自動車の駆動方式のひとつ。FrontEngine-FrontDriveの略からFFとも称される。
概要
前(ボンネット内)にエンジンを積み前輪を駆動する方式。軽量かつ車内を広く取れるため、現在の乗用車及び、乗用車ベースの貨物車の駆動形式の主流となっている。
歴史
前輪駆動は駆動と操舵を一つの車軸に兼ねさせるため前輪の負担が大きく、技術的に困難が多い。そのため昔の自動車はほぼ全て後輪駆動だったが、フランスの自動車メーカーシトロエンが1934年に発売した「トラクシオン・アバン」で初めて前輪駆動車を成功させた。当時はパワステがなかったのでハンドルが重くなるのと、ジョイントの消耗が激しく耐久性が低いという欠点があり、シトロエン以外のメーカーが前輪駆動を積極的に採用するようになるのは1960年代以降である。
トラクシオン・アバンはエンジン縦置きであったが、1959年に発売されたBMC・ミニがエンジン横向きでの前輪駆動を成功させ、以降、小型車の多くがエンジン横置きの前輪駆動となった。
構造
現在は中型車でも多くはエンジンを横置きされるが、水平対向エンジンなど、どう頑張っても横に積めないものは縦向きに積まれる。また、縦置きエンジンは4WD化しやすいのと低重心化できるのがメリットであり、スバルのほかアウディが縦置きエンジンレイアウトを多用している。
利点
- 床面は低く平ら(4WDモデル用にフロアトンネルを通している場合を除く)。
- エンジン横積みの場合、ボンネット全長を短くできる
- エンジン縦積みの場合、低重心にできる
- 直進性に優れる。
- 悪路や雪道、段差に強い。
- カーブに速度超過気味で突入してもアンダーステアになるためハンドル操作での修正が容易。
- 部品点数が少なく安い。
欠点
- 前輪に大きく荷重がかかり、また駆動と操舵も行うので前輪の負担が大きい。
- 駆動力が伝わりにくい状況下では挙動に癖が出る。
- 大馬力車ではエンジンの出力を伝えきるのが難しい。
- 最小回転半径が大きめになり、小回りがきかない車になりがち。
- 直列6気筒のような長いエンジンに不向き。
- エンジンルーム内に変速機も同居するために狭くなり、他の補機類の配置が難しくなる。
- ハンドルが重くなる(現在はパワステが普及したため問題にはならない)
珍しい例
2代目エルフ(いすゞ:1968~1975年)
1972年に販売したエルフマイパックは国産のトラックでありながら前輪駆動を採用。
ボルボ950(ボルボ:1992~1997年)
直列5気筒エンジン横置きの前輪駆動。長いエンジンを横置きにするというあまり採用されない例。しかも直列5気筒という珍しいエンジン。
初代、2代目インスパイア(本田技研工業:1989~1995、1995~1998年)
直列5気筒エンジンを縦置きにした前輪駆動。水平対向以外、横置きが多い前輪駆動車の中、エンジンを縦置きすると言うレイアウト。上記に続きエンジンの気筒数も珍しい。
初代ニュービートル(フォルクスワーゲン:1998~2010年)
元々RR(リアエンジンリアドライブ)車だったタイプ1(ビートル)のデザインを無理矢理前輪駆動車にしたため、エンジンスペースが車内に食い込み、その結果、居住性と使い勝手が犠牲になってしまったトホホな例。ちなみに排気量2500ccのモデルはV型5気筒というこれまた珍しいエンジンを搭載している。
2代目は初代と比較すると一般的な前輪駆動の乗用車に近い形状に変わっている。
採用車種の傾向
小型や軽自動車(軽トラック、軽トラック系列のバンを除く)では殆どが前輪駆動となっており、普通自動車でもピュアスポーツカーや高級車を除き前輪駆動が多い。ピュアスポーツカーでは駆動力が伝え切れない点、高級車では癖のある挙動やエンジンのトルク反動に伴う不快な振動を嫌うため後輪駆動形式の方が好まれる傾向にある。
バスでは、乗用車の部品を流用しているものは前輪駆動のものがあるが、大型になるにつれ車内のデッドスペースができてしまうため、後輪駆動のものが多くなる。
また、貨物自動車では乗用車ベースの車を除きたいてい後輪駆動か総輪駆動である。理由として貨物の積載による軸重バランスの変化を嫌う事が多い。総輪駆動は自衛隊向けや不整地向けなど悪路を走るものに採用される。
前輪駆動車の注意点
摩擦力限界時のクセ
タイヤの摩擦力ぎりぎりの状況下では加速時にアンダーステア(ハンドルをきった分だけ曲がらない)、減速すると前輪に大きく荷重がかかりオーバーステア(ハンドルを切った量より切り込んでいく)になる「タックイン」という現象が多かれ少なかれ起こる。これを使ってカーブを高速で曲がる方法もあるが、公道では事故につながりかねない現象であるので油断するとその駆動形式が牙をむくので注意。
前輪駆動に限らず、どの駆動形式にしても無謀な運転は車が運転手に牙を向く事には変わりない。
タイヤの磨耗
前輪に大きな荷重がかかる事と前輪が駆動・操舵を行うのに対し後輪は前輪より軽い加重とカーブでの遠心力しかかからないため、前輪と後輪では磨耗の早さに大きく差が出る。そのため、所定距離ごとのタイヤ位置の入れ替え(ローテーション)を怠っていると後輪はまだまだ磨耗限度に達していなくても、前輪だけいつの間にか磨耗限度に達しているということがある。後輪駆動の場合は駆動力のかかる後輪の磨耗が早いが前輪駆動ほど激しく磨耗しないので、前後輪の極端な寿命差は出にくいが、ローテーションを怠っても良い訳ではないのでその点は留意する必要がある。
こぼれ話
カーブでのアンダーステア傾向は前輪駆動に限らず、後輪駆動車で駆動力をかけたままの状態でも適度な駆動力であれば、前輪の荷重が少なくなるためアンダーステア傾向になる。ただし、駆動力をかけ過ぎると後輪の摩擦力の限界を超え空転し、遠心力で後ろが流れてオーバーステアになってしまう。
ちなみに、いかなる車も(F1参戦車などの競技専用車でも)必ず基本的な挙動がアンダーステアになるように作られている。