「こんなところで負けるか!
私は!伽羅さんの弟子なんだ!」
概要
ライトノベル『死亡遊戯で飯を食う。』の登場キャラクター(メイン画像中央右側、緑髪の人物)
家庭環境に問題があり、抑圧からの解放をもとめてデスゲームの参加者となって生きる道を選ぶ。
原作一巻のエピソード「キャンドルウッズ」にて主人公幽鬼(ユウキ)の前に立ちふさがるも、絶望的なまでの実力差があり、あっさりと敗北してしまう。
しかし、彼女との短い出会いをきっかけに、それまで漫然とゲームに参加していた幽鬼は「ゲームを続けていくことの意義、続けていくための目的」について考え直すことになる。
そういった意味で物語の主題である「デスゲームで99連勝を目指すプレイヤー・幽鬼」を産み出す最初の契機となったキャラであり、幽鬼自身ものちに、記憶に残ったプレイヤーの一人として名前を挙げている。
プロフィール
本名は原作では未登場だが、コミカライズ版にて両親から「萌黄」と呼ばれるシーンがあり、本名=プレイヤー名、であるらしい。
年齢は登場時点で十五歳。
本編登場時の「キャンドルウッズ」で三戦目、という、まだ初心者に近いプレイヤー。
容姿
原作においては容姿について言及されていないため、挿絵の情報が全てである。
挿絵では特筆すべき点のないごく普通の体形で、萌黄色の髪を下寄りの左右で大きめに束ねている(要はしずかちゃんヘアー)
性格
良くも悪くも生真面目で思い込みの強い「自分にはこれしかない!」と思い込んだら軌道修正できずに闇雲に突き進んでしまう性格。
自分の在り方に強い不安を抱えているが自己解決できず、導いてくれる「強い誰か」にすがりたがる、というマインドコントロールされやすいタイプでもある。
更に、自分が生きるための短絡的な殺人に手を染める「弱さゆえの悪」である一方、自分の身も危ない状況で他人の身を心配するなど「根は良い子」の面も垣間見せている。
それらをまとめて言えば「影響をうけた相手、置かれた状況次第で善にも悪にもなる、典型的な一般人キャラ」だと言える。
生い立ちなど
デスゲームに参加するに至った経緯については
と語っている事から、家庭環境が原因である模様。
両親については、原作ではそれ以上の言及はないが、コミカライズにてデスゲームの師である伽羅にそそのかされ、自らの手で殺めたシーンが描かれた。
作中における動向
作中で登場したキャンドルウッズが三戦目ではあるが、一戦目で殺人鬼プレイヤー「伽羅」に出会って弟子入りし、ゲーム外で彼女の薫陶を受けたため、それなりには殺人スキルを有していた。
キャンドルウッズにおいては、チーム戦であるにもかかわらず「自チームが自分以外はすべて、右も左も分からない初参加者」という逆境であったため、止むを得ず恐怖で縛ることで統制し、師の教えを元にゲームを進めようとするも、様々な悪条件のため相手チームに終始圧倒され続け(後述)、焦りを深めていく。
更には相手チームにその師である「伽羅」が参加しており、いつものようにルールを全く無視して自由気ままにゲームを破壊し始めたことで状況が悪化。
生き延びるには速やかにクリア条件を果たさねば、と焦っていたところで主人公・幽鬼に遭遇。
経験値も才能も絶望的なまでに及んでおらず、難なく一蹴されて死亡する。
本人は「自分が自分らしく生きるにはデスゲームの世界しかない」と思いつめてプレイヤーとなったようだが、実際には進んで殺人を犯しつつも内心で罪悪感を抱え続けていたりする、どこまでもシャバっ気が抜けきらないキャラであった。
この点に関しては、直接に彼女を知る関係者は皆そう感じるらしく、
幽鬼からは「(デスゲームに)向いてない。実社会でやっていくべきだった」と評され、
師である伽羅からは、死亡したと聞かされた時、予期していたように「そっか」の一言で済まされてしまう。
後に登場した同門の弟子からも「長生きできそうにないタイプだった」と、散々である。
しまいにはコミカライズ版の巻末オマケにて、ゲーム運営からすら「生き残っていけるか疑わしい」と評価されてしまった。
また余談として同門の弟子からは「怪しい自己啓発に染まりそうなタイプ」とも評されている。
その時点ですでに殺人鬼・伽羅に心酔して弟子入りしているわけだから、まさにそのものであるが……
