はじめに
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イベント概要
『コミック百合姫×SFマガジン×ガガガ文庫×書泉百合部×pixiv「第2回百合文芸小説コンテスト」』とは、2019年11月1日(金)より始まったpixiv公式企画である。
応募期間
2019年11月1日(金)~2020年1月9日(木) 23:59まで
関連タグ
百合文芸
公式企画
企画概要
▼企画目録
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11891565
▼応募作品一覧ページ
https://www.pixiv.net/novel/contest/yuribungei2
▼関連サイト
月刊コミック百合姫
http://www.ichijinsha.co.jp/yurihime/
SFマガジン
https://twitter.com/Hayakawashobo
ガガガ文庫
https://gagagabunko.jp/
書泉百合部
https://twitter.com/shosenyuribu/
受賞作
大賞
太陽の焼け跡
すが 私の家は三人家族だった。私と、母と、それから叔母の三人。叔母は正確にいうと『叔母』ではなく、母の中学時代の後輩だった。他人に彼女との関係を説明する手前、『叔母』というのが一番楽だったために私はそう呼んでいた。優しい母と、明るい叔母。父親はいなかったけれど、そんな二人の愛情を受けながら、私はしあわせな毎日を過ごしていた。
中学三年生の冬の日。受験勉強で夜遅くまで起きていた私は、母にキスする叔母の姿を見てしまう。熱のこもった声で母の名を呼ぶ叔母。二人の濡れた瞳のうつくしさに胸を痛めながら、私は眠れない夜を過ごす。私は、その痛みの正体は母が叔母に取られてしまうという幼い嫉妬だと考える。いい加減、親離れしなきゃ。そう思っていた矢先、私は同級生の男子生徒に告白され、それを受けいれる。恋人と初めてキスをしたとき、彼の瞳とあの夜の叔母の瞳が重なった。その瞬間、私は嫉妬の矛先が母だったことに気づいてしまう。
叔母への恋心を隠しながら、私は大人になっていく。就職を控えた三月、母から聞かされたのは叔母の訃報だった。叔母の最期を聞かされながらも、まったく涙を流さない母。なぜ泣かないのと問い詰める私に、泣いても帰ってこないと母は冷たい目で答えた。それでも、私は、あなたに泣いてほしかった。就職後、家を出た私は母を避けるようになる。
それから六年後、私は母が病に倒れたことを聞く。最後に見た時よりも痩せた母に、恋人からプロポーズされたことを告げると、母はよかったねと笑った。どうしてと問う私の頭を母が撫でる。子どものしあわせを願ってこその親でしょう、と言いながら。今際を向かえた母に、私は生まれてくる娘に叔母と同じ名前をつけたいと思っていることを伝える。母はひどく幸せそうに笑って、涙を流した。
母の死から十数年、私の歳はついに叔母を超えてしまった。夫の提案で実家に移り住むことを決めた私は、同時にずっと読めずにいた叔母の遺書を読むことを決意する。叔母の遺書には、母への想いや、私と母のしあわせを願う言葉が綴られていた。遺書を読み終えた私を、小学生になった娘が呼ぶ。母と叔母の写真を見てきれいだねと笑う娘に、私はきっとあなたもきれいになるよと微笑み返すのだった。
百合姫賞
永久少女信仰
冬木弓木百花(ゆぎももか)は「永遠に少女でいたかった」女子大生。momoという名前で人気キャラ「ふーちゃん」のコスプレをした自撮りをSNSにアップしている。衣装にしか興味がないキャラの、媚びたコスプレ写真でイイネを稼ぎ承認欲求を満たす日々を送っていたある日、写真を目にとめたカメラマンのコウから今度作る写真集のモデルになってくれないかと打診された。人気のある版権キャラではなく、あなた本人をモデルに少女の写真を撮りたいといわれ困惑する。自分に自信のない百花は一度は断ろうとするものの、かつてコウが撮った写真の美しさに惹かれ、モデルとなる。少女という存在に対し、二人は同じ理想を抱えていた。そうして作った写真の中の自身の姿は、まさに「こうありたかった理想の少女」だった。自ら望んだ少女になれた百花はしかし、コウに恋したことでもう自分が少女ではいられないことに気付いてしまう。写真集が完成したあと、また写真を撮らせてほしいというコウに対して、二人でつくった「少女」を永遠にしたいからと別れを告げるのだった。
