概要
1997年35号から1998年44号まで『週刊ヤングマガジン』にて連載されていた古谷実による漫画作品。
全四巻。
3日前に母親が亡くなってしまい、母の再婚相手である義父に見切りを付けた中学生の兄・すぐ夫と小学生の弟・いく夫が家出して東京へ向かい、そこで出会ったイトキンこと伊藤茂やカズこと進藤カズキ、吉田あや子と共に暮らす居候生活を描いている。
前作の行け!稲中卓球部と同様基本的にはギャグ漫画でギャグのキレやクオリティは稲中から更に上がっており、画力も格段に向上している。
一方で娯楽作品の趣が強かった前作と比べると「人生って何?」というテーマが根底にあり、時に面白おかしく、時に真面目にその問いに答えようとしたり、家庭崩壊や家出、毒親、同性愛者、近親相姦、売春、自殺などが何気なく登場するシリアスな一面もあるのが特徴。
後のヒミズやシガテラ、わにとかげぎすに通ずるものがある。
登場人物
- 先坂すぐ夫
14歳。一応メインの主人公。
物語冒頭で母親が亡くなったことをきっかけにいく夫と家出し、あてもなく東京に出てきた(その際の所持金はわずか20円)。
性格は尊大な自信家でいく夫から「プライドだけで生きている」と言われるほどプライドが高い。野球が好きでグローブに一度も手を通すことなくプロになることを夢見ており、希望の枠はDH。
何かと偉そうな発言や上から目線が目立つがこれらの態度はこの年頃特有の根拠のない全能感によるところが大きく、実際に誇れるだけのものは何もない。おまけに現実を見ていない上に自分を過大評価しがちで「大したことない」という現実を突きつけられると意識を無理矢理宇宙にとばして問題を超ミクロ化するという情けないところもある(作中でも「何て腰抜け」「モロ現実逃避」とこき下ろされた)。
プロを目指している割りに野球の実力もからっきしでイトキンのハエが飛ぶほどのヘロヘロボールに三振を取られ、周りに満場一致で『才能無し』に手を挙げられるほど下手くそ。何故か中学に通っていた頃は野鳥研究会に所属していた。
イトキンほどではないにしろダメ人間であり、イトキンからも「かなりの社会不適合者」と称された。ただし全く何もないわけではなく、打撃に関してはプロから羨ましがられるほどの才能があり、商店街同士の草野球大会では完全なまぐれとはいえ特大のホームランを打っている。
他にも女子レスラーと喧嘩して勝つ中学生離れした腕っぷしを持ち、人を気絶させるツボを心得ているのか一発で人を気絶させるシーンが数回あった。
性格に関してもイトキンよりは真面目でちゃんとしている。
過去の様々なトラウマから女性、ひいては人間不信の気があり、普段の自信家な態度とは裏腹に「人は絶対裏切る」と溢す繊細さも隠し持っている。
また、先端恐怖症で自称・三つめの目イタイイタイ病。
- 先坂いく夫
すぐ夫の弟で小学三年生。
兄とは真逆に真面目で礼儀正しく、至って常識人。
すぐ夫の言動に振り回されがちで呆れたり不満に思うこともあるが、なんだかんだ兄が大好きな良い子。
その性格故に作中でも一二を争うツッコミ役で精神年齢も兄やイトキンよりよっぽど大人であり、同じクラスの保田みかこからは「落ち着いてるし頭いーし何かお兄さんみたい」と称された。そのため意図的にボケることはほとんど無い。
当初は兄やイトキンと同じくホームレスだったが吉田家に居候するようになってからは学校に通えるようになった。
ホームレス時代からの付き合いであるカズキのことを「カズちゃん」と呼んで慕っており、仲が良い。
先述のみかことは告白されて恋人関係になるが、カズキのことを見て一瞬で好きになってしまったため破局した(ただしその後も友達としての付き合いは変わらずあった様子)。
- 伊藤茂
通称イトキン。先坂兄弟が東京に来て最初に出会った少年。
