概要
アーマー(Armor)には本来『全身を覆う甲冑』という意味があり、RPG等の装備品として登場する『胴体のみを覆う防具』をアーマーと称するのは厳密には誤りである。
正式なプレートアーマーは
- 頭:ヘルメット(Helmet)
- 喉:ゴルゲット(Gorget)
- 肩:ポールドロン(Pauldron)
- 肘:コーター(Couter)
- 腕:ヴァンブレイス(Vambrace)
- 手:ガントレット(Gauntlet)
- 脇:ベサギュー(Besague)
- 胴:キュイラス(Cuirasse)
- 腰:フォールド(Fauld)
- 尻:キュレット(Culet)
- 腿:キュイッス(Cuisses)
- 膝:ポレイン(Poleyn)
- 脛:グリーブ(Greaves)
- 足:サバトン(Sabaton)
からなる。
胴体部分のみの板金鎧はキュイラス、あるいはブレストプレート(胸あて)のことであり、プレートアーマーに特殊な兜や籠手・脛当てを併用することは(本来は)出来ない。
こうした重武装は軍馬に跨り戦場に赴く者の装いであり、ファンタジー系の作品においてモンスター退治やアイテム収集のためにダンジョン探索を行うことには全く向いていない。
が、敢えてそのあたりの問題を力技で押し切って見せてこそ、板金鎧を装備できる戦士系ジョブといえるのかもしれない。
また一部の作品では、兜・篭手・靴までを含む完全武装を『フルプレート』と呼び、胴鎧と肩周り・腰周りのパーツで構成された鎧を『プレートアーマー』『ハーフプレート』と呼ぶこともある。
兜・篭手・靴が別扱いになっている場合はこのパターンと考えるのが自然だろう。
『ブレストプレート』と『フルプレート』の中間的な位置づけとなり、戦闘と探索の双方に対応可能なバランスの良い装備といえる。下記余談の項目も参照。
史実でも探検隊の海兵士官等が装備しており、徳川家康に譲られた物が日本にも現存していたりする。
なお、たまに「実際のフルプレートを着込んだら重さで立ち上がることなんて出来ない」と言われるが、厳密に言うとこれは誤り。
実際には全身に重量が分散されることにより、鍛錬を積んだ者ならば、十分に動き回ることができた(何しろ当時の騎士は扱う武器の性質上、相当な筋力もつけねばならなかった)。15世紀頃に書かれた戦術指南書には全身甲冑を着込んだ状態での泳法や馬への飛び乗り方、さらには宙返りする姿の挿絵まで描かれている。ただし(当たり前であるが)これを出来たのは当時でもごく一部の人間に限られていた。
そして馬を降りての長距離の行軍等はできなかったし、全身を金属で密閉されてるようなものなので排熱も困難だった。直射日光に当たれば鎧が焼け、中の温度も上昇するので、火傷や熱中症のリスクもあった(いわゆるサーコートはこれを防ぐためのものでもある)。
重さで動けなくなるという誤解は、主に戦乱期が一段落してから盛んになった馬上槍試合や模擬戦闘で用いられたプレートアーマーの一種である『トーナメントアーマー』と混同したことによるもの。
馬上槍試合はスポーツとはいえ、猛スピードの馬に乗った状態で木製の槍を正面から互いに激突させ合う危険なものであったため、必然的に装甲は厚くなり、どうせ正面しか向かない上に可動すると逆に危険ということで関節部は簡略化、首は正面を向いたまま固定され、それでも不安なので追加の装甲板を取り付け・・・とやってる内に鎧はゴテゴテと重量を増していったのであった。
トーナメントアーマーの中には馬を降りるとそこから一歩も動けない物もあり、疲弊した騎士が落馬して動けずそのまま死んでしまったこともあったという。
当初から儀式的な意味合いの強かったプレートアーマーはマスケット銃などの火器の登場によって完全に時代遅れのものとなってしまった。プレートアーマーの防御力をマスケット銃は容易く貫通してしまうので、全く意味が無くなったのである。
しかし、他の防具と比べると良質の鉄板が火器を防御する能力が期待出来たのは確かであり、装甲を厚く曲面的にする代わりに装甲部の面積を減らして重量増大を防ぐ方向へと進化していき(キュイラス、ブレストプレート、ハーフプレート)、十九世紀初頭のナポレオン戦争の頃には胸と腹だけを防御する胸甲と鉄兜だけになってしまった。
十九世紀初頭の球状の鉛玉を前装式の滑腔銃身から撃ち出していた時代までは「遠距離からの銃撃なら防げる」胸甲は指揮官用や重騎兵用として命脈を保っていた。
しかし、十九世紀後半に其れまでとは段違いの速射性と命中精度を有するボルトアクション式ライフル銃が量産されるようになり、二十世紀初頭の日露戦争で両軍がライフル弾を連射出来る機関銃を投入した事で止めを刺された。
第一次世界大戦では「ライフル銃や機関銃が使えず拳銃とシャベルでの接近戦が多発する」塹壕への突撃を担当する特殊部隊専用となり、戦車という移動式の盾兼大砲が普及した第二次世界大戦期には鉄兜を残して絶滅してしまった。
以後は日本の甲冑と同じく儀礼用ないし装飾用として使われるようになる。古い洋館にプレートアーマーが置いていたら動き出すのはお約束。
余談
ゲームでは、プレートアーマーは戦士・騎士に類する職業専用の装備とされる事も多いが、一部TRPGなどでは、同じ戦士でも「機動性を重視するバーバリアンは使用不可」といったルールが定められている事もある。
また、どうしても重量のため動きが鈍るが、同時にその防御力の高さも魅力ゆえ、上記ハーフプレートのように、機動力・敏捷さを犠牲にせず防御を高める方法が模索される事も少なくない。
ここから、一部ゲームでは「リングジョイント・プレートアーマー」のような、派生型も登場している。これは「ブレストプレートに、手足や背中などを守る薄い鉄板をリングで接続した、簡易型のプレートアーマー」であり、安価だが、当然ながら防御力は大幅に落ちる。