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概要

1913年(大正2年)に発表。鏡花が初めて著した戯曲である。


伝説を今に伝える夜叉ヶ池を舞台とし、古くに結ばれた約定に縛られた人外の美姫・白雪と、薄幸の美女・百合が対比的に描かれる。

人間の身勝手で理不尽な欲望、命を捨てる事すら厭わない愛、人ならざるもの達の百鬼夜行などが複雑に絡み合った内容。


元ネタはゲアハルト・ハウプトマンの寓話劇『沈鐘』(Die versunkene Glocke)とされる。こちらは人魚姫の逆バージョンとも呼べる内容で、後にオットリーノ・レスピーギによって歌劇化された。


1978年以降たびたび上演。

また宝塚歌劇団星組では「龍の宮物語」として2019年に上演された。


1979年、坂東玉三郎主演で映画化。玉三郎は白雪とヒロイン・百合の二役を演じた。

この時松竹は2億円の予算を投入し、日本の特撮技術の基礎を築いた特撮監督・矢島信男の指揮下で、クライマックスの洪水シーンを撮影。ハワイやブラジルのイグアスの滝など、海外でのロケも行われる大作となった。

本作は極めて評価が高く、わけてもマーティン・スコセッシは当時鑑賞した後で監督の篠田正浩を激賞している。しかし権利問題が複雑な為に、いわゆる封印作品となってしまい、長らくビデオ・DVD化する事がなかった。

2020年になってようやく篠田監督と玉三郎が意見の一致を見た結果、4Kデジタルリマスター版が完成。2021年以降、随時各地の映画館で上演され、そしてようやくBlu-rayが発売された。


あらすじ

大正二年、ある夏の日。

激しい日照りが続く中、岐阜県と福井県の県境にある三国岳の麓、琴弾谷の村に山沢という男が現れる。彼は学生兼僧侶であり、諸国の物語の収集に出たまま行方知れずとなった友人・萩原晃の行方を捜していた。

琴弾谷の村の外れ、古びた鐘楼で彼は百合という美しい女に出会う。百合は余人も訪れる事がまばらなこの地で、夫と共にひっそりと暮らしていた。その夫こそが萩原であり、驚く山沢に彼は何故こうなったのかを語り出す。


一昨年この地を訪れた萩原は、鐘楼守の老人・弥太兵衛から奇妙な伝承を聞かされた。

昔この地では竜神が暴れ回り大水を起こしていたが、さる行者によって調伏され、三国岳の山中にある夜叉ヶ池に封じ込められた。

「二度と暴れてはならない」というその時の誓いを竜神に思い出させるため、村では昼夜に三度鐘を鳴らさなければならない。しかし月日が経つにつれて伝承は迷信となり、真面目に掟を守る老人を村人達は馬鹿にしていた。

滞在中に弥太兵衛が亡くなった為、萩原は鐘守を村人に求めたが、何れも嘲笑をもって返答とした。憤慨しながらその地を去ろうとした萩原だったが、そこで百合と出会い一目惚れ。寄る辺のない彼女を守りたい気持ちから結婚して村に留まり、鐘を撞いていたのだった。


一方、当代の竜神である夜叉ヶ池の白雪姫は、続く日照りを気に掛ける事もなく、はるかに離れた剣ヶ峰の恋人に会いたいという想いを強く募らせていた。

しかし彼女が動けば大洪水が起き、誓いを破れば恐ろしい罰がもたらされる。多数の眷属が身命を賭し、主の軽挙を止めようとする。

抑えがたい恋情に荒れ狂う白雪姫だったが、夫の帰りを待ちながら歌を歌う百合の姿を見て我に返る。誓いによって我が身を縛る憎い仇ではあるが、愛する人を想う気持ちに感じ入り、彼女を真似て歌を歌う事で心を慰めるのであった。


