愛染明王
あいぜんみょうおう
概要
サンスクリット語ではラーガ・ラジャ(赤き王)やマハー・ラーガ(大いなる赤)という。
この名を記した梵語経典は現存しないが、チベット語の密教テキストに残されている。
名前の通り赤い肌で作像、描写される。
一つの顔に六本腕を持ち、弓、矢、五鈷杵、金剛鈴(一方が鈴になっている金剛杵)、蓮華を手にしている。
何も持たない手が一本あるが、そこに炎が乗っている仏像も存在する。
本体は不動明王と同じく大日如来である。密教の第二祖とされる菩薩・金剛薩埵と同体ともされる。
愛欲や煩悩の力を悟りを求める心に転じさせるという「煩悩即菩提」の仏である。
愛欲や煩悩に悩まされるからこそ、人々は悟りを夢見、求めるという側面があり、
「空」の境地においては煩悩も菩提も平等と観される。
ただし、凡夫の煩悩と仏の悟りがイコールで結ばれているわけではないので注意。
ご利益として語られているのは縁結び(恋愛成就)、夫婦円満、出産と安産など。
弓矢を持つ事から軍神ともされ、戦乱の時代には戦勝の仏としても信仰されていた。
鎌倉時代の短刀愛染国俊の茎(なかご)には愛染明王の姿が彫られている。
かつては遊女たちによって信仰され、現在も水商売の女性からの信仰が篤いという。
愛染を「藍染」とかけて、またその姿を染料である「藍玉」を作るのに必要な太陽になぞらえた
染物業者からの信心も集めている。
愛染明王について記した経典においては、彼を諸仏、諸明王の中でも最高の存在とする物もある。
他に同様の扱いを受ける尊格として不動明王がいるが、不動明王を胎蔵界最高の明王、
愛染明王を金剛界最高の明王とする解釈もある。胎蔵界と金剛界は一組で「両界曼荼羅」を構成するもので、
不動明王と愛染明王をツートップの対なる明王として扱う見方と言える。
仏像においても、大日如来等を中心に両尊格を脇侍に配する構成が見られる他、
日蓮の題目曼荼羅においても、不動明王と愛染明王の種子を左右に配したものが存在する。
日本においては愛染明王と不動明王とがアルダーナリシュヴァラやハリハラのように融合した厄神明王(両頭愛染明王)という尊格が存在する。
日本の戦国時代において、軍神と称された大名・上杉謙信の家臣にして、謙信の養子で後継者である上杉景勝の小姓、後に上杉家の家老となった名武将である直江兼続は、一説では愛染明王の信仰者とされ、彼の兜の前立てである『愛』の文字は、愛染明王の「愛」とされる説がある(※愛宕権現とする説もあり、近年はそちらの方が有力とされる)。