SFマガジン賞
雲のかたち、百合色の雲
ちょろぎ・月本十色 この作品は、アナログハック・オープンリソースを使用しています。
hIEと呼ばれる人型ロボットが一般的になり、超高度AIと呼ばれる人の知能を越えたIAが存在する未来。個々の機体が自ら判断し動くことはない他律制御型ロボットのhIEは、その制御をネットワーク上に点在するクラウドに任せている。クラウドは様々な企業が日夜追記を重ね、あるいはふとした拍子に新たなクラウドが誕生することで発展していた。そんな中、社長のナコと副社長のチカ、たった社員が二人だけの新興ベンチャー企業リリィコネクトでは、ひとつのプロジェクトが立ち上がっていた。それは、hIEが百合らしい振る舞いを行うためのクラウド――百合クラウドの作成プロジェクトである。ほぼ百合好きのナコの趣味によって始まったプロジェクトだったが、何故かスポンサー企業が現れ、潤沢な開発環境が整っていた。しかし、その環境とは裏腹に百合クラウドの開発は難航。三か月後にはスポンサー企業へのプレゼンテーションが迫っていたが、まるで成果を上げることが出来ていなかった。そして、百合クラウドという存在そのものに立ち込める暗雲。果たしてナコとチカは、無事に百合クラウドを作り上げることが出来るのか。
キャッシュ・エクスパイア
negipo第2回百合文芸小説コンテストでSFマガジン賞を受賞しました。ありがとうございました。
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事故で怪我を負い、全身を機械化している小学生、ユイカは、オンラインゲームで出会った唯一の友人カナエを目の前で失う。その夜、何者かにふたりで遊んでいたゲームに呼び出され、そこでカナエの自動応答用の疑似人格――キャッシュに出会う。カナエのキャッシュは設定によれば三日で消えるという。それまでに「きれいなものがみたい」と言うカナエの願いをユイカは叶えることにする。カナエは自分が脳機能に障害のある十八歳の女性であったことを明かし、ユイカも機械の身体のことを話す。ふたりは現実世界を満喫し、その過程でユイカは成長を実感する。しかしその翌日、ユイカはカナエの同意なしに彼女の実家へと足を運び、自分と同じように機械の身体をもらえとカナエに言ってしまう。ユイカはカナエのキャッシュが身体を手に入れれば、自分のように生き延びられると信じていた。カナエはユイカを激しく拒否し、閉じこもる。絶望したユイカはあらわれたカナエの母親にカナエの死について質問を発し、傷つけてしまう。キャッシュが消える日の朝が訪れ、ユイカがカナエの願ったとおりにきれいな海へと向かうと、彼女はすべてを許して姿をあらわす。そしてすぐに消える。
ガガガ文庫賞
短編まとめすてきだね
帝@スランプ気味二人で手をとって歩いていけるなら◆催涙雨の降るころにの流れを汲んだ続き物の最終回です。弓女主にきちんとなってたらいいなぁ。
書泉百合部賞
むしゃくしゃしたので死のうとしたら「あなたの事が嫌いです」と言い放つ初対面の少女に助けられた話
みつえ25歳の猿投さとりは連日の勤務や細々とした不幸が重なった結果、衝動的な路線への飛び込み自殺を企てた。終電を待っていると、「あなたの事が嫌いです」と言い放つ少女に自殺を止められる。初対面の少女はそのまま猿投さとりの家に住み込み、彼女の世話をしだした。翌日うつ病診断をされ休職する事になった猿投さとりは、少女……小春川こなと本格的に同棲生活を始める事にする。初対面のはずの小春川こなは何故か猿投さとりに尽くした。その理由を、恐らくかつて出会っているのではないかと考えるものの、他人に深く踏み込む気力がない猿投さとりは思考を放棄して現状を受け入れる。赤の他人でしかない二人は、明確な理由もないまま不安定で不透明な生活を続け、少しずつ関係を深めていく。ある日、会社からクビの報せを受けた猿投さとりは、小春川こなとの生活を続けるために別の仕事を探すことを決める。そして携帯電話が鳴り、スクリーンに映った名前は、彼女の義理の父親で……。
pixiv賞
今どき下駄箱にラブレターなんか入れてんじゃねぇよ!
