概要
『異種族レビュアーズ』や『貞操逆転世界』で知られる天原先生の新作。
『貞操逆転世界』や『33歳独身女騎士隊長。』と同じく本人のTwitterに投稿するようなネタを連載作へと発展させた作品だが、本作は天原初の小説連載となっている。
「小説なんて人生で一回も書いたことねえので小説処女卒業」と述べる初めての試みになるが、小説家になろうで連日ランキング一位を取るなどかなりの好評。
登場人物
主要人物
温泉ダンジョンマスター
主人公。現実世界で不治の病に侵され、寝たきりで死を待つのみの男だったが、死の数か月前にダンジョンコアから契約を持ちかけられたことで異世界転生してダンジョンマスターとなった。現代日本人であるが、本名は不明。温泉ダンジョンを考案し、多くの者を自分のダンジョンに呼び込んでいく。
病に臥せる前は経営コンサルタント会社に勤務しており、顧客心理に関してはそれなりに心得がある。また、それとは別に経営ゲームも好んでいた。
転生したことで人間ではなくダンジョンマスターとしての精神や肉体となっているが(人の死や不幸にも大きく心が動かず三大欲求を満たす必要もない)、人間としての記憶を持っているため食事や自慰などもやろうと思えば出来る(その際魂が共有されてるダンジョンコアにも影響を与える)。
ペタ
ギョロ目の三白眼のツリ目とつるっぺたの貧乳が特徴のダンジョンコア。ダンジョンの構造を決めるためのダンジョンの意思が形になった存在の一つ。ペタという名前は温泉ダンジョンマスターの命名。
当初は「飯困らずダンジョン」と言う宝石と簡単な食事が出るダンジョンを運営していたが、8階層で成長が頭打ちとなったこともあり、更に大きなダンジョンをつくるためダンジョンマスターを呼び込んだ。
一般的なダンジョンコア同様人間の欲望について理解できず、最初は方針に懐疑的だったものの、みるみるうちにダンジョンが大きくなっていく様に興奮を見せる。
セパンス王国
ユーザ・メッシニークィ・センシツ
セパンス王国女王。美容にうるさいタイプで温泉ダンジョンにも情熱を向けるが、その探索で国を傾かせるほど愚かではなく普段の彼女は賢君寄り。婿養子の旦那をしっかり抑えて政を自分で行い、戦場に赴けば司令官を務めあげるほど行動力も武勇も持ち合わせている。
とてつもない広さの9階層が発見された際にはローラー作戦を強行したりはせず賞金を出して冒険者に探索させたほか誰でも見つかる位置に出来た10階層への階段を見つけた者にもしっかり賞金を出した。
アウフ・ナウサ・オトロウリュ
セパンス王国ナウサ家公爵令嬢3女。幼少期に全身におびただしい水疱が出来る病にかかってしまい、一命はとりとめたものの痛ましいまでの強い痕が残ってしまって心を閉ざして10年以上部屋に引きこもり続けた。しかし、閉じこもっていた中でも勉強を続け、とりわけダンジョンについては造詣が深くなる。
そんな中、国に出来た温泉ダンジョンの効用により一般レベルまで肌が回復して部屋から出られるようになり、勉強を続けて得た推察力や洞察力によりダンジョン攻略に一役買う。聡明なためダンジョンの人を惹きつける魔力を危険視しつつ、誰よりその効能を実感してもいるためそれを更に味わいたいという欲望は捨てきれない。
ヴィヒタ・バーニャ
セパンス王国騎士団、女王直属女騎士団第2部隊副隊長。27歳。
女王の命令がない間は、ナウサ公爵の館に住み、館の要人警護、公爵の娘などの教育を受け持っている(作中では事実上アウフの付き人の様な立ち位置にある)。
トウジ・ノーユ
セパンス王国女騎士団第1部隊隊長、年齢は43歳。
外国の高価値物資が手に入るダンジョンを深くまで潜り、その成果を国に持ち帰る事を主な任務としている部隊の隊長。
美容に一切関心を持たないが若返りや古傷・歪みの解消等の自分の継戦能力を高める部分には強い関心を持っている根っからの武人気質。
