概要
丈夫な布や皮で拵えたベストの裏地に、金属や革の小片・小札を鋲などで裏打ちした構造の鎧。
紀元は不明だが、スケイルアーマーやラメラーアーマーの派生形、もしくは発展型と思われ、中世から近世にかけて世界各地で使用された。また本形式の中には小型の小札だけでなくやや大きい金属の「帯板」を使用している物もあり、こちらはバンディッドメイルの派生形とされる(ただし、バンディッドメイルは実在が危ぶまれている鎧である。当該記事も参照)。
構造
いわば、「スケールやラメラーの小札や小片といった金属板を、鎧の表面ではなく、内側・裏地に縫い付けた」構造をしている。鎧よりも「服」に近いとも言える。
表面が革や布のため、高価なベルベットや金箔などで外装に美しい装飾を施した高級品もある。
12世紀末頃まで主流を占めていた「コート・オブ・プレート(板金を、丈夫な革や布地の裏に留めた鎧)」に似ているが、ブリガンディンはその発展形といえるものである。
鎧としての長所は、装着時の動きやすさと、破損してもさほど技術を労せずに修復できる高いメンテナンス性。実際、戦場に不可欠な機能と耐久性を併せ持つ防具として、長く使用された。
また、当然ながら裏打ちされた金属板により、布地のみのクロース、革地のみのレザーアーマーより、高い防御力を有していた。
防具の製造技術が発展し、ほぼ全身を強固に防護するチェインメイル、およびプレートアーマーが作られた後も、騎馬による移動を行わない歩兵や軽装を好む騎士、兵士などは、依然としてブリガンディンを愛用していたようである。
モンゴルやシベリアなどの寒冷地では外套型のモノが流行し、防寒着の役割も兼ねていた。
中国では明代の中期以降、それまで甲冑の主流形態だったラメラーアーマー(札甲)やスケイルアーマー(魚鱗甲)に替わって、ブリガンディンと同様の形式である「綿襖甲」が広く着用されるようになった。
語源、その他
「ブリガンディン」という名称の語源は、一般的に「山賊」や「追い剥ぎ」を指す「ブリガンド (Brigand)」 が由来であるとされている。
ここから、ブリガンディンを「山賊の鎧」と訳す例が散見されるが、これは正確ではない。元来ブリガンドは「歩兵」あるいは「雑兵」を表す言葉であり、あえて日本語に言い換えれば「兵士の鎧」とするのが語訳として的確といえる。
またルネサンス期の古典美術でも、位の高い騎士が色鮮やかなブリガンディンを纏った姿が描かれている。それらの多くは、山賊を始めとした「零落したイメージ」とは程遠いものである。