綾加奈ラブレターにまつわるドタバタしたラブコメディです。
pixiv賞をいただきました。ありがとうございます。
他の百合文芸投稿作は以下で読めます。
私の大嫌いなSS書きの話
(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11891668)
クリスマスのコンビニのイートインで独りでチキンを食べている女のひとは好きですか?
(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12196063)
百合文芸に投稿していた残りの10作についてはFANBOXで読めます。
よろしくお願いします。
https://ayakana.fanbox.cc/
ポッドキャストの恋人
yu__ss原田一香の趣味は人の恋愛事情に首を突っ込むことで、そのおかげで視線や仕草で恋愛感情を持っていることを察してしまう。
一方で自分の恋愛にはあまり興味がなく、誰かに恋をしたことはないし、誰かに恋をされた経験もなかった。
ところがある日、一香はクラスメイトの沙羅から自分に向けられた思いに気付く。沙羅はクラスでは誰とも話そうとしない大人しく暗い印象の少女だった。しかし一香は彼女のことを知ろうとして調べてところ、ポッドキャストの配信をしていることが判明。一香はその配信を聞き始める。
普段とは違う沙羅の様子に、一香は戸惑いながらも彼女のことを好ましく思っていく。しかしその思いはファンとしての感情だと一香は感じていた。
ある日の配信で沙羅は自分の配信を聞いてくれた人が近くにいたことを明かす。それは一香にとっては自分以外のファンが身近に居たことに驚くと同時に、嫉妬に似た感情を覚える出来事だった。
そんな暗い感情が恋のはずがない。そんな感情は消えて欲しいと願う一香だが、思いは強くなるばかり。
その思いは恋じゃないと思いつつも、彼女の配信で聴いた言葉。
『もし苦しいなら、伝えるだけでもいいんだよ』『関係を進めるだけが、告白じゃないよ』と、それは自分が以前恋する少女に送ったアドバイスだった。
その言葉を聞いた一香は、自分の気持ちを全て彼女に伝えることに決めるのだった。
天体の回転について
宮田眞砂その日、美空は大人が泣くことをはじめて知った。迷いこんだ祖母の家の離れに広がるプラネタリウムの宇宙のなかで、ひとりの女性が泣いていた。紬という名のその女性は、美空の叔母にあたるひとらしい。紬は引っこみ思案で親戚の集まりにはあまり顔を出さず、いつも宇宙のことばかり考えていた。
彼女に興味を覚えた美空は、親戚の集まりがあるたびに紬のもとへと遊びにいった。美空は彼女から宇宙に関するさまざまなことを教わった。星は星に引かれて落ち続けながら、けれど落ちきらずに天体の周りをくるくると回っている。そんな天体の回転についてのイメージに、美空はひととひとの関わりの不思議さを重ね合わせる。
年に一度か二度、親戚が集まるときにだけふたりは出会う。互いに別の軌道を回るふたつの星が、近星点で近づくように。そんな逢瀬を重ねるうちに、美空は紬に対する恋心を自覚する。けれど紬は、自らの孤独を乗り越えようとするように「普通」であることを志向した。
季節は巡り、年はすぎる。誰も同じではいられなくなる。時代も、家も、親戚たちも、美空も紬も変わっていく。ときに近づき、ときに離れながらもふたりは人生を生きていく。そんなふたつの天体の、回転についての物語。
凍てつく焔の花園にて
橘こっとん「あの花はどこにもないの。私にもあなたにも、この街のどこにも」
1942年2月。敵軍に包囲され孤立したソ連の都市・レニングラードは飢餓と極寒の地獄を迎える。
周囲の人間が次々に息絶えていく中、少女アーリャと死にゆく姉を救ったのは、姉のかつての友人ヴラジレーナだった。
姉を病院に入れ、アーリャとともに暮らしはじめるヴラジレーナ。彼女はアーリャや見ず知らずの他人にまで親身に接する。
アーリャは極限状況における彼女の善意に戸惑いを抱くようになり、ヴラジレーナが党幹部の娘であることが判明したとき、その疑問は頂点に達する。
