奥へと引っ越している。上記仙人とは友人。引っ越し先では、電撃のバリアーを張った奥に、家具の揃った部屋を持ち、そこに住んでいる。
- ドラゴン
迷宮の奥、端の方に住む。宝を多く有しているが、強力なモンスターの為、戦うと手ごわい。潜んでいる部屋の手前は、溶岩の流れる断崖絶壁になっている為、赴くだけでも困難。
※なお、のちにファイティングファンタジーの世界設定書「タイタン」において、上記二つの迷宮が存在するのは、タイタン世界の大陸の一つ、旧世界である事が判明している。