年齢的な問題や長年の激務でもう長くは戦えないと諦めていた所、帰国したら国が美容温泉で激変していて困惑したが、最終的には温泉の効能で身体が回復し素っ裸で走り回るほど歓喜する事になる。
温泉で身体が完治する前でも5階層のボスモンスターを素手の一撃で屠る程の強さを持つ。
その他の登場人物
宝石ダンジョンマスター
ケンマ王国に存在する宝石ダンジョンのダンジョンマスター。片言交じりの日本語で話す。生前は産業革命後のイギリスの宝石職人で、宝石職人の魂を求めていたタニアによって転生させられる。
温泉ダンジョンマスターと異なり、ドロップ品となる宝石を選んだりデザインを決める事に専念しており、運営方針自体はタニアに一任している。
タニア
宝石ダンジョンのダンジョンコア。褐色肌に多くの宝石を身に着けた巨乳美女の姿をしている。ダンジョンコアは基本的に名前を持たない為、こちらも宝石ダンジョンマスターによる命名と思われる。
ペタ以上に大雑把かつ短絡的な思考の持ち主で、「人間は宝石が大好きだから宝石職人をダンジョンマスターにしよう」と言う理由でダンジョンマスターを呼び込んだ。その為、温泉ダンジョンの急成長や他の人間マスターと契約したダンジョンの隆盛はいまいち理解できない。
ダンジョン
本作におけるダンジョンは、深い層に行くほど瘴気が濃くなりその瘴気とダンジョンポイントによりあらゆる奇跡を起こせる。
ダンジョン内にはモンスターも出現するが、これは起こした奇跡の代償として発生する歪みのような存在らしく、ダンジョンコアやマスターの意志で出現を制御できない(出現するモンスターのタイプを操作することは可能)。
ペタによると10階層を超えると「巨大ダンジョン」であり、20階層以上で世界有数の超巨大ダンジョンの仲間入りらしい。しかし20階層後半辺りで難易度が人間の攻略出来る限界を超えてしまうらしく、30階層に到達したダンジョンは未だに存在しないという。
ダンジョンコア
ダンジョンの構造を決めるため、ダンジョンの意思が形になった存在。外部の人間からは「ダンジョンの悪魔」とも呼ばれる。
人に近い姿をしているが精神構造は人間と全く異なり、特に生物の「欲望」と言うものを理解できない。代わりに全てのダンジョンコアが持つ根源的な衝動として「巨大なダンジョンに成長したい」と言うものがあり、彼らはあの手この手で人間を始めとした外部の存在を自身のダンジョンに呼び寄せようとしている。
しかし生物の欲望が理解できないため、人間からしたら大味すぎる作りのダンジョンも多い。
ペタの様に同時に二つ以上のダンジョンを運営することも可能なようだが、ダンジョンマスターが存在する場合ポイントの融通等はできない様子。
ダンジョンマスター
一部のダンジョンコアが自分の代わりにダンジョンを運営させるために召し上げた人間の魂。ダンジョンコアは人間の欲する物を理解できない為、コアの代わりに人間の求める物を決めるのが主な役目。
ダンジョンコアに名前で魂を縛られており、契約しているコア以外に決して名前を知られてはいけない。その為、他者には「(〇〇国の)〇〇ダンジョンマスター」と名乗る。
またその関係上、作品世界の(特に名の知れた)人間の魂を用いるのは得策と言えず、異世界の人間の魂を利用している事が多い。
人間をマスターに据えたダンジョンは人間の視点からダンジョンを経営できるため発展しやすく、温泉ダンジョン以外にも近年魅力的なダンジョンがいくつも生まれている。
ダンジョンポイント
長くダンジョンに留まる者が出たりダンジョン内で争いが起きたり(血を流したり死体が出来たり)することで得られるポイント。拡張や維持には逆にコストがかかってしまうためその収支を考えながらダンジョンを経営していくことになる。
またダンジョンには外から入ってきた不純物を何でもかんでも飲み込んでポイントに変える性質がある(生きた人間が溶かされるようなことはないが、何か物を持ってきて放置していたら溶かされたりする)。
