傘木希美
かさきのぞみ
プロフィール
概要
北宇治高校の2年生。かつて吹奏楽部に所属し、フルートを担当していた。
現在も吹奏楽部に所属しているトランペット担当の吉川優子やオーボエ担当の鎧塚みぞれと同じく、それなりの吹奏楽部の強豪校である市立南中学校の出身。中学時代は吹奏楽部の部長を務めていた。
北宇治高校に進学した当初は彼女たちと一緒に吹奏楽部で活動していたものの、練習に対する熱量の差が原因でだらけた態度をとる上の世代と衝突を起こし、10名ほどの同級生たちとともに退部することとなった。その後しばらくは地域の社会人楽団で演奏活動を行っていたものの、顧問が代わって確かな実力を身につけたかつての吹奏楽部の話を聞きつけ、およそ1年ぶりに吹奏楽部への復帰を願い出る。
オーボエを担当する鎧塚みぞれの数少ない親友のひとりであり、また、彼女を吹奏楽の世界に引き込んだ張本人でもある。しかし、突然の復帰を願い出て吹奏楽部を騒然とさせた希美は、「みぞれのことを分かっているようでまったく理解していない」(原作公式ガイドブック、195ページ)がゆえに、みぞれと彼女を取り巻く部員たちによる複雑な思惑に翻弄されることとなる。
人物
容姿
長い黒髪を高い位置で結わえたポニーテールと不ぞろいに伸びた前髪が特徴的な、意志を感じさせる強い眼差しを宿した、少し勝ち気そうな顔立ちの女子生徒(原作2巻、70ページ、72ページ)。また、すらりと引き締まった脚やしなやかな輪郭線を描くシルエットなど、健康的な美を内包した体躯の持ち主でもある。(第二楽章前編、9ページ、第二楽章後編、300~301ページ)
軽やかな足取りや大仰な動作、明快にきらめく声音など、彼女のまとう快活な雰囲気は周囲の空気を明るくする力を含んでおり(第二楽章前編、48ページ、385ページ)、普段から太陽のような溌溂とした笑顔を振りまくことを常としている。
余談だが、彼女の登場によって、TVアニメ版2期では中川夏紀とともにふたりのポニーテールヒロインが活躍することとなる。
性格
思い込みの強いまっすぐな性質のなかに、少しばかりの不器用さを持ち合わせている。そんな希美と親交のある夏紀は、自身とは対極にいる希美のことを「馬鹿正直な熱血ちゃん」と評している。(原作2巻、230~231ページ)
また、社交的で明るい性格ゆえに、数多くの友人づきあいを持っている。中学時代、クラスのなかで孤立していた際に声をかけられたみぞれや、吹奏楽部の部長として活躍していた頃に彼女の背中を追いかけていた後輩たち(第二楽章前編、48ページ、第二楽章後編、40ページ)など、部内・部外を問わず多くの生徒たちから慕われている。
その反面、人情の機微に疎いところもあり、このことが後にみぞれとのすれ違いをもたらしている。
その他
- 吉川・中川の新体制のもと行われる定期演奏会に先駆け、演奏会の希望楽曲を募集した際には、「アルメニアン・ダンス パート1」をはじめとする有名どころの吹奏楽曲を推している。(原作公式ガイドブック、32ページ)
- 幼少時代に将来の夢を聞かれた際には、周囲の子供たちがケーキ屋になること等を夢見るなか「ライオンと結婚する」と答えたことがあった。(第二楽章後編、133ページ)
- 毎年クリスマスシーズンになると行きつけのケーキ屋でショートケーキを購入し、カレーライス、チキン、ケーキのクリスマスディナーで祝うのを家族間での恒例としている。なお、希美はショートケーキのなかでも生クリームの部分がお気に入りであると答えている。(短編集2巻、133ページ)
演奏技術
中学時代~高校2年生時(原作2巻~3巻、TVアニメ版2期)