なぜ恵まれた生活をしているはずの彼女がこんなことを、と問えば、アーリャの姉の絵のおかげだという。互いを助けあう人々と花の絵を描くさまを見て以来、ヴラジレーナはアーリャの姉に憧れていた。あの絵の世界を実現させたい、あの花を見るまで死ねないのだと笑うヴラジレーナ。
しかし彼女の純粋さはアーリャと姉の心を蝕んでいく。
ふたりはかつて飢餓に陥った妹を救うため人肉食を犯し、それゆえ家族の死を招いていた。図らずも生き延びたふたりは罪の意識に苛まれるが、入院する病院が空襲により焼き尽くされたことで、姉は苦悩から永遠に解放される。
一方で何も知らないヴラジレーナは「どうして何も悪くないあの子が死ななきゃいけないの」と嘆き、アーリャに絶望的な断絶を確信させた。善意ゆえの傲慢、救いによる苦痛。そしてアーリャの胸には生まれて初めての激情――ヴラジレーナへの殺意が芽生える。
敵軍から爆撃される可能性の高い疎開ルートへ足を踏み入れ、アーリャはヴラジレーナと最後の旅路に出るが……
pixiv×百合姫百合文芸コンテスト応募作品うるせぇとっとと死ね
七瀬シド(nns)マヤという同性の恋人が交通事故にあった女性、ハルカが主軸になっている話です。理不尽な勘違いや、不当な扱い、そんな不条理を体験しても尚、側に居たいと思える人と出会った女二人が平穏を模索する話でもあるかもしれません。
大学で出会った二人は、同性同士ということを除けば、至って平凡に距離を縮めて交際を始めます。残念ながらマヤの家族の理解というものは得られませんでしたが、二人のみの規模で見れば、交際は順調そのものでした。そんな二人の最期にして始まりの物語です。
誤解を解くことすら馬鹿馬鹿しい、まるで何かの事象や現象のように、下らない言葉を”普通”という壁の後ろから投げつける者に対する、一種のカタルシスのようなものが含まれている、と感じる方もいるかもしれません。
”死ぬまで一緒だとはよく言うけど、できることなら死んだって一緒にいたい”、と願える誰かがいる方を応援するような作品です。
「とっとと死ね」という言葉だって、シチュエーションによっては愛の囁きになるんじゃないか、という思い付きから書きました。
好きと言わせた方が勝ち
ピッチョン※続き出来ました『キスしたいと言わせた方が勝ち』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12765076
清藤由希と沢渡くるみは幼稚園来の親友だった。
小中高と毎日一緒に学校に通い、放課後は一緒に寄り道をして帰り、休日もどこかへ遊びに行く。互いの家にもよく行き来をして、もはや家族と言っても差し支えない間柄だ。
あるとき二人は気付く。もしかして、相手は私のことを好きなのでは、と。
戸惑いながらもその気があるのなら付き合ってもいいかなと考えた二人は、しかし自分から言い出すことには抵抗があった。勘違いだと困るし、なにより相手から告白された方が将来マウントを取れると思ったからだ。
二人はそれぞれ相手に好きと言わせるために策を講じることにした。
一方が百合マンガをわざと相手に見るともう一方は結婚情報誌を相手に見せる。
一方が映画のラブシーンで気持ちを高ぶらせようとすると寝たふりをしてこれを回避。さらには相手のいたずらを誘おうとする。
一進一退の攻防を続けるなか、いつもと違う様子の二人を見てクラスメイトからケンカをしたのかと心配をされる。
心配をかけまいといつも通り由希の体に触るくるみ。このとき二人はいつになく高ぶる自身の心臓の鼓動を聞いた。
その日の帰り道、二人は自然と心を通わせて手を繋ぐのだった。
※小説家になろうにも投稿しています
佳作
幼馴染の神百合作家様が私をヒロインにして百合小説を書いている。
虹星まいる日々原ナズナは百合を嗜む淑女である。そして、ナズナの幼馴染である入須リコは小説投稿サイトで百合作品を投稿する百合作家であった。ひょんなことから幼馴染が百合小説家であることを知ったナズナは、ファンとして陰ながら応援することを心に誓う。穏やかな百合ライフを送るナズナであったが、リコが投稿した一つの百合小説が彼女の人生を大きく変えることになる。タイトルは「リコリスの花言葉」。それは、「ナズナ」という少女をヒロインにした恋愛小説であった。
お天気おねえさん、女子アナに恋をする。
オグリアヤ【あらすじ】
