事件の概要
2022年5月27日、法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」に以下のニュース記事が掲載された。
記事内容の要約は以下のとおり。
- 「Pixiv」を運営するピクシブ社に勤めるトランスジェンダーの女性社員が、男性上司からセクハラを受けたとして、男性上司および同社に対して、慰謝料約555万円を求め、東京地方裁判所に提訴した
- 原告は2018年4月にデザイナーとして入社した当日、歓迎会で同社執行役員の男性上司(加害者)から腰に手を回された上で、わいせつな言葉も掛けられる等した
- 2018年夏頃には、男性上司から原告に対してセクハラについての謝罪があったが、「男だから平気であると思った」「これからはお前を1人の女性として見る」などといわれるなど、トランスジェンダーの性同一性について理解を欠く内容であった
- あろうことか謝罪後も、手を握られた上で性的な質問をする、原告の陰部に顔を押し当てられるなどのセクハラは続き、顔を押し当てる際の様子を撮影した写真もあるという
- 一連の問題を会社に訴えた結果、2019年4月には、男性上司は懲戒処分として執行役員を解任された。しかし、2020年4月からの1年間は同じ事業部へ配属される状態になるなど、配慮が行き届いているとは言い難い状態であった
- 原告は2022年1月、精神疾患があるとの診断を受けて休職。2022年4月に復職したものの、精神的損害は大きく、男性上司との慰謝料請求に関する交渉も不調に終わったことから、訴訟提起をするに至った
- 周りにも同様の被害を受けている女性がおり、原告はピクシブ社に対し一緒に相談したが、生来の女性と原告に対するセクハラでは「重みが異なる」といわれ、非常に悔しい思いをした
女性且つ性的マイノリティ(LGBT)である被害者に対するあまりに酷いセクハラ内容と、原告以外にも被害者が出ている状況でありながら、ピクシブ社が未だに加害社員を懲戒解雇せず、事件についても会社側が把握している事実公表や一切コメントを行っていないことから、Pixivユーザー中心にSNS等で炎上状態となった。
退会、意見送付……ユーザーの様々な反応
ピクシブ社は2018年にも、当時の社長であった永田寛哲氏がプロデュースしていた元アイドルの女性に性加害で訴えられるというスキャンダルを起こしており(pixiv社長セクハラ事件)、世間から多数の非難を浴びていた。永田氏はその後責任を取り辞職している。
本原告の被害は2018年の入社時から起こっており、ピクシブ社がセクハラ問題について一切事件の反省なく、企業コンプライアンス上問題のある行為を繰り返していた疑惑が浮上している。
本件を受けてユーザーには即時退会を表明する者の他、
- 「仕事の告知用や絵や小説を載せてポートレート代わりとしている人が圧倒的に多く替えが効かない状況を理解していないはずがないにもかかわらず責任感のない企業であることを批判」する声
- Pixivが一強という認識が結果的に事態を硬直化させ、加害者の増長を招いたとする声もある。
- 「セクハラという名目で矮小化された性加害問題を適切に対処しない会社に金銭を支払うのは、社会の倫理観を毀損する行為であると考えたので」Pixivプレミアムを退会したという声
- 「ユーザーには性器修正しろだの年齢指定しろだの何だのいっておいて運営側の性欲無修正なのおかしいだろ。加害社員はちゃんと修正Or削除されて欲しい」という声
- 退会や作品削除の動きに対し「Pixivというサービスが好きで使ってんじゃなくて好きなものの蓄積がもうほぼPixivにしかないから使わざるを得ない」し作品は削除しないで欲しいという声
- 「『Pixivを退会しない奴は意識が低い』『Pixivを退会しない奴は事件を軽く見ている』『Pixivを退会しない奴は同類』みたいにならないことを祈る」と炎上状態を不安視する声
- 「「Pixiv退会しない人が責められる空気になるのを危惧してる」みたいな意見回って来たけど今退会や作品非公開等のアクションを起こした人は作家として不利益しかないことを背負っても性暴力やSOGIハラに抗議する気持ちで各々自分で考えてやってるだけで、それらを勝手に一纏めにして同調圧力に変換するのは変である」という上記意見への反論の声
- 「Pixiv退会は真面目に働いているPixiv社員が可哀想という意見もあるみたいであるが、職場にハラスメントがいつまでも蔓延っている方が可哀想ではないのか?」という声
- 「Pixivセクハラ問題見てて思ったけど、「セクハラへ抗議します」という声よりも「抗議を押し付けるな」という声の方がバズる国」日本が異常であるという声
- 他不買運動にもいえることであるけど、「ちゃんとしてなかったら会社が存続出来ない」って思わせないといけないという声
- 同調圧力で退会するのもおかしいが、退会しないことの免罪符を配るのは汚い。退会する・しない、セクハラを容認する・しないの責任は各会員が負うことという声
