概要
大逆転裁判に登場する、大英帝国の主席判事。通称、『ヴォルテックス卿』。
弁護士の任命権を持つと同時に検事局に指示を出せる程の絶大な権力を持ち、事実上の大英帝国法曹界におけるトップたる存在である。それ故に、彼と対面した成歩堂龍ノ介から『睨まれるだけで右腕が折れそう』と言わしめる程の威圧感を持っている。両腕を大きく広げる仰々しいポーズを取ると、背景で数羽の鳩が飛ぶ。
巨大な時計台の中を思わせる多くの歯車が音を立てて回り続ける執務室を持ち、懐中時計を携帯しゼンマイを弄ったり時間を確認するなど、立場上ゆえに忙しい身であることもあって非常に時間にうるさい。 しかし、成歩堂等と会話する際に独自の持論を長々と話して会議に堂々と遅刻する事もある。
自分の思い通りに事態が動く事を好み、前述の時計仕掛けな執務室も、そんなヴォルテックスの心情を表している。それ故に、思い通りに事が進まないと不機嫌になる。
とてつもない威圧感とその性格から、初見プレイヤーの多くは彼をラスボスだと疑ってかかった。
しかし一方で、増大に複雑化する犯罪に対抗するため、大英帝国の司法の強化に力を入れており、近い内に司法長官の座に就くことを狙っている。
交換留学などで技術交流を深めたり、秘密裏にドクター・シスを始めとする部下を動かして化学式捜査班の設立や導入、国際科学捜査大検討会の開催を大英帝国で行うように働きかける等、かなり熱心。
その行動も、一重に愛する大英帝国が世界の頂点であるためという強すぎる愛国心からくる行動である。
当初は成歩堂を弁護士として認めずに帰国させようとしたものの、彼と御琴羽寿沙都の説得に応じ、試験と称して裁判への出廷を許したり、ある理由で謹慎処分を命じられていた成歩堂を毎月の報告書の内容に免じて謹慎処分を解く等、筋が通っていれば認めてくれる公正な人物である。
大逆転裁判において
3話にて初登場。
成歩堂に弁護士として認めさせる試験として、コゼニー・メグンダルの弁護を命じる。この時、『まず負ける事はないだろう』と不吉なアドバイスをかけてくるが……。
続く4話にて、メグンダルの裁判で抱いた不信感で疑心暗鬼に陥った成歩堂に、夏目漱石の弁護を持ちかける。
5話にて、寿沙都に父・御琴羽悠仁の危篤を伝え、日本に帰るよう促した。
結局は多くのプレイヤーの予想を裏切り、ラスボスとして登場しなかった。
大逆転裁判2において
本編の10年前は検事も務めており、その際に、大逆転裁判シリーズにおける全ての発端となった『プロフェッサー事件』を担当していた。
事件の犯人であるプロフェッサーが逮捕された後、その裁判も担当するはずだったが、その事件に巻き込まれて兄を失ったバロック・バンジークスの熱意に応え担当検事の座を譲り、自身は補佐に回った。
それ故にバンジークスからは恩人として、絶対な信頼を得られている。
しかし4話にて、伝説の刑事が殺害され、その被告人が検事である事もあって、国際情勢にも関わる事件になってしまったために、何と裁判長として法廷にその姿を現した。
その際、手にしている杖が先端に金属製のユニコーンになっているものとなり、それを木槌替わりとして使用する。
極秘裁判であるため陪審員が存在せず、そのため全ての判断が裁判長に委ねられる形となっている。……緊迫感を感じられるが、要するにいつもの逆転裁判スタイルである。
関連イラスト
関連タグ
成歩堂龍ノ介 御琴羽寿沙都 亜双義一真 シャーロック・ホームズ(大逆転裁判) バロック・バンジークス トバイアス・グレグソン ドクター・シス
以下、ネタバレ注意
ネタバレ
ジェゼール・ブレットに命じてジョン・H・ワトソンを殺害させた張本人であり、バロック・バンジークスに纏わりつく『死神』という名の呪いの正体。
そして、プロフェッサー事件の真の黒幕。
つまり、大逆転裁判シリーズの多くの登場人物の人生を狂わせた、大逆転裁判2どころか大逆転裁判シリーズにおけるすべての黒幕。
……そこ、『知ってた』って言わない。気持ちはわかるけど。
殺人鬼プロフェッサーの正体は当初は亜双義一真の父・亜双義玄真とされていたが、実はバロック・バンジークスの兄・クリムト・バンジークスであった。
元々正義感の強いクリムトは、とある貴族が司法の腐敗を招いていることに我慢が出来ず、飼っていた猟犬を使って殺害する。 だが、その際に証拠を残してしまい、ヴォルテックスに脅迫されてヴォルテックス自身が邪魔だと感じた人物を殺害する羽目になった。しかも、よりによって3人目の標的はクリムトの恩師である当時の主席判事。そのせいでクリムトの精神も病んでしまった(バンジークスも薄々兄が犯人と疑っていたが、兄が恩師を殺すわけがないと考えを改めてしまった)。
証拠がなかったのは彼や黒幕が司法関係者であるため隠滅してしまったと思われる。
4人の犠牲者を出したところで親友である亜双義玄真に犯人であることを見抜かれてしまい、両者合意の上で決闘を行い敗れて死亡した。決闘の前に全ての真相を記した遺書を残しており、玄真にそれを託していた。
クリムトの死後、グレグソンやワトソン、ドクター・シスに命じてプロフェッサー事件の罪を玄真に着せたヴォルテックスだが、クリムトの遺書が見つからなかった。そのため遺書を持っているはずである玄真と取引し、彼が息子に会いたい事を利用して事件の罪を認める代わりに、秘密裏に脱獄させる事を約束した。
