概要
芥川龍之介の短編小説『羅生門』『藪の中』を原案とする日本映画で、1950年に公開された。
ヴェネツィア国際映画祭やアカデミー賞などの世界の名だたる賞を獲得した、日本映画屈指の名画。
物語
時は平安時代。羅生門と呼ばれる崩れかけた都の正門で、3人の男のうちの杣売りと旅法師がある殺人事件の参考人として検非違使に出頭した際に見聞きした話を残る下人に語って聞かせる。
事の起こりは杣売りが薪を取りに入った山中で金沢武弘と言う武士の死体を発見した事だった。容疑者として多襄丸と言う盗賊が引き立てられ、証言者として発見者の杣売りだけでなく金沢の妻・真砂、そして金沢と道中で知り合った旅法師が出頭。
更には被害者である金沢の証言を聞くため、巫女まで召喚された。しかし、多襄丸・真砂・金沢の証言は悉く食い違う。果たして誰の証言が真実で、誰の証言が虚偽なのか。真相はまさに『藪の中』であるかに思えたが・・・・。
特徴
この映画の最大の特徴として、内容の九割が藪の中で構成されている。
これは、元々、企画の段階では『藪の中』を長編映画化するはずであったのに対して、藪の中だけでは長編にはならないということで、急遽『羅生門』と合体させたという理由がある為である。
その為、芥川龍之介のファンが単純に本作を鑑賞すると、タイトルと内容の違いから若干混乱をきたすことになる。
また、『羅生門』と『藪の中』はそれぞれ芥川の作家性を良く表したダークでブラックなオチが特徴的な作品であるが、本作は杣売りが捨て子の赤ん坊を育てる為に拾うラストシーンが希望と救いを感じさせる内容となっており、その点では批判されることが度々ある。
黒澤はこうした批判に対し映画評論家淀川長治との対談で『人間を信じなくては生きてゆけませんよ。人間が信じられなくては、死んでゆくより仕方がないんじゃないかしら』と反論している。
海外の映画界では本作の評価は高く、1つの事件に対して複数の登場人物の異なる視点からそれぞれ物語を描いていく形式をラショーモン・アプローチと呼んでいる。