ゲーム「キャンドルウッズ」にて置かれた状況
萌黄が登場したゲーム「キャンドルウッズ」は、プレイヤーたちが「ウサギ」と「切株」の2チームに分かれ、「ウサギ」は一定期間生き延びれば勝ち。「切株」は一人につきウサギを5名殺せば勝ち、というモノである。
ウサギの方が大人数だが装備はなく、切株は少人数だが武器を支給されている、という違いもある。
萌黄は後者、切株チームであった。
ただし、この「狩る者狩られる者」の立場はルールで保障されたものではない。
つまり「ウサギ側は、切株を殺してしまえば結果的に生存できる」というクリア法も成り立つのである。
そして実際にウサギたちがそうしたことで、切株チームは絶望的な戦いに追い込まれていく。
また、このゲームにおける各チーム構成は、切株側が「ほぼ全員が初参加で少数。経験者は3戦目の萌黄ひとりだけ」なのに対しウサギ側は「大半がベテランで人数は切株の十倍。90戦超の伝説的プレイヤーなども参加している」と、質、量ともに圧倒的に上回っている状況であった。
ここから見えるキャンドルウッズの真の構図は「切株は狩られる側」というものである。
切株側は人数でも経験でも劣り、唯一のアドバンテージである武器も、奪われてしまえば終わり。
仮に個人ごとのノルマである「ウサギ5人殺害」を満たしたとしてもゲームの実施期間が終了するまではステージ内に留まらねばならないルールである。
両陣営入り乱れての殺し合いの最中に「私はもう5人殺したので戦いません!」と言って見逃してもらえる可能性は、あまりに低いと言わざるを得ない。
(*なお、事実上のゲーム決着後にこの論法で戦いを回避したキャラはいる)
では切株が生き延びるにはどうすれば良かったか?と言えば、例えば
「速やかに自分のノルマぶんを殺し、後はウサギに化けて紛れる(数百人いるので誤魔化せる可能性は高い)」
「可能なら、他の切株も殺して自身の殺害・露見リスクを低下させる」
といった方法が考えられる。
そういったいわば「図々しい」手段を思いつかず、提示されたルールに則って正面きっての勝負に挑んでしまう辺りが萌黄の限界であり、「デスゲームに向いてない」と評されてしまう所以であると言える。
(一方で初参加にもかかわらず正攻法でクリアした切株もいるため、その点からも萌黄の「向いてなさ」がうかがえる)
また置かれた状況を考えると運営から期待された役割は、
要するに初参加プレイヤーに対する「チュートリアルキャラ」だったとも考えられるが、
その場合、そうした末路を迎えることまで運営の想定だった可能性すらある。
いずれにせよ「素直に言うことを聞いて、期待に応えるよい子」からの脱却を求めて参加したはずのデスゲームにおいてすらも、最後までその枠から抜け出すことができなかった、と言えるかもしれない。
師・伽羅との関係性
初参加したゲームで、師である殺人鬼・伽羅と良くも悪くも運命的な出会いを果たす。
奔放な殺人者である伽羅はゲームのルールを全く無視して他のプレイヤーを次々と殺害していくが、前記の通り「両親の言いなりになったせいで人生が滅茶苦茶になった」と感じていた萌黄は、なにものにも縛られず己が思うままに振る舞って他者を蹂躙していく伽羅の姿に、強いあこがれを抱いてしまう。
そしてついに殺されようとしたとき目を輝かせて「弟子にしてほしい。貴方みたいになりたい」とのたまった萌黄を、伽羅は「可愛い」と評し、命を助けた上で弟子入りを許す。
その後は伽羅の元で他の弟子とともに共同生活をするようになり、この期間にプレイヤーとしての修行を積み、殺人への覚悟やその技術を習得していくことになる。
……もっとも、その成果は前記のとおりである。
ちなみに後に登場した同門の弟子たちはいずれもベテランプレイヤーに成長しており、回想描写から、師である伽羅も本人なりにきちんと指導をしていた事がうかがえる。
であるにもかかわらず、恐らくは性格的にもっとも生真面目に指導を受けていたであろう萌黄が一山いくらレベルの実力にしか成長しなかった、というのは、やはり幽鬼に評されたとおり「向いてなかった」のであろう。
主人公・幽鬼に与えた影響