ダンジョン設計
本来は巻物や書物を具現化してダンジョンの詳細を確認するのが基本だが、主人公である温泉ダンジョンマスターは経営ゲームのステータス画面をイメージしていたため、それを具現化してスムーズにダンジョンの詳細を確認することが出来る(いわゆるステータスオーブン)。
またそこからの操作もまるでゲームのように自由自在で22時間というダンジョンの変形時間を含めても主人公は一日足らずでダンジョンの1階層を完成させた(ペタが1階層を設計するのには数ヶ月はかかったという)。
作中に登場するダンジョン
温泉ダンジョン
本作の主な舞台となる、温泉で人を惹きつけるダンジョン。各階層に美容・健康に多大な効果をもたらす温泉が湧いている。
本ダンジョンの特徴として、1階層以外の湯は階層から持ち出されると効果を失うという性質があり、効果を求める者が直接ダンジョンに入り入浴する必要がある。
よって、美容効果を求める国内外の王侯貴族がこのダンジョンに殺到し、更にその護衛の為に大勢の女騎士や冒険者・傭兵も引き連れて来るため、極めて効率的にダンジョンポイントを稼ぐことが出来る仕組みが構築されている。
この様をアウフは「人間の欲望を熟知した者が作り出した非常に狡猾なダンジョン」と評している。
肌艶が明らかによくなる1階、2階、6階の湯が人気があるが、次いで効能が明らかにされていない5階の湯が想像を掻き立てて人気となっている。
また、ダンジョンの性質上男湯と女湯に分けることが出来ないため、基本的には男子禁制。
1階層
美肌の湯。あせも、軽い手荒れ程度ならすぐ治ってニキビも薄くなる。一週間ほどの連続使用で強い乾燥や水虫、あばたなどにもある程度の効果を発揮する。
地上から近いこの湯のみ効能を持ち帰ることが可能で、引きこもっていたアウフやダンジョンに潜ることを禁止された男たちはその湯で効果を実感していた。また美容液として各国に販売し、セバンス王国の新たな財源になっている。
現在は完全にお湯の汲み出しのみが行われており、温泉として入る事は出来なくなっている。
2階層
髪艶の湯。1階層を更にパワーアップした美肌の湯に髪まで綺麗になるという効果が追加された。
浅層で最も入りやすい事もあり、ここには連日行列ができている……のだが、弱小ながらモンスターは現れるため、客はお年寄りから子供まで全員槍で武装し自衛しているという初見の者には異様な光景が広がっている。
3階層
シミ消えの湯。
4階層
実年齢から3歳若返る湯。効果は一度きり。
5階層
情報収集の湯(仮称)。全階層で唯一ダンジョンマスターによる罠が張られており、この湯に入った者は入った回数だけ個人情報を奪われる。
1度入れば名前や年齢、2度入れば職業や家族構成、3度入れば大体の強さや軽い生い立ちなどが判明し、20回も入れば最近いつどこで何をおかずに自慰を行ったかなどの恥ずかしい情報まで開示できるという。
もっとも、温泉ダンジョンマスターはダンジョンから出られない為大それた利用は出来ず、外部の情報を収集したり女騎士や冒険者たちの能力を確認するのに利用する程度である。
何も知らない入浴者達は「詳細不明」という点からその効果を思い思いに期待して入って行く。
また、この階層には強力なボスモンスターが出現する。
6階層
潤いの湯。
1・2階層の美肌系温泉強化版。主に貴族令嬢に人気。
7階層
小じわ消えの湯。
8階層
傷あと消えの湯。歴戦の女騎士や強行策を敢行して傷を負ってしまった女貴族に再びダンジョンに潜らせる強い意思を芽生えさせた。
9階層
地平線いっぱいに広がるだだっ広い草原。目印も何もなく見渡す限りひたすら草が広がっている。高さもほとんど無尽蔵にあり、遠くの壁も天井も見えないあまりに途方もない空間。