児童養護施設で育てられた孤児で脱走した現在は窃盗や盗んだ物を売り捌くことで生活しており、アパートの空いている一室に勝手に住んでいる(後にホームレス)。
その身の上故か自分の正確な年齢が分からないらしく、自己紹介の際に「多分14歳」と語っている。
辮髪に背中と両肩に入った刺青がトレードマーク。人相が悪いこともあっていかにもなチンピラに見えるが、外見に反して喧嘩や腕っぷしはかなり弱く、性格も口が達者な小心者でビビり。他にもスケベ、バカ、カナヅチ、嘘つきと弱点や欠点が多く、本作に登場するダメ人間の筆頭。
未成年だがシンナー中毒者で喫煙もしており、吉田家に居候するようになった後も窃盗や喫煙は度々している。
一方で夢見がちなすぐ夫と比べると今まで一人で生きてきたためか日和見ながら現実的な考え方をすることが多く、序盤で働き口を探そうとするすぐ夫に対して「自分達の年齢で雇ってくれるところはない(あれば自分がやってる)」と正論をぶつけている。
すぐ夫からは手下呼ばわりされたり軽んじられることも多いが実際にはお互いに友情を感じており、最終話でそのことが分かる。
次回作であるグリーンヒルでは大人になった彼と思われる伊藤という床屋を経営する人物が登場している。
- 進藤カズキ
すぐ夫達が出会った家出少年(ただしすぐ夫が言うには「いずれ家に戻る人種」とのこと)。15歳の高校生でホームレスメンバーの中では最年長。
毎年東大生をたくさん輩出する有名進学校に通っていたが周りの言いなりになって過ごしている今の自分に嫌気が差し、家出をした(本人曰く「カラッポ」「自分の意思も考えも何もなかった」)。
あや子と出会った後は吉田家ではなく本屋を営んでいる西沢さんの家に居候することになった。すぐ夫とイトキンとは違い、ちゃんと働いている。
イケメンで性格も良い好青年なため、いく夫やあや子を始め周りから慕われたり好意的に思われることが多く、それが原因で上記のようにいく夫の恋人関係を意図せず破局させたことがある。
序盤でイトキンが考案した出張ホストクラブ「ホワイトペニーズ」が原因で童貞だが非処女であり、当然ながら先坂兄弟とイトキンからはドン引きされ、たまたま知ってしまったあや子は内心で激しく動揺していた。なお、彼と寝たニューハーフで西沢清(通称ギターネェちゃん)という人物がおり、カズがお世話になっている西沢さんと名字が一緒だが何らかの関係があるのかは不明。
いく夫からはもう一人の兄のように慕われており、終盤ある一件ですぐ夫に失望したいく夫が「カズちゃんがお兄ちゃんならよかったのに」と溢したほど。
- 吉田あや子
高校一年生の16歳。将来は美容院経営が夢。
美少女で美乳だが顔がどことなくカピバラに似ており、本人も「チョット似てるし」と不本意ながら認めている。
ある時通学途中の電車から偶然ホームレス生活を送るすぐ夫達を見つけ、逞しく生きる彼らなら日頃から悩んでいる「人生って何?」という問いに答えてくれそうだと思ったことで接触。その流れで居候させることになった。
すぐ夫とイトキンには本人達の態度もあって厳しいが、いく夫やカズとは良好な関係を築いている。
先述した通り美少女なのだがクラスで唯一ポケベルが使いこなせない、度々顔芸を披露する、(相手に非があるとはいえ)時には容赦なく暴力を行使する、原付免許の試験に落ちて静かに泣きながら自虐するなど残念な美少女要素も多い。
- 吉田ケンジ
あや子の父親で床屋を経営している。店の手伝い、ゆくゆくは跡継ぎになることを条件に先坂兄弟とイトキンを居候させる。
基本的に温厚で優しい性格だが、イトキンが「働いてない」と笑った際には流石に「……働けよ」と内心でキレていた。
店は妻とかけ落ちして持ったものであり、店に対する思いは強い。
仮にグリーンヒルの伊藤がイトキンと同一人物だった場合、どうやら店は彼が継いだようである。
- 吉田マチ子
あや子の母親で既に故人。