「――ではまた来週のニュースキャッチ・ナインで」
凛とした声がスタジオに響いて、沈黙の時間が数秒続く。3歳年下の彼女が告げるその声を合図に、番組は終わりを告げた。
キー局、ゴールデンタイムのニュース番組『ニュースキャッチ・ナイン』のお天気コーナーを担当する上田紘子は、同じ番組でメインキャスターを務める広瀬季衣アナと共にスポーツコーナーを担当する有原アナからスポーツバーに行かないかと誘われる。スポーツ観戦が苦手な上田はそれを断り、その場を去ろうとするが、残してきた広瀬アナの様子がどうしても気になってしまっていた。
翌日、お天気コーナーで流星群の話を持ち出し、さり気なく広瀬アナが有原とスポーツバーで夜を過ごしたのか確かめてしまう始末で、上田は年下の女の子に嫉妬するだなんてと自分を責めてしまう。
そんな気分を紛らわせようと、上田は休日に科学館の企画展を見に出かけようとするが、そこには偶然広瀬アナがいて――
お天気おねえさん×女子アナの、不器用な恋愛ストーリー。随所に散りばめられたお天気要素にも注目です。
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全6ページ/この物語はフィクションです。
*過去に同人誌で出したお話です。
首輪とロマンス
孤伏澤つたゐアルファの少女たちが通う女子高のクラスメイト、ココとマユ。ふたりが通学に使う電車には、黒い首輪をした少女がいつも姿を現す。彼女の姿が見えると、車内はいつも騒がしくなる。彼女がオメガなのか、運命の相手はもういるのか……。ロマンスに興味のある年頃の少女たちの想像が、あちこちで飛び交う車内で、マユはそれを「バカみたい」と一蹴する――。
オメガバース百合。短いお話です。アルファ×アルファですが、性描写はありません。
八月頭のハンマーヘッド
多架橋衛空飛ぶハンマーヘッドシャークが日本の夏の風物詩になって早十数年。
主人公の葉月は中学生最後の夏休みを、祖母の家でだらだらと過ごしていた。そんなある日、葉月の目の前に空から一頭のハンマーヘッドシャークが落ちてくる。しかもその口から楓夏と名乗る少女が飛び出してきて、巨大なフカヒレと引き換えに葉月にとある依頼を持ちかけた。なんでも楓夏はこれからの十日間で、自身を吐き出したハンマーヘッドシャークの肉をすべて食べつくさなければいけないらしい。ハンマーヘッドシャークに伝わる通過儀礼なのだという。
さまざまな困難を乗り越えた葉月は、必死に通過儀礼をこなそうとする楓夏に触発され、夏休みをだらだらと過ごしている自分を反省するようになった。幼いころ好きだったが頭の悪さから諦めていた天文学の道を、再び目指してもいいのではと思うようになった。
そして最終日。葉月は、楓夏といっしょにペットボトルロケットの打ち上げを成功させ、ハンマーヘッドシャークに戻った楓夏の背中に乗って自らも宇宙を泳ぎ回りながら決意する。もう一度、次は楓夏がいなくたって、宇宙に行ってやる、と。
楓夏を見送った葉月は、楓夏の形見であるハンマーヘッドシャークの頭部を自らの人生の指針として大事に携えながら、己の道を歩みだす。
キリンジ・フィールド
以医寝満 カンボジアのポル・ポト政権下の百合です。
1975年4月17日,カンボジア共産党ポル・ポト派,通称クメール・ルージュはカンボジアの首都であるプノンペンを占領し独裁政権を樹立させた。
荒廃した首都で目を覚ました5歳の少女ペイファは街から逃げ出す途中,同い年の少女ケツァナと出会う。二人は行動を共にすることになり,原始共産制の旗の下,強制労働と虐殺で地獄と化した4年弱を助け合いながら生き延びる。
「腐った林檎は箱ごと捨てなければならない」として医者,教師を始めとした知識人は皆殺し。歌を歌った人間,時計が読める人間,眼鏡をかけている人間,美人なども粛清。大人たちは次々と消え,いつしか洗脳教育を施された子供たちが人口の大半を占めるようになった。
1979年1月6日,カンボジア・ベトナム戦争のさなか,来るはずのない2つの台風がインドシナ半島を直撃。カンボジアへ侵攻していたベトナム軍は撤退を余儀なくされ,終わるはずだった独裁政権が首の皮一枚で繋がってしまう。
どうしよう……。
大体そういう話です。