ペタの要望を聞いて作られたが、2隊に別れた女騎士たちが入り口の両側から壁沿いに3日かけて歩いても合流することが出来ず、その広さはダンジョンマスターも人間も辟易させた。結果、ダンジョンマスターは10階層の階段をすぐ分かる位置に作って9階層をとりあえずスルーしてもらう方策を取る。
だが9階層に風も天井もないことに目をつけたアウフが気球を持ち込んで観測するという案を立案。たった6名の探索チームが9階層到着からわずか数時間で温泉を見つけ出した。
温泉の効能は長年の戦いや職業病で病んだ骨や身体が治るという湯。明らかに一部の骨格や肉が歪んでしまっている身体をした騎士が多くいたためそれらが矯正されるような湯を準備した。
ちなみに攻撃力や機動性は肉体修復によっても下がらないように設定できたとのこと。
10階層
経験値増加の湯。
入浴後からダンジョンを出るまでの間、トレーニング効果が高くなる。
効果は瘴気の濃度に依存するので浅い階層では大した効果は見込めない様子。
逆に深い階層に潜った場合効果が高くなるかは現状不明。
20階層を超える非常に深いダンジョンに多くの人間を呼び込むための下準備用温泉。
この湯の効果自体は外に持ち出せないが、強くなった肉体は当然据え置きなのでココで鍛えて別のダンジョンの深部に挑む事も可能。
11階層
若肌の湯。1・2・6階層の美肌系の上位互換。この階層では10代の乙女の肌を手に入れる事が出来る。また、階層の性質に合わせ疲労回復の効果も備わっている。
階層自体は10階層の湯と連動したアスレチック設計となっており、湯舟に着くまでに強制的に体を鍛えさせられる。
12階層
泡温泉・芳香の湯(仮称)。
源泉が滝の様に壁に打ち付けてそこから大量の泡が溢れ出している温泉。
非常に芳しい香りがして、入ったものもかなりの時間(おおよそ一ヶ月間)その香りを身体から放つ。
また、腋臭や足臭等の悪臭を永続的に消す効果もある。
周囲の壁全てが石鹸で出来ており採取可能、石鹸も温泉と同じとても良い香りを放っている。
ただし、石鹸はいい香りがするだけの普通の石鹸で特殊な効果はない。
飯困らずダンジョン
セパンス王国に140年ほど前から存在する、ペタが元から運営していたダンジョン。宝石のほかに簡易的な食事が出るという特徴がある。
実入りで言えば大した事のないダンジョンであるが、「食事が出る」と言う特異性から浅い階層は貧民窟、深い階層は冒険者や騎士団の認定試験場に利用されていた。
後に温泉ダンジョンマスターのアドバイスによって産出する食事や宝石に改良が加えられ(更に9階層では様々な“現代日本基準の”農産物が自生する様になった)、多くの冒険者が押し掛けるようになった。
宝石ダンジョン
遠方のケンマ王国に20年ほど前に出現したダンジョン。現在14階層。ダンジョンコアはタニア。
宝石職人をマスターとして迎え入れた事で、精密なカッティングが施された珍しい宝石が産出するのが売り。しかしそれらを求めたガラの悪い冒険者が増え、ケンマ王国の治安は悪化の一途を辿っているという。
糸ダンジョン
ドルピンス王国に存在するダンジョン。タニアによると最初に人間マスター方式を導入したダンジョンだという。
その名の通り、地上ではどうやっても作ることの出来ないレベルの質で作られた、糸や布といったドロップ品が産出する。この布から作られた衣服は王侯貴族のステータスとなり手放せない存在となっているほか、船の帆は質も強度も格段に向上し、これから作られた弓より放たれる矢は、従来の2倍近い飛距離を叩き出すという。
現在は商人が常駐し連日高額な取引が行われている他、セパンス女騎士団の第一部隊も帰国前はこのダンジョンに潜っていた。
温泉ダンジョンマスターはマスターが現代日本以外からも召喚されている事を知った際、「糸ダンジョンのマスターはシルクロードを命懸けで渡っていたような時代の、自分や宝石ダンジョンマスターより更に古い時代の人間なのではないか」と予想している。