概要
『死亡遊戯で飯を食う。』は、MF文庫J出版のライトノベルである。
鵜飼 有志 (著), ねこめたる (イラスト)
ジャンルとしてはデスゲームものにあたるが、デスゲームそのものよりも「それを"生業"として生きる一人の少女の物語」が主題であり、このジャンルに一般的な「参加者それぞれが抱える背景事情やドロドロした人間ドラマ」のようなものは殆ど描写されない、ばっさりとドライ&クールな展開が持ち味となっている。
全体的なストーリーは、デスゲームに参加し続けて99連勝を目指している少女の物語となっているが、個々のエピソードとしては最初は「第28回目のゲーム」から始まって、次の話は「第9回のゲーム」に戻るなど、時系列不問のオムニバス式であるのが特徴である。
また、あくまで「デスゲームを生業とする主人公の物語」であるため、エピソードによってはその回のデスゲーム展開はダイジェストで流されてしまうこともあるなど、必ずしもデスゲームを主題としない場合もある。
世界観
舞台としては現代日本だが、その裏側で謎の組織による目的不明のデスゲームが開催されている。
運営の正体も目的も不明ながら「どこかに観客が存在する、ある種のショービジネスの側面がある」ことが示唆されており、以下のような特徴がある。
- プレイヤーは全員、容姿の見栄えがする若い女性(注1)で占められている。
- プレイヤーは参加ゲームごとのテーマに沿ったコスプレ衣装を着せられる
- 死んだとしても見た目がスプラッタにならないよう、血液などに特殊処理が施される
- 「ゲームバランス」の概念があり、死者は出ても、全滅はしにくい様になっている。
- ゲームに生き残ったプレイヤーには、数百万単位の賞金が出る。これは各プレイヤーに対する「観客」からの人気によってある程度上下する。
- ゲームへの参加、引退は基本的に任意である(注2) そのため、特にベテランには「わざわざデスゲームに参加するような社会的・人格的問題を抱えた人物」が多い。
- ゲーム終了後に生きていれば、大抵の怪我は運営が無償で治療してくれる(注3)
- 二回以上参加して生き延びたプレイヤーには、専用のエージェントがつく。ゲームの参加案内や送迎など、マネージャーのような業務を務めてくれる。
(注1)「見栄え」のジャンル幅はかなり広いようで、筋肉ムキムキのマッチョ美女や、
ポッチャリというよりは明確にデブ寄りらしき「太めの少女」が登場している。
また年齢としては、明言された範囲の最高齢では28歳のプレイヤーがいる。
(注2)プレイヤーの総数が減り過ぎた場合は、ゲーム内容の詳細をぼかして
「凄く稼げる仕事あるよ」的な話で、半ば騙して参加させているケースもある模様。
一方で引退時は、ゲームの事を口外さえしなければアッサリ一般社会に戻れる。
(注3)運営の医療レベルは常識を超越しており、たとえば「全身バラバラになった」としても
「パーツがきちんと揃っていて、まだ生きている」なら完璧に元に戻してくれる。
ただし万能ではなく、粉々に吹き飛んでしまった部位は治せない。
眼球などのデリケートな部位は完治できないなど、ある程度の制約がある。
以上のように、本作のデスゲームは「参加するかどうかはプレイヤー次第」「ゲームバランスの概念があり、それを理解した上で攻略法を立てて生き残る余地がある」「ゲーム前後のアフターサポートも万全」という、ある意味「きちんとした競技」の側面を持っている、という珍しい特徴がある。
そしてそれが故に、主人公のように「生業としてデスゲームに参加する」というスタンスも成り立っている。
ゲームのルール
本作に登場するデスゲームには様々なパターン、シチュエーションのモノがあるが、競技性を担保するためか「シチュエーションに関わらず共通する基本ルール」のようなものがある。
以下はその一例。
