概要
現代では当たり前となっている「検屍」だが、実は江戸時代に既にその仕事は存在していた。そんな仕事を生業とする北町奉行所の同心・北沢彦太郎は、検屍のバイブル・「無冤録述」を片手に周囲から「変わり者」とそしられながらも、今日も江戸の町を駆け回る。そんな検屍を手助けする医師・玄海と、死体の様子を記録する絵師・お月。死体の声に耳を傾け、真相を導きだす三人の活躍を描いたミステリー。
登場人物
北沢彦太郎
北町奉行所に務める同心。34歳。40過ぎの者が多い同心の中では若手ながら、高い洞察力を持つ検屍官。同僚が嫌がる惨たらしい死体の検屍も平然とこなすが、それ故に当時の感覚では躊躇われる事も行うため(若い娘の遺体を日中で裸にするなど)、「変わり者」扱いされる事もある。仕事には生真面目で融通が利かない性格だが、家庭を大事にするよき父親でもある。妻子持ちであるにもかかわらずお月から想いを告げられており、対応に困る初心な面もある。毒殺の可能性を調べるため頻繁に銀簪を使う事から、原作では「銀簪の旦那」と呼ばれている。無趣味で、仕事や妻子以外のことには関心を持たず、下戸のため酒も飲まない。
古谷玄海
北沢の検屍を手伝う医師。妻帯者だがかなりの女好きで、妾を囲ったり、遊郭に通い詰めたり、頻繁に若い女性をナンパしたりしている。それ故妻とは夫婦喧嘩が絶えず、頭が上がらない。職務熱心とは言い難い適当な性格だが、検屍に関する知識と腕は確か。多趣味で、女遊び、草双紙、艶本、富本節、オランダ語等、検屍以外にも様々な知識を有する。
お月
美貌の絵師。日頃は物静かだが、洞察力や推理力は高い。伝聞だけの情報や、激しく損傷した遺体などからでも本人の生前の姿を正確に描く技能を持つ。その腕(と容姿)を玄海に見込まれ、北沢たちの検屍を手伝う事になる。実は本業はあぶな絵(女性の扇情的な、もしくは残酷な描写を主題とした、一般画と春画の中間絵)であり、検屍に参加したのはその研究の一環でもある。そのため、これを「軽い気持ちで来ている」と取った北沢と衝突したこともあるが、現在はその姿勢を認められている。また、北沢に好意を寄せている。