フルートの実力は相当なもので、温かみのあるキラキラとしたその音色は美しく澄んでおり、現在のフルートパートに所属する3年生たちの吹くそれとは明らかに異なるものである。(原作2巻、106~107ページ)
低音パートの1年生である黄前久美子は、彼女の奏でるフルートの音色を初めて聴いた際に「その音は北宇治高校のソリストが奏でる音楽とはまったく異なっていた。技術的なことを考えても、こちらのほうが上手い」と評している。(原作2巻、107ページ)
希美の出身校である南中学校の吹奏楽部の顧問はフルートの指導をもっとも得意としており(原作2巻、107ページ)、その顧問の指導のもとに彼女は「楽しくて美しい、澄んだ音色」を磨いていったものと思われる。
希美の持つフルートと吹奏楽に対する情熱は本物であり、音楽と部活に対するひたむきで熱い想いのもとに卓越した演奏技術を身につけるに至ったとともに、その姿勢と先述の明るい性格によってみぞれや夏紀をはじめとする多くの部員たちを惹きつけることになった。
高校3年生時(第二楽章前後編、映画『リズと青い鳥』)
紆余曲折を経て吹奏楽部に復帰したのち、希美は駅ビルコンサートや定期演奏会等の様々な演奏の場に参加して実力を磨いていき、吉川・中川体制の新年度を迎える頃にはフルートパートのトップ奏者として活躍を見せるようになる。(第二楽章前編、11ページ)
芯の通った凛とした音、感情的なフレーズの一つひとつから強いエネルギーが垣間見える希美の演奏は、部内でも屈指のレベルにあると評されており、部員たちからはもちろんのこと、顧問の滝昇や外部指導員の新山聡美からも「高校生とは思えないほど素晴らしい」と認められている。(第二楽章後編、24ページ、83ページ、194ページ)
その他
彼女の持つフルートはマイ楽器(私物)であり、南中学校の吹奏楽部でフルートを吹くために親に頼んで購入して貰ったものである。
(南中学校の吹奏楽部には、部の制約上マイ楽器を所持していないとフルートの担当になれない決まりが存在する。※原作2巻、110ページ)
部内における活躍
TVアニメ版1期での登場シーン
TVアニメ版1期は原作小説の1巻と短編集の一部を基にしているため、当時部外で活動していた希美は明示的には登場していない。しかしながら、過去の回想やエキストラとしての来場客のなかに、希美と比定できる人物が2回ほど登場している。
TVアニメ版1期7話で登場する中川夏紀の1年前の吹奏楽部の回想シーンでは、フルートを手にし、やる気のない上級生の部員に対して激しく抗議している黒髪のポニーテール姿の女子部員が登場している。(ただし、彼女の目元は映していない)
また、最終話のTVアニメ版1期13話では、北宇治高校吹奏楽部の出番前に同様の容姿をした私服姿の女性がコンクール会場の客席に座るシーンが一瞬だけ映っている。
退部(1年生時)
久美子たちが入部する1年前、やる気のある当時の1年生(今の2年生)のグループがやる気のない当時の3年生(今の卒業生)たちと衝突を起こし、次々と退部する事件が起きた。
希美やトランペットパートの優子たちはやる気のある1年生グループのメンバーで、入部した当初は3年生たちのやる気のなさに我慢しつつも部活に励んでいた。ところが、吹奏楽コンクールのA編成のメンバー選出に際し、当時の顧問の方針によりやる気や実力の有無に関わらず年長者が優先されたために、当時から練習に熱心であり実力もある小笠原晴香や中世古香織らの2年生がメンバーから外されてしまった。これに対する不満を3年生にぶつけたところ、「この部活は上を目指していない、部内の秩序を乱しているのは1年であり、みんな迷惑に思っている」と言い返された。また、この3年生たちの意見に対する部内からの反論も起こることはなかった。