回想や遺影を見る限りかなりの美人だが、夫が建てた床屋を「ダッサ~~」とぶった切ってサインポール(床屋の回るアレ)を蹴り、幼いあや子にも促すなどお世辞にも上品な人物ではなかった様子。
- 小川ユキ
あや子の幼なじみ。吉田家の近所にあるそば屋の娘。
一人称は『私』だが口調は男勝りで中性的。
女子高生ながら男と対等に渡り合うほどに野球が上手く、商店街の草野球チームの監督も務めている。日本初の女性プロ野球選手になることが目標。トレーナーは兄のタケルがしていたが、すぐ夫に会ってからは彼が担当することが多い。
初対面での印象が良かったためか、それとも趣味が合うためかすぐ夫に好意を持っており、一度は交流を深めた末にキスをし、セックスの約束をするほどになったが直ぐに無かったことにされた。
その後「自分はただ野球が上手いだけでプロに通用するだけの突出したものが何も無い」という理由から「才能がない」と野球を辞めてしまった。以降はフェードアウトして登場しない。
- 小川タケル
ユキの兄……だがユキはもちろん両親とも似ても似つかないほどのブサイク(劇中でも血の繋がった家族ではないことが示唆されている)。21歳。
医者を目指していたがユキのサポートや実家の手伝いなどが重なった結果、全く勉強の時間が取れずに三浪しており、現在は既に諦めてしまったらしい。
一見ユキの面倒を見る良い兄だが、実際は上記の出来事もあってかユキに歪んだ思いを抱いており、その身体を狙っている危険人物。すぐ夫とユキがセックスすると知った際にはイトキンに対して「あんなバカにセックスをする資格はない」と電話をかける陰湿で卑屈な性格をしている。
こちらもユキ同様フェードアウトして登場しなくなる。
- 園田あきひと
吉田家の隣に住んでいる小学生でいく夫のクラスメイト。常に顔のないぬいぐるみを持ち歩いている。
小学生とは思えないおっさん顔で無機質な少年。少し心を病んでおり、感情を表に出せないことから時々暴走することがあるという。
何故かあや子に対しては心を開いていて一緒に風呂に入って甘えている。当初はいく夫に対してあまり良い感情を持っていなかったが、友達になったことで仲直りした。以降はいく夫の友達として付き合うようになる。
- 塚本コウジ
浪人生で現在8浪目。通称・八浪(八郎と表記されることもある)。
奇妙な言動が目立ち、すぐ夫とイトキン曰く「ギリギリ」。
怒ったり感情が昂ると「このこんじきやしゃ!」や「この八百やちょー!」などの意味不明な言葉を発する(当然ながら言われた人間はその気迫と意味不明さからびっくりする)。口癖は「人生ってなんだ!?」。
顔はブサイクなのだがどことなく金城武に似ている。本当にどことなくだが。
八浪というインパクトやそのギリギリさからか作中では度々「人生終わってる」と称され、すぐ夫やイトキンからの扱いも酷いものだが度々つるんでいるため仲は悪くない様子。
- 義父(名前不詳)
先坂兄弟の母親の再婚相手。色黒で汚い見た目の男。
義理の息子である兄弟への愛情などは皆無であり、二人に対して平然と「お前らが死ねばよかった」と言い放つ、昼間からろくに働きもせず酒浸りで過ごす、極めて粗野で暴力的と絵に描いたようなクズ。この作品唯一の笑えないバカと言える。
こんなどうしようもない人間のため兄弟からも心底嫌われている。ちなみにすぐ夫曰く、空手の黒帯持ちらしい。
- 先坂兄弟の母親
すぐ夫といく夫の母親で物語の冒頭から3日前に亡くなった。彼女の死が兄弟の家出のきっかけとなる。
どんな人物だったのかは描かれず顔も出てこないが、すぐ夫からは「アバズレで全然働かなくてアホな男ばかりに引っかかる」と酷評され、「あんなクソ女死んで当然」とまで言われていることからまともな人物じゃなかったことは確かなようである。
なお、すぐ夫といく夫の実父もいるがいく夫が産まれてすぐに蒸発してしまったらしい。