ここまで書いた通り、萌黄は、本人以外は誰が見ても「デスゲームに向いてないキャラ」であった。
しかし、その「誰が見ても分かる向いてなさ」が故に、幽鬼に一つの疑問を抱かせるに至る。
そんな「向いてないヤツ」が、何か重大な決意があって必死に参加しているにもかかわらず、
大した動機もなく漫然とプレイしてる自分が、才能任せで踏みにじるのはどうなのか、と。
自分もデスゲームに挑み続けるに足る相応の目標、物語をもっているべきなのではないか、と。
こうして生じた迷いは、萌黄の師である伽羅との対戦を通じて「このゲームで99連勝する」という、物語の根幹となる大目標へと昇華されていくことになる。
余談
参加したゲーム
第1回 | デスクリスマス 原作2巻一部一般書店特典。クリスマスがテーマで、サンタ衣装のプレイヤーが凶器入りプレゼントを配り合う対戦型。師である伽羅と出会う。コミカライズでも一部描写された。 |
第2回 | 詳細不明。伽羅のセリフ(萌黄と出会った回以外はプレイヤー皆殺しにしてる)より、単身で参加したものと思われる。 |
第3回 | キャンドルウッズ 詳細はリンク先、および本記事 |
「切株」の意味するもの
萌黄の参加したゲーム「キャンドルウッズ」は、ゲームの個別記事にもある通り唱歌「待ちぼうけ」がモチーフになっている。
「待ちぼうけ」およびその元ネタになった故事は、要約すれば「タナボタの成功体験にしがみついてしまったがために破滅する話」だが、これはまさにキャンドルウッズまでに至る萌黄の状況そのものである。
「結局、ウサギをひとりも狩れないまま破滅する」という展開も、恐らくは元の故事にちなんだブラックジョークである。
幽鬼との戦いと、その結果
二人が出会ったとき、幽鬼が素手だったのに対し萌黄は銃器を含む複数の武装を所持していた。
にもかかわらず、萌黄自身の絶望的なセンスの無さ(煙幕の中で闇雲に銃を乱射するなど)により一方的に翻弄され、武器を奪われ、かすり傷ひとつ負わせられずに敗北。
幽鬼からは「仮に百回繰り返しても結果は変わらないだろう」と述懐されてしまっている。
キャンドルウッズでの「戦果」
作中、敵チームであるウサギをただの一人も殺せてない萌黄であるが、逆に味方である切株は何人も手にかけている。
冒頭、殺人を尻込みする初心者たちを「教育」するための見せしめとして三人。伽羅による殺戮が始まった後、自身の生存のため(武器を奪うため)に五人を殺している。切株は萌黄自身ふくめ30人のため、1/3近くを萌黄が殺した計算になる。
また、ウサギを殺せなかったのは「経験者である自分が皆を指揮しなければ負ける」という思いから最初は指揮官に徹していた事が大きいが、クレバーに考えれば「まだ多数の味方がいるときにこそ、自分のノルマを先にこなすべき」だったと言える。
状況が悪化してからも、味方を盾や囮にする発想ができず短絡的に手にかけており、総じて萌黄の「向いてなさ」の一端といえる。
幽鬼との対比
萌黄は、いわば主人公である幽鬼を裏返しにしたようなキャラであり、対比できる部分が非常に多い。
キャンドルウッズにおいては、前エピソード「ゴーストハウス」にて披露された幽鬼の鮮やかなクリアの手際を、そのまま逆にしたような失敗をし続けて敗北している他、どちらも業界最高レベルの師をもつが、幽鬼はその教えを元に独り立ちしており、萌黄は、教えを忠実には守るがそこから一歩も出れず破滅している。
人間性についても、浮世離れして非常識な幽鬼に対し、萌黄は良くも悪くも常識的である。
デスゲームの才能については言わずもがな、である。
また、萌黄のキャラ性は「才能が開花する前の、デスゲームの正統派主人公」とも取れる要素が多いため、いわば「主人公補正を得られなかった主人公キャラ」というブラックなパロディかもしれない。
身長コンプレックス
萌黄にはどうやら「背を伸ばしたい」という願望があるらしく、作中では「人をまたぐと背が伸びない」という迷信を気にしているシーンがある。
ただし作中でとくに低身長だと表現されてるシーンはなく、コミカライズなどでも「身長は平均よりやや高い」と表現される幽鬼よりも少し低い程度である。
師である伽羅が身長170㎝という長身である為、師への憧れによるものかもしれない。