あらすじ
旅行に行きたいのでバイトでお金を貯めたいイッチ(投稿者)。しかしなかなか受からない。適当に集めた雑誌の求人を読んでいると、某県の、旅館の求人を目にする。
それに電話をかけると、電話が通じ、旅館の人間が応対。
声からして、若い女性らしい。しかし会話の途中で雑音が混じり、男性の声に。
バイトの応募をしたいと伝えると、すぐにでも来て欲しいと言われ、嘘のようにとんとん拍子で決まり、翌日に面接する事に。
投稿者は、電話の時にはいつも録音しており、その録音内容に従い準備をしてその日は寝床に。
しかし、どこか違和感を覚えていた。窓ガラスに写った自分の顔も、どこかやつれて見える。
そして就寝し、翌日に目が覚めるが体調は最悪。休もうかとも思ったが、せっかく決まった話を無下にする事もためらわれた。
そして旅館からも電話が着て、体調が悪い事を心配されるも、
「こちらについたらまずは温泉などつかって頂いて構いませんよ。初日はゆっくりとしててください。そこまで忙しくはありませんので」と言われる。
ふらつきながら、投稿者は旅館へと向かう。だが、向かっている途中で雨に降られ、傘を持っていないために雨に濡れつつ駅へ。
駅にて券売機で切符を購入すると、雨で濡れているのに、自分の手が老人のようにカサカサになり、皮膚がひび割れていた。
ホームに向かうが、体調不良は更に悪化。それでも投稿者は「旅館に行かなきゃ」と、向かおうとする。
声が枯れ、手足がしびれ、ベンチに座り咳き込むと血を吐く。電車が来て立ち上がり乗ろうとしたら、酷い腰痛を覚えた。
それでも無理して乗ろうとしたその時、どこからかやって来た老婆に体当たりされた。
そのまま老婆と取っ組み合うが、今の投稿者の状態では勝てず、抑え込まれる。
「俺はあの電車にのらないといけないんだ! 旅館にいけなくなってしまう!」
そう言って、電車に乗ろうとする投稿者。
が、そうこうしている間に電車は行ってしまい、駆けつけた駅員たちにより引き離された。
やがて、老婆が息を整えつつ投稿者に言う。
「おぬしは引かれておる。危なかった」
そう言うと、彼女は去っていった。
その後、駅員と2~3やりとりをした後、投稿者も帰された。
だが、先刻までの体調不良は嘘のように無くなり、家に戻ると元の健康体に。
おかしいと思いつつ、旅館に断りの連絡を入れようと電話をかけるが、「この番号は現在使われておりません」のアナウンスが。
何度かけても同じため、録音していた会話内容を改める事に。
すると、最初に電話した時に、雑音が混じった箇所で、何かが話し合われている内容が聞こえてきた。
音を大きくすると、
「さむい…こごえそうだ」
子供の声が入っている。さらにその後ろで大勢の人間が唸っている声が聞こえてきた。
それに驚いた投稿者は、そのまま録音した通話内容を聞き続ける。
会話した男性の声が流れたが、それは中年男性というより、老人の声だった。
更に通話内容を聞き続けると、録音に残されていた会話は、投稿者のものだけだった。
やりとりしたはずの相手の言葉は、その全てが、
「死ね死ね死ね死ね死ね」
という、呪詛だった。
更に、その時に投降者が手にしていた求人ガイドは、
その旅館の詳細が記されたページだけが、どう見ても古い紙質で、数十年前の雑誌のようになっていた。
それだけでなく、そのページには「全焼し、燃え落ちた旅館」の写真が掲載されており、記事が添えられていた。
記事の内容は、
「死者30数名。台所から出火したもよう」
「旅館の主人と思われる焼死体が台所でみつかったことから、料理の際に炎を出したと思われる。泊まりに来ていた宿泊客達が、逃げ遅れて炎にまかれて焼死」
投稿者は、求人記事でもない、そして現在は存在しない旅館に電話をかけ、そこに向かおうとしていた事を知り、慄然とするのだった。
解説
バイトを見つけ、電話で面接に向かう事を伝えるも、
「向かおうとしたら体調が悪化」
「謎の人物に助けられ、帰宅すると体調は元に」
「向かおうとした旅館は過去の火災で、現在は存在しない。電話番号も使われていない」
「録音した通話内容には、会話した覚えのない相手の声や呪詛が」
という内容の怪談である。
この手の怪談では、「最初に連絡する、存在しない場所の住所や電話番号を記したもの」が、後で改めると消えている事が多いが、この怪談では「求人雑誌」として残されているのが特異な点。
また、雑誌の該当ページだけが、紙質が古くなっている事も、他にはあまり見られない点である。