- ゲームの種類は、大まかに「制限時間内にステージから抜け出す"脱出型"」「指定期間だけステージ内で生き延びる"生存型"」「プレイヤー同士が、チーム戦又は個人戦で指定された人数を殺害する"対戦型"」の三種、またはそれらを組み合わせたものとなる。開始時に説明されることもあれば、自分で判断しなければならないこともある。
- 基本的にゲームバランスは「生存人数が参加者の約7割」になるように設定されている。ただしプレイヤー間の争いによってはそれ以上に死者が出るケースもある。そのためベテランはまず「今回の最大生存人数」を見極めることで、不要な争いを避けようとする。
- 初参加のプレイヤーは、まとめて参加するように調整されることが多い。「熟練者の中に初心者が一人」といった状況が起きないようにされている模様。
- トラップなどは序盤は致死性が低く、後半に行くほど凶悪で致死的になる傾向がある。また同様にプレイヤーが一網打尽になるようなトラップも基本的には無く、一見そう見えても努力次第で(或いは犠牲次第で)突破できるようになっている。
- ステージ内に配置される飲食物は基本的に安全で、毒などが仕込まれてる事はない。ただし、その回のゲームコンセプト自体がそういった趣旨である場合は除く。
- 武器の持ち込みは禁止。ただし「自分の肉体と呼べる範疇なら良い」らしく、ゲームで失った四肢を生身よりも性能の良い強化義肢に変えているプレイヤーや、爪を研いで簡易な刃物のようにしているプレイヤーは少なからず存在する。
いくつかのジンクスや謎
舞台は一応「現代日本」ではあるものの、本作の「ゲーム」には明確に現代の常識から逸脱した不可解な謎がつきまとっている。
三十の壁
作中でたびたびプレイヤーたちによって言及される、有名なジンクス。通算で30戦目となるゲームに参加したプレイヤーを「通常なら考えられない不運」の数々が襲う、というもの。
単なるオカルト話のプラシーボ効果、では説明がつかない不可解な逆境に追い込まれるようで、実際に30勝越えのプレイヤーは、29勝以下のプレイヤーに比べ極端に数が少なくなっている。
99連勝
主人公・幽鬼の目標であり、彼女の師である白士の目標でもあった連勝記録。
幽鬼は「単に過去の最高記録更新というだけで、数字自体に意味はない」と認識しているが、実際には「ゲーム」の運営目的そのものに関わる重大な意味があるらしいことが、折に触れて示唆されている。
運営の正体と目的
「ゲーム」が見かけ上ショービジネスであり、そのように運営されているのは事実だが、それを行っている運営の正体と目的は全く不明となっている。
プレイヤーたちに施される各種の医療措置、機密保持のための記憶消去など、既知の現代技術を明らかに超えたテクノロジーも有しており、単なる「悪趣味な金持ち向けの殺人エンターテイメント」ではない一面をのぞかせている。
主要登場人物
本作の主人公。17歳。本名は「反町 友樹」
作中たびたび「幽霊のような」と評される、生気と現実感の欠けた風貌をしている。
社会性が致命的に欠如しており実社会ではマトモに暮らせない(本人談)ため、あるとき出会った「ゲーム」を「これが自分の生きる世界」と定めて参加し続けることになる。
それでも当初は「他にやることがないから」くらいの希薄な意識で参加していたが、とあるゲームで師と仰いでいたプレイヤー「白士」との離別を経たことで、彼女の目標だった「このゲームで99連勝する」を受け継ぐ。
身体能力や戦闘スキルは相応に高いものの超人的というほどではなく、単純な戦闘力においては対戦相手に後れを取ることもしばしばある。
しかし生死に関わる出来事への勘の良さや、判断能力の高さ、土壇場での思い切りの良さなどで死地を潜り抜けていく。
ゲーム中は一瞬前まで味方であった人物でも必要なら容赦なく殺害するほどのドライさを
発揮するが、そうした冷酷さは「デスゲームを生業とする以外の生き方ができない」という自己認識に適応するための、ある種のマインドセットの結果であるらしく、根っこのところでは人並みの道徳心を有している(少なくとも、それについて悩むことができる)描写も多い。