処刑を執行させずに玄真を棺桶に入れて埋葬させて、日本の外務大臣の椅子と引き換えに計画に共犯させた慈獄政士郎と共に掘り起こしに向かうが、運悪く墓荒らしにやって来た学生掘り起こされてしまい、プロフェッサーが生きてることを世間に知られるのを恐れて慈獄に命じて玄真を射殺させる。
しかし、クリムトの遺書は結局見つからなかった。
その後、法で裁けない悪を謀殺する暗殺部隊『死神』を組織してロンドンの裏表を支配するようになる。
だが司法長官の座に着く前に自分の過去を知る者が邪魔になり、交換留学をかこつけた交換殺人を計画し、ジェゼール・ブレットことアン・サッシャーにワトソンを殺させ、グレグソンも亜双義に殺させようとする。
要するに、国際問題に発展しかねない大犯罪を、自分の手を汚さずに他人の手で行わさせる事で犯していたのである。
成歩堂も「ここまでくると人を操る天才だ」と彼の卑劣さを皮肉った。
最期は、まさかな場所に隠されていたクリムトの遺書によって真相を明かされ、観念して御用になる……
……と、思いきや彼自身は犯罪教唆しただけで何もしていない事を逆手にとって開き直り、「闇と戦うためには闇が必要」と説き、傍聴に来た司法関係者に訴えて味方につけてしまう。もしヴォルテックスの罪が世間に露見すれば司法の信用を失い、大英帝国が再び無秩序時代より荒んだ国に堕ちてしまう事を理由に挙げて……。
だが、極秘裁判であるからと高らかに開き直ったのが運のつき。
なんと、シャーロック・ホームズの手によって今までの裁判の内容が女王陛下に生中継されていた事が判明。ヴォルテックスが『死神』である事を知った女王陛下はヴォルテックスに与えられた総ての権限を抹消するとともに、後日公開裁判で裁く事を決定した。
こんな大どんでん返しに傍聴人はパニックになり、ヴォルテックスは今まで卑劣な手を使って築き上げてきた権力が音を立てて崩れたのを感じて愕然。
ナルホド
「……ハート・ヴォルテックス卿。」
「あなたが、この10年間隠れていた"闇"は、もう存在しない。」
「……今度こそ。」
「あなたは、もう《首席判事》ではない。司法に関わる"未来"もない。」
「女王陛下の名のもと、法によって正当に裁かれる《罪人》なのです!」
極秘裁判が仇となり、判決を決める陪審員もいない。
権力を失い、着いてくる者もいない。
総てを失った男に対してつきつけられた成歩堂の一喝が、卑劣な死神にトドメを刺す。
「……閉廷! ……閉廷! ……閉廷! ……閉廷! ……閉廷!」
最後の悪あがきに閉廷を繰り返すが、今となっては最早無意味……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
何度も叩きつけ、トドメとばかりに強く叩きつけてしまったため、裁判長の命と言える木槌代わりの杖が折れてしまう。
失意の内に裁判席から倒れ、罪人を裁く庭へと転落する。
この時、陪審席に身体が当たった事でシステムが誤作動し、先程、慈獄に対する有罪判決で傾いていた大天秤に、更に火炎弾が叩き込まれる。
大逆転裁判シリーズの犯人達の罪……まるでそれらの罪も積み重ねるように有罪の皿に叩き込まれたヴォルテックスの罪の重さに耐えきれず、大天秤は崩壊。有罪の皿がヴォルテックスの背後に落ちた瞬間、地獄の業火が大英帝国の闇ごと偽りの大法廷を……そしてヴォルテックスを焼き付くした。
その後、黒焦げた姿で証言台に細々と証言し、ヴォルテックスは失意のうちに失脚するのであった。
ネタバレの余談
勝利を過信して自分の罪を開き直って喋り、それによって第三者から裁かれてしまう最期は、逆転裁判4の牙琉霧人に通じる部分がある。
しかし、ヴォルテックスはラスボスに恥じない迫力と性格を持ち、犯した罪のスケールも霧人とは桁違いである。
最終決戦も成歩堂達も死力を尽くしてヴォルテックスを追い詰めており、ブレイクモーションも全逆転裁判シリーズ史上超ド派手なものとなっている。前述で長々と説明したが、この流れは実際にゲームでプレイした方がより感動すると記事作成者は思う。
更に、ヴォルテックスにトドメを刺す際に流れる『大追求 ~成歩堂龍ノ介の覺悟』は本作屈指の神曲なので必聴である。
彼がねじ曲げたプロフェッサー事件は登場人物のほとんどの人生を狂わせた事から、本編逆転裁判シリーズにおける『DL6号事件』を思わせる。
彼が犯罪を犯したのはあくまでも犯罪と戦うためであるが、そのために手段を選ばない行為は逆転裁判5の法の暗黒時代の様である。
彼が『死神』である以上、例えジェゼール・ブレットが殺害されずに帰ってきたとしても、口封じに始末していたと思われる。前述のメグンダルの裁判で『まず負ける事はない』という発言も、メグンダルが不正な手段で無罪に持ち込む事を予測しており、例え無罪を勝ち取っても『死神』に暗殺させるつもりだったのだろう。
彼らが別の人物によって殺害されたのは、ヴォルテックスにとっては予想外だったとはいえ、結果オーライだったのだろう。
最後に、慈獄に命じて玄真を射殺した時、目撃したのは墓荒らしなので『墓守りに目撃されて争っている内に射殺された』等と適当な理由をつけて目撃者を抹消すればいいはずである(墓荒らしは金のない学生がよくやる事とはいえ、犯罪は犯罪である)。
そのため、ヴォルテックスは最初から玄真を脱獄させるつもりはなく、殺害して遺書を奪うつもりだったのだろう。