この件で堪忍袋の緒が切れた元南中のひとりが吹奏楽部を辞めると言い出し、それに釣られるようにしてほかのやる気のある1年生たちも芋づる式に軽音楽部へ転部した。この相手から「こんなとこにいて、いったいなんになんの? 上手くなれる?」と言われたことで、希美自身も部に所属している意義がないことを認識し、退部することを決めた。(原作2巻、148~151ページ)
希美も吹奏楽部を退部する際、先に退部したメンバーから軽音楽部への転部を誘われていたが、吹奏楽そのものに強い未練があった希美はその誘いには応じずに地元の社会人らが所属している吹奏楽団に入団した。
ちなみに、希美の同級生である優子も同じような誘いを受けていたが、彼女の場合、同じパートの先輩である香織から慰留の説得を受けた上にその人柄に強く惹かれたため、残留の道を選んでいる。一方、1年生ながらにA編成のメンバーに選ばれたみぞれは、退部グループからの誘いを受けることはなかった。
吹奏楽部への復帰(2年生時)
新しく赴任した滝昇の指導のもとに、確かな実力を身につけ吹奏楽コンクール関西大会(支部大会)への出場を決めた北宇治高校吹奏楽部の活躍を目の当たりにした希美は、かつての有様から様変わりした部活に戻りたいと願うようになり、低音パートの同級生である中川夏紀の協力を得て、個人的な恩義のある現副部長の田中あすかに復帰のための直談判を申し出るようになる。しかし、現在の部において唯一のオーボエ担当であるみぞれが希美に対して深いトラウマを抱えていることを知っているあすかは、希美の復帰によって全体演奏の出来に大きな影響が出ることを考慮し、真実を伏せながら希美の復帰を頑なに拒み続けた。(原作2巻、75~78ページ、96~99ページ、TVアニメ版2期1話)
自分が部に戻ることによって演奏に影響が出ることなど夢にも思っていない希美は、一向に復帰の承認がなされない現実に苦悩するが、その過程で低音パートの1年生・黄前久美子と知り合い、彼女に過去の話などを打ち明けるうちに復帰の協力を約束してくれるようになる。(原作2巻、159ページ、TVアニメ版2期2話)
吹奏楽部が関西大会の本番に向けて最後の追い込みにかかると、それを受けた希美は本番が終わるまでのしばらくのあいだ復帰の相談をしないことを決める。その一方で、中学以来の幼馴染であるみぞれがソロの表現で悩んでいることも耳にしていた希美は、身を引く前にみぞれと会って励まそうと思い立ち、練習中の彼女のもとへと現れる。トラウマのきっかけとなった相手との突然の遭遇に、みぞれは取り乱してその場から逃げ出してしまい、真実を知らない希美は訳が分からないまま駆けつけた優子に取り押さえられる。優子は希美に対して、1年前の退部の際にみぞれに声をかけなかった結果、今の彼女にこじれた感情を植えつけてしまったことから生じる怒りを向けるが、それよりも事態の収拾を優先するべく久美子とともにみぞれの捜索に移ったため、希美は遅れてやって来た夏紀とともにその場に取り残されることとなる。(原作2巻、249~251ページ、TVアニメ版2期4話)
その後、あすかの指示によりみぞれのもとに向かうことになった希美は、彼女のオーボエを持って改めて顔を合わせる。みぞれに歩み寄り、彼女から部活を辞めたときに声をかけなかった理由を問われた希美は、自分たちが上級生への不満に腐っていたときもひとりで頑張り続けていたみぞれのことを誘うことはできなかったと明かした。その真実を告げられ、仲間外れによるものではなかったことを知ったみぞれは、同時に自身の勝手な思い込みから今までずっと希美を避けてきたことを謝る。そんなみぞれの気持ちを聞いた希美は、吹奏楽コンクール府大会での皆の演奏を心から素晴らしいと思ったこと、そしてみぞれの奏でるオーボエをもう一度聴きたいと告げ、それを受けたみぞれもまた、手渡されたオーボエを握り締めながら笑顔で応えた。(原作2巻、264~269ページ、TVアニメ版2期4話)