- 読み専ユーザーに出来るのは「他人事で流さないぞ」という意思表明のための問合わせであると思うし、ついでに「抗議活動で好きな作品が見られなくなった。このような事態が続くのであれば読み専もPivixから撤退する。そうなる前に、事件被害者にきちんと謝罪して誠実な対応をしろ」といっておけば抗議活動をしている作家さん達のためにもなるんじゃないかなーって思いますという声
- 抗議するならPixivの株主を揺さぶる方が大きな力が動くんじゃないかと思う、代表が同じムービックとか親会社にあたるアニメイトホールディングスにも問い合わせていこうという声
- そもそも根っこのハラスメントより抗議行動の是非を問う議論の方が優勢のように見えるという声
- こんなやらかして何も変わってない企業に関わってたら次に酷い目に遭わされるのは自分であろうから離れたという、抗議以前に身の危険を感じて退会した声
- Pixiv社への広告収入にこれ以上加担しないために、Pixiv上の作品は全て非公開としましたという声
等々、多数の意見が出ているものの、「ピクシブ社は速やかに何らかの適切な対応を取る必要がある」という点では一致している。
漫画家の山内尚氏は、「前回のセクシュアルハラスメントの問題から考えるとまたボンヤリした対応しかない可能性もあるので、いろんな人の声が集まるといいよねと思います」とコメントし、「お問い合わせ」フォームからのコメント送付を推奨している。
運営からの反応
これを受けて運営は2022/5/3016:45頃に弊社におけるハラスメントに関する報道についてのお詫びとお知らせというツイートをしているが、よく読むと2019年のことには触れつつ、2020年からの不祥事には何一つ触れていないという、謝罪文の体でごまかしていることが分かる。つまり前述の山内尚氏が懸念していた「ボンヤリした対応」どころではなく、運営は今回の不祥事そのものを認めていないため何の対応もしておらず、結論としては速やかに何らかの対応を取るフリをするという悪質な形で逃げたこととなる。
文書には「2019年に該当する加害者に対して、降格・減給処分と共に、被害者への接近禁止等を命じております」とあるが、逮捕もあり得る案件であり普通なら懲戒解雇に処される事件である。そのうえ、加害者が2020年には今回の被害者と同じ部署へ配属されていた。研修をしている旨も書かれているが、その結果がこの不祥事なのであから、研修が意味がないものであったことを証明している。
そしてこの文書では今回の被害者に対して謝罪を何もしていない。
Pixiv社長セクハラ事件の頃と何も体質が変わっていないことが明るみに出たのである。
結果として、作品非公開で留めるつもりであったユーザーを退会へ踏み切らせる事例が出ており、火へ油を注ぐ形となった。
さらに6月になると、過去のR-18作品について表現範囲規制が強化されたことを理由にアカウント停止処分を始めた様で、このタイミングでそれをやることに疑問の声が噴出。プレミアム解除したユーザーがその理由として今回の事件を抗議したところ9年前の作品に対して警告を入れて来たため関連性を疑っているという内容の報告も上がっている。
6月7日に対象ユーザーのアカウント停止を一時的に中止したとあるが、これまで運営は「ユーザーからの報告には具体性を求めるのに、運営からユーザーへの警告においては具体的な作品を指定して問題点を指摘していない」という問題点はそのままであり、過去の作品が多いユーザー程対象になりやすい現状についても、それだけ長くPixivを盛り上げて来たユーザーへの対応が不誠実であることに対して新たな怒りの声が上がっている。
事件による弊害と注意喚起
以上のことから、同じ過ちを繰り返した運営に対する抗議の一環として、ユーザーが作品非公開・Pixivからの退会をしており、特にセクハラを重大な社会問題として重視する海外にこの情報が知られたことで海外ユーザーからの退会者が出ているため、今後想像以上の結果へ発展する可能性がある。一方でそれによって今まで投稿された作品が閲覧出来なくなる、ということから危機感を抱く者達も少なからず存在する。
また、騒動に乗じてイラストとは関係の無いものを投稿するユーザーや、ピクシブ百科事典を荒らすユーザーや、内容がない記事を乱立してサーバーに負担をかけるユーザーも急増している。
ボイコットと称して汎用メイン画像まとめに素材として投稿されていた作品を削除するユーザーも存在する。
最後に
SNS上で他利用者へPixiv退会行為を迫ったり強要したりする行動は慎もう。
世の中の出来事に対して自分なりに意思表明すべく行動を起こすことは個人の自由であるが、行動を起こさないこともまた個人の自由である。それ以前に、事件に対する関心の有無自体、人によりけりであればからである。善意の行動を他人に強要することはハラスメント行為と何ら変わりないことを念頭へ置いて頂きたい。
関連タグ
- Pixiv社長セクハラ事件:過去に発生した同様の事件
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