しかし長く続く日照りは、水をこいねがう人間達を醜い諍いへと駆り立てる。雨乞いのため、夜叉ヶ池の龍神へ生贄を捧げようとし、選ばれたのは百合だった。

必死に抗う萩原と山沢。二人の窮地を見るに見かねた百合は……。


登場人物

中心人物

  • 萩原晃:百合の夫。一昨年の夏、諸国の物語を収集する為に東京を経ったが行方知れずとなっていた。縁あって鐘楼守となり、人目を避ける為に昼間は白髪のかつらで老人に扮している。この地で出会った百合を深く愛しており、彼女を傷つける者を許さない。
  • 百合:萩原の妻。夫にならい普段は老女に扮しているが、魔性すら覚える程の美女。鎮守の神官の一人娘だったが早くに親を亡くし、叔父からは邪な目を向けられていた。夫を愛する一方、山沢の訪問で彼が去る事を考えて怯えるが、杞憂に終わる。しかし……
  • 山沢学円:萩原の学友にして僧侶。暑中休暇を利用して旅をしていた。萩原が生きていた事に驚きまた喜ぶが、彼が選んだ人生と美しい妻の幸福を願う。その果てに、この物語を見届ける役割を負う。

人ならざるもの

  • 白雪姫:夜叉ヶ池の主にして、日野川・揖斐川を支配する竜神。人外の美女であり、千蛇ヶ池の公達に激しい恋をしている。気位は高く人間を見下しているが、百合のけなげな姿には深く感じ入り、自分が誓いを破れば彼女も死ぬとして一旦は鎮まる。元は人間であり、後半では彼女が竜となる前の因縁が語られた。
  • 湯尾峠の万年姥:白雪姫の乳母。朽葉色の帷子に赤前垂の老女。雨乞いと称して夜叉ヶ池に金物や獣の死体を投げ込む村人に閉口し、鯉七に命じて警告に向かわせた。
  • 白男の鯉七:白雪姫の眷属。鯉の精。黒白鱗の帷子に、鰭めいた大きな足袋を履く。警告を与える為に里へ出る際に近道し、枯れかけた水流で往生していた所を与十に捕まえられた。危うい所を蟹五郎に救われ、自分が入れられていた竹の小笠に八つ当たりする。
  • 大蟹五郎:白雪姫の眷属。蟹の精。藪沢の関守を名乗り、顔から髪から全て緋色の山伏姿。与十の足をハサミで攻撃し、鯉七を救助して同道者となる。後に鯰入を見とがめて誰何するが、正体を知ると敬意を示して姫の館へ案内した。
  • 木の芽峠の山椿:白雪姫の腰元。萌黄の紋付、文金の高髷に緋の乙女椿の花を挿した美少女。恋文を読んだ姫の意を汲み、数多の眷属を招集した。色々な歌を知っており、主の心を慰める為に歌う事となるが、鯉七に混ぜっ返されて万座が笑いに包まれた。
  • 鯖江太郎・鯖波次郎:白雪姫の眷属。魚の化生で兄弟。
  • 虎杖入道・十三塚の骨・夥多の影法師:白雪姫の眷属。
  • 黒和尚鯰入:千蛇ヶ池の公達の眷属。鯰の精。長いナマズ髭、顔も僧衣も漆黒。主達の勘気をこうむり閉門の身だったが、何故か姫宛ての恋文の使者とされた。鯉七と蟹五郎と出会い姫の許へと案内されるが、好奇心に負けてこっそり文箱を開けてしまう。
  • 千蛇ヶ池の公達:白山剣ヶ峰の川を支配する竜神。白雪姫の恋人。

人間

  • 与十:鹿見村の百姓。山中で鯉七を首尾よくとらえ、お偉方に売りつけようとした。両親が健在な頃の百合がその美しさから蛇の化身と噂されていた為、家をのぞきみようとした所で蟹五郎によって退散させられる。村人総出で百合を生贄にすべく押しかけるが……
  • 鹿見宅膳:鹿見村の神官。百合の叔父。親を失った百合を冷遇しつつ、その美貌に邪な想いを抱いていた。萩原が彼女と結婚した事を逆恨みし、雨乞いの生贄として百合を指名する。
  • 権藤管八:村会議員。権力をかさに雨乞いの儀式を強行しようとする。
  • 斎田初雄:小学教師。鐘の誓いを迷信と断じ、萩原を追放しようとする。
  • 畑上嘉伝次:村長。不逞の輩を引き連れ、力づくで百合を連れ去ろうとする。
  • 伝吉、小烏風呂助:村長に雇われたならず者。
  • 穴隈鉱蔵:県の代議士。雨乞いの儀式を認可する事で自分の政治地盤を確たるものにしようと目論む。人々を救う為なら命は惜しくないと豪語するが、萩原に切りかかられて慌てて逃げるなど、言行不一致の極み。

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泉鏡花

戯曲

坂東玉三郎

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