希美とみぞれのあいだに生じていたすれ違いが解きほぐされたことにより、懸念事項の解決を認めたあすかも復帰を承認する運びとなり、希美は晴れて北宇治高校吹奏楽部の部員として復帰を果たした。
復帰以降(2年生時~3年生時)
吹奏楽部に復帰して以降は、サポートメンバー「チームもなか」の一員としてコンクールメンバーの支援や励ましにあたりつつ(TVアニメ版2期5話)、文化祭や駅ビルコンサートといったステージ演奏の場において遺憾なくその実力を発揮している(TVアニメ版2期6話、2期7話)。また、かつての腐敗した雰囲気の一掃されたフルートパートにも馴染むようになり、その明るく気さくな性格によって後輩の中野蕾実たちからも懐かれるようになる。(TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』コンプリートブック、28ページ)
晴香やあすかといった3年生の先輩が引退し、吉川・中川の新体制が始まると、希美は会計係と学生指揮者を兼任することになる(TVアニメ版2期13話、映画『リズと青い鳥』)。新体制による新年度が始まって以降は、フルートパートのトップ奏者として新入部員に対する楽器紹介を行ったり、3名の新たな1年生部員を加えたフルートパートのなかで和気あいあいと日々の練習に取り組んでいる。(第二楽章前編、48~49ページ、映画『リズと青い鳥』)
(なお、フルートパートにおいては副パートリーダーを担当しており、パートリーダーは同級生の井上調が務めている。※第二楽章後編、269ページ、『新北宇治高校吹部紹介プロフィールカード(傘木希美、井上調)』掲載の紹介文)
鎧塚みぞれとの関係
中学時代~高校2年生時
ダブルリードパートでオーボエを担当している同級生の鎧塚みぞれとは、中学以来のつきあいのある幼馴染であり、ともに吹奏楽部の活動に励んできた仲でもある。
まだ中学生だった当時、クラスのなかで孤立していたみぞれを見つけた希美は「一緒に吹部、入らない?」とみぞれを吹奏楽部へと誘い、以降卒業するまで苦楽を分かち合ってきた(原作2巻、256ページ、映画『リズと青い鳥』)。希美に声をかけられるまでずっとひとりだったみぞれは、希美と過ごす日々を充実したものと実感するとともに、「希美は、特別なの。私にとって、大切な友達」として、何にも代えがたい一番の存在として強い執着心を抱くようになる。一方の希美は、その社交的な性格に加えて吹奏楽部の部長を務めていたこともあり、当時から多くの友人関係を持っていた。そのため、みぞれに対する認識も「仲のいい友達のなかのひとり」という程度に留まっていた。(原作2巻、152ページ)
高校に進学してからも吹奏楽部を続けることを決めていた希美と、そんな彼女とずっと一緒にいることを望むみぞれは、北宇治高校への進学後にそろって吹奏楽部に入部する。しかし、その当時の部に蔓延していただらけた雰囲気と自分たち1年生とのあいだに生じた熱量の差に耐えかねた希美は、1年生ながらにコンクールメンバーに選ばれたみぞれを部に残したまま退部をすることになる。(なお、この当時の話を希美から聞いた久美子は、このとき彼女がみぞれに声をかけなかった理由のなかに「みぞれに対する嫉妬」の可能性を感じ取っているが、それの裏付けとなるような不審な様子はないと受け取っている。※原作2巻、152ページ)
この際、大勢いる友達のなかのひとりという観点から「わたしが声かける必要ないでしょ」という軽い気持ちでみぞれのもとを離れた希美だったが、これが決定的なトラウマとなってみぞれの心に深い傷を与えるに至っている。その結果として、翌年にみぞれが部内唯一のオーボエ奏者という重要なポジションについたため、全体演奏への影響を危惧するあすかによって吹奏楽部への復帰を阻まれることとなる。
