概要
音楽に関する俗語。実際に演奏されている音を聞き取り、耳で「コピー」するように音楽を再現すること。
主に他者の作曲・演奏を聞き、楽器(必ずしも同じ楽器である必要はないが、軽く口ずさむ程度や鼻歌は除くことが多い)やDTMで再現することを指し、場合によっては聞き取った音を譜面に書き起こす(聴音、ソルフェージュなど)領域までを含む。
楽曲全て・演奏されている楽器のパート全てを再現するものだけを指すわけではなく、特定の楽器や一部のフレーズを抜粋すること、音程そのものだけではなく音色の再現や、一般的な楽器や楽譜で表しにくいような音(例えば話し声や鳴き声、機械などの操作音、効果音など)を再現することも「耳コピ」と呼ばれる。
耳コピを行う者が絶対音感を持つ場合は、聞いた音から直接採譜したり演奏したりすることもできるが、楽器で確認しながら行う、何度も聞き込んで元の音を流しながら調整するのが大半のため、必ずしも絶対音感が必要なわけではない。
また、耳コピができる人が全員聴いたその場で覚えて演奏できる即興演奏ができるわけではない。例えばコード進行の理論においては「こういうジャンルは、この和音が来たら次はこう来る」というパターンがある程度固まっていることから、理論を習得している人はすべての音を聞き取らなくても流れを予測して演奏することができるが、予測が外れたり、メロディやリズムが正式な楽譜と微妙に違っていたりすること、また覚えても演奏が追いつかないことは多々あり、即興演奏自体は耳コピとは別の技能であるといえる。
モーツァルトが父親のレオポルトとのイタリア旅行の際に、バチカンの秘曲、アレグリ作「ミゼレレ」をシスティーナ礼拝堂で一度聴いて記憶し、宿に帰ってから譜面を書き上げたという伝説は有名である。これは、モーツァルトの優れた音感に加えて記憶力も関係しているといえ、全ての人が同じように一度聞いただけで完璧に覚えて再現できるわけではない。
曲を譜面化していく技術、記譜法は古くから存在しているが、作曲技法である12音技法(あるいは12音音楽)で必ずしもすべての楽曲を再現できるわけではない。
現代のコンピュータ技術では、マイクロフォンを通じて鼻歌や音声を取り込むことによって、楽譜に書き起こすことができるソフトウェアも開発されている。「Singer Song Writer」(インターネット社)や「ソング頼太」(有限会社ダイナシステム)などが有名である。ゲーム『大合奏!バンドブラザーズ』(任天堂)シリーズでも、作曲モードにて鼻歌などを本体のマイクで聞き取ってリアルタイムに譜面に書き起こす機能が搭載された。
プロのミュージシャン(演奏家)は、演奏の依頼を受けテレビ番組や各種舞台、演奏場などで披露する際、必ずしも本番演奏用の楽譜が用意されているわけではないため、聴音(耳コピ)・練習の上で演奏をする事が一般的となっている。また、原曲を聴音の後演奏家自身が楽譜に起こす事、アレンジメントを担当することもしばしばある。
元となる音源が破損している、楽譜が存在しないなどの理由で、第三者の手によって耳コピ・採譜が行われることは多い。
例えば映画『宇宙戦艦ヤマト2199』では、旧作シリーズの劇伴を再レコーディングする形で使われているが、そのまま使えなかったのはマスターテープが破損していたためであり、宮川彬良が旧作の音源を耳コピして楽譜を書き起こした、というエピソードがある。
また、コンピューターゲームで既存の音声をそのまま収録できず内蔵音源で再現する場合(例えば他機種への移植、特に機種ごとに制作会社が異なる場合)、MIDIデータや楽譜などの指示書をそのまま入力するのが大半だが、これも同じく元データが破損していたり、権利の関係で用意できなかったりして「耳コピ」になってしまうことがある。
関連動画
↑耳コピによる神対応の例