あなたに芸術を捧げたい
毘沙門天ゆるいこ※本作は第二回百合文芸賞に応募し入選を頂いた作品です。
それ故、下記のあらすじにすべての内容が書かれています。本文を先に読むことを強く推奨します。
佐原霧絵は、芸術がわからない芸大生。孤独にまみれ、学内のハンバーガーショップで暴食を繰り返していた彼女は、あるとき名も知れぬ美しい先輩に『写真の被写体になってほしい』と頼まれる。
突然、自分の存在が求められたことに喜ぶ霧絵だったが、先輩が必要としていたのは彼女の『食べている姿』だった。先輩に心惹かれる霧絵は、撮影のたびエスカレートする要求に答えていく。
しかしラブホテルでの撮影を終えたその時、限界がおとずれた。霧絵は撮影以上の行為を求め、拒絶されてしまう。心に蓋をした彼女は、この関係の正体が芸術だと信じ、作品の展示を心の支えにするのだった。
展覧会当日。霧絵は先輩の写真を探し求める。しかし彼女の目の前にあったのは、自分の写真ではない、ただの空の写真だった。事情を問いただすと、先輩は真相を明かす。これまでの撮影は芸術ではなかったこと。霧絵のことを愛していること。ただ、なにもかもが遅すぎた。霧絵は先輩に失望し、踵を返して立ち去ってしまう。
それから霧絵は、ひとりだけになっても撮影を続けた。思い出の先にある姿を求め、先輩に真の芸術を捧げるために。再び情熱を囁き合う日を夢見て、霧絵はシャッターを切り続けるのだった。
邪魔をしないで、わたし達これからいい所
ピクルズジンジャーミッションスクール聖ルチア女学園高等部二年に所属する二人の少女、睦月亜衣と嶋利和音がとある日の放課後から消息を絶つ。二人が学内でも有名な恋人たちであったこと、名士の娘である亜衣に見合い話が持ち上がっていたこと等から駆け落ちとみられた二人の出奔を、ルチアの乙女たちのある者は憧れのまなざしみつめ、またある者は冷笑する。乙女たちがさんざめく学園の中で唯一二人の出奔の真相を知るのは、物語の語り手である「私」だけ。いつ何時でも私に見られることを嫌悪した二人は、視線を感じる学園から逃げ出そうとしたのがそれだが、二人のことを語ることが存在意義の私は物語世界の枠を踏み越えてまで逃げる二人につきまとい、二人の行動をつぶさに語ろうとする。亜衣と和音の二人は当然逃げに逃げる。
語り手であることから私が優勢のように思われたこの勝負だが、油断と慢心をつかれて私は逆に聖ルチア女学園の出てくる物語の世界に番人である読み手とともに名もない一少女という立場で閉じ込められてしまう。登場人物兼語り手になってしまった私にはもはや物語の外に出てゆく力はなく、読み手とともにその世界で暮らすしかなかった。
そういった理由から読み手のことをきらっていた私だが、私がノートにしたためる物語を通じて距離が縮まってゆき、いつしか二人の意識が亜衣と和音のものになっていることに気付く。読み手の誘導によってそう語らされていたことに気付いた私は、それを受け入れ最終的には睦月亜衣に変化する。そしてともに嶋利和音になった読み手とともにもう一度学園の外に出るのだった。
さくちゃんといっしょ
にこ「さくちゃん、わたしな、女の子が好きかも知れん」
小六のある日、「わたし」は幼馴染の「さくちゃん」にそのことを打ち明けた。シロツメクサを編むのが好きな、ちょっぴりクールで大人びていたさくちゃんがそれを受け止め、認めてくれたことで、わたしの人生はもう全部「大丈夫」になったのだった。それからだんだん年を重ね、中学生、高校生、そして社会人と成長していく間も、わたしとさくちゃんはずっと一緒にいた。中学校のクラスが離れても、さくちゃんが男に告白されても、高校が別れ別れになっても、さくちゃんが花屋さん、わたしが地元の小さな会社で働き始めても、わたしたちが離れることはなかった。
そして、ある寒い日に、わたしはようやく気づくことになる。女の子が好きなわたしが、手をつないでデートをしたりキスをしたり、その先のもっとエッチなことをしたいと思う相手──それは、ずっとそばにいてくれたさくちゃん以外には考えられない、ということに。恋に気づいたわたしは、大きなうれしさと一抹の悲しさを胸におぼえながら、真っ赤になったさくちゃんに、生まれて初めてのキスをしたのだった。