退部してからもみぞれと自身は仲のいい友達同士だと思い込んでいた希美だったが、実際に再会してみた途端、みぞれは取り乱してその場から逃げ出してしまう。優子や夏紀、あすかたちの助けのもと、改めてみぞれと顔を合わせた希美は、退部の際にみぞれに声をかけなかった理由を話し、黙って彼女のもとから去ったことにより余計な心配をかけてしまったことを詫びる(原作2巻、266~267ページ)。みぞれもまた、自身の勝手な思い込みから希美を避けてきたことを謝るが、希美はそんな彼女に今の北宇治の演奏を心から素晴らしいと思ったこと、そして中学時代からずっとみぞれの奏でるオーボエが好きだったことを明かした。希美の想いを受け取ったみぞれは笑顔を浮かべ、かつての一緒にいた頃の関係に戻ったことを喜んだ。
みぞれと和解をして以降は、事あるごとに彼女とふたりきりで行動するシーンが描かれている(TVアニメ版2期5話以降)。また、原作小説においては夏紀や優子を交えた南中学校出身の4人組で行動する場面も登場している。(原作3巻、105~106ページ)
高校3年生時
吉川・中川の新体制が始まって以降、希美とみぞれは部のなかでもトップクラスの実力者として部員たちに認められつつ、目立った問題を起こすことなく日々の練習に取り組んでいた。一方で、それぞれの進路に関してはいまだ明確な目標は定まっておらず、新年度が始まって早々に出された進路調査票もふたりそろって白紙で提出する様子であった。(第二楽章後編、247ページ)
そんなゴールデンウィークのある日、音楽大学のパンフレットを抱えるみぞれと鉢合わせた希美は、「新山先生がくれた。興味ある? って」と、外部指導員の新山聡美がみぞれに対して音楽大学への進学を勧めたことを知らされる(第二楽章前編、385~387ページ)。かねてより、まるで息をするかのように軽々と練習をこなすみぞれの姿を目にしていた希美は、その練習量に裏付けられた上手さを知りつつも「みぞれより自分のほうが絶対に音楽が好き」という自信から、みぞれの持つ才能と実力から目をそらしていたいと思っていた。しかし、今回新山がみぞれに音楽大学への進学を勧めたことにより、プロの音楽家である新山が「みぞれの才能を”特別”なものとして選び取った」という事実をまざまざと突き付けられた希美は、「みぞれに負けたくなかった。舐められたくなかった」という意地のもとに、みぞれが勧められた音楽大学を自分も受けると宣言した。(第二楽章前編、386~387ページ、第二楽章後編、247~248ページ)
こうして、希美の選択を自分のものとするみぞれと一緒に、ふたりは同じ音楽大学を目指すものと周りの部員たちにも認知されることとなる。
吹奏楽部がコンクールシーズンを迎え、自由曲「リズと青い鳥」の練習が始まるようになると、希美とみぞれはそれぞれ曲の題材となった物語を読み、曲中の見せ場として登場するオーボエとフルートのかけ合いを通して「なんかちょっと、私たちみたいだな」と、自分たちふたりと物語の登場人物たちの境遇を重ね合わせるようになる。愛するリズの手から飛び立つ青い鳥に、2年前にみぞれを残して部を去った自身の姿を重ねながらも、希美は「悲劇を悲劇で終わらせる必要はない」として、物語はハッピーエンドがいいよと屈託のない想いを抱いていた(第二楽章後編、11~12ページ、映画『リズと青い鳥』)。コンクールに向けた練習が佳境に入り、オーボエのかけ合いの表現に悩むみぞれが全力を出せないでいるなか、希美は「がんばれ」と彼女を励ましつつ、あくまでオーボエとフルートが対等な形でのかけ合いのあり方を模索していた。