デスゲームに参加するまでの経緯や生い立ちなどの詳細は明かされていないが、中学校くらいまでは、学校に通える程度には普通の生活をしていたらしいこと、家族は両親がいたが、現在では別離しているらしい事が断片的に描写されている。
白士(ハクシ)
幽鬼の師。年齢不詳の長身の美女。本名は「白津川 真実」
まだデビューしたての頃の、天性のセンス任せでゲームをクリアしていた幽鬼を叩きのめし「この先を生き延びていくための攻略法」を教え込んだ人物。
90連勝以上を誇る最古参クラスのプレイヤーであったが、目標としていた99連勝を目前にして敗北。その目標は、幽鬼が受け継ぐこととなる。
対人関係が壊滅気味の幽鬼が、珍しく敬愛している(らしい)人物。
幽鬼のエージェント
黒スーツにサングラスで固めた成人女性。幽鬼の送り迎えを担当している。
ビジネスライクな付き合いではあるが関係性は良好で、幽鬼が私生活の困りごとを相談することもある。
引退した元プレイヤーらしく、必要に応じて荒事もこなす。
義体職人
例えるならドワーフのような「低身長で筋肉質、髭もじゃ」な見た目の中年男性。
プレイヤーたちが四肢を失った際に、代わりとなる人工義肢を作ってくれる職人。
職業がら顔が広く、交友関係の狭い幽鬼にとっては貴重な情報源となることも。
その他の登場人物
デスゲームを扱うテーマ上、名前やイラスト付きのキャラが出てきてもその回かぎりで死亡してしまうことも多い。一方で「基本的には七割生存するゲームバランス」であるため、初登場時はモブ同然のキャラでも、のちに思わぬ形で再登場することがある。
以下に、複数の巻に渡って本人または名前が登場するなど、出番(?)が多めのキャラを上げる。
まだゲーム経験が少ない頃の幽鬼と対戦したプレイヤー。
「デスゲームで人を殺して生きる」ことに鬼気迫る覚悟を固めて参加しているが、根っこのところで悲しいほどに「一般人」であり、デスゲームに対する適性は低い。
しかし、萌黄と正反対に「才能はあるがろくな目的意識も動機もなかった」幽鬼は、彼女との対戦を通して「このゲームを続ける意義、意味」について見つめ直し「死亡遊戯で飯を食う」ことを決意することになる。
そうした経緯から、プレイヤーとしての実力は問題外だったものの、幽鬼に強く記憶されているプレイヤーの一人。
伽羅(キャラ)
人を殺したいが故にデスゲームに参加している殺人鬼プレイヤー。
「参加したゲームの他プレイヤーを、ゲームの内容と無関係に皆殺しにしている」が故に、キルスコアの割にまったく名前を知られていない、という恐ろしい人物。
とあるゲームにて幽鬼に倒されるが、彼女に様々な意味での傷跡を残した。
藍里(アイリ)
強い目的意識はなく、流されるように何となくで参加している厭世的な少女。
「毎回極めつけの面倒事には巻き込まれるが、何となく生き延びる悪運の強いプレイヤー」として何度か登場する。
御城(ミシロ)
自信満々で高飛車なお嬢様。
とあるゲームで出会った幽鬼を「口だけの自称ベテラン」と侮るも、格の違いを見せつけられて叩きのめされてしまう。
しかしその悔しさをバネに奮起し、後に思わぬ強敵となって幽鬼の前に立ちふさがる。
玉藻(タマモ)
とあるゲームで幽鬼と出会った初心者の少女。
行きがかりで助けてくれた幽鬼を「師匠」と見込んでまとわりついてくる。
「自分が弟子を取ること」についてかつての自分と師匠を重ねてしまった幽鬼は、彼女との関係性に色々と悩むことになる。
尸狼(シロウ)
とあるゲームで幽鬼と出会ったプレイヤー。
やたらに芝居がかった喋り方をする、白黒メッシュ髪のマニッシュな美人。しかし初対面の際は「その他大勢」扱いで他のプレイヤーともども一蹴されてしまい、幽鬼にまったく記憶されていなかった。
鏡に映った自分の姿に見とれる事が出来る重度のナルシストであるなど、ネタキャラ感も強いが…
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3巻特典ボイスドラマPV
幽鬼役は中島由貴。