また、コンクールへの練習と並行して進路を固める必要に迫られた希美だったが、自らの現在の技量と高校3年生という時期的な現状を鑑み、みぞれに黙って音楽大学を進路から外して夏紀や優子たちと同じ一般大学に進むことを決める(第二楽章後編、93~94ページ、132~136ページ)。それにより、希美を盲従するみぞれのことを擁護する周りの部員(原作小説では久美子、映画『リズと青い鳥』では優子)から、非難の言葉を向けられることにもなる。(第二楽章後編、202~207ページ)
互いにどこか噛み合わない演奏を続けていたある日、みぞれのもとに外部指導員の新山が訪れる。新山の提案を受けて演奏に対するアプローチそのものを再構築したみぞれは、その後の全体合奏において希美のそれを遥かにしのぐほどの圧倒的な演奏を披露した。みぞれの放った才能の高みをまざまざと見せつけられた希美は深い衝撃を受け、絶望感に打ちひしがれて嗚咽をこぼすとともに、無限の可能性を乗せて大空へと飛び立つ青い鳥の境遇は、自分ではなくみぞれと重なることを悟った。そしてその末に、これまでのような対等な形ではなく「みぞれの魅力を自分がすくい上げる」形としてのかけ合いをもって、みぞれに抵抗することを心に決めるようになる。(第二楽章後編、245~250ページ、254~255ページ)
合奏練習の終了後、希美とみぞれはふたりきりで話をする機会を得る。みぞれとのあいだにある歴然とした実力差を自覚している希美は、みぞれに黙って音楽大学を進路から外したことを打ち明けるとともに、自分はみぞれのように特別な人間ではないことを告げた。それを受けて「希美は、いつも勝手」と切り出したみぞれは、中学時代からいままでずっと、希美に見放されたくない一心で部活も楽器も続けてきたことを明かす。自分にとっての特別な存在である希美とずっと一緒にいることだけを望むみぞれだったが、希美はそんな彼女に「そんな大げさなこと言わないで」と、自分はみぞれの思うような人間ではなく、羨望と嫉妬にまみれた軽蔑されるべき人間であると示した。
あくまでも突っ張ろうとする希美に対し、みぞれは「大好きのハグ」によって気持ちを直接伝えることを試み、希美に腕を伸ばしてその身を委ねる。みぞれは、自分の人生が希美との出会いをきっかけに変わったことを感謝するとともに、そんな希美のリーダーシップや明るく楽しそうな振舞い、そして希美のすべてが好きであると告白をする。
みぞれの想いのすべてを受け止めた希美もまた、みぞれのひたむきな努力家精神、そしてその結晶であるオーボエの音色が好きであることを打ち明けた上で、「ありがとう」の優しい一言のもとにみぞれを押し戻し、別れて帰宅の途についている。(第二楽章後編、301~307ページ)
吹奏楽コンクールの自由曲「リズと青い鳥」のかけ合いと、それぞれの進路を巡る複雑な思惑を経て、希美とみぞれが互いに向ける感情はその形ごと大きく変わることとなった。希美がみぞれに対して抱く執着心は、嫉妬や羨望、屈辱、罪悪感など、およそ好意的なものばかりで構成されているわけではないものの、みぞれが希美に対して抱くそれと同等の熱量をもって、均衡を保つほどにまで変容している。(第二楽章後編、250ページ)
また、希美とみぞれのそれぞれが別々の道を歩むことを自覚し、それを互いに認め合うようにもなっており、コンクールシーズンが終わって部活を引退したのち、優子からみぞれが盲従する可能性を問いただされた希美は「みぞれはそこまで馬鹿じゃないって。少なくとも、いまはもう」と、みぞれ自身の独り立ちしようとする意志をしっかりと受け止めた上での答えを返している。(短編集2巻、233~234ページ、239ページ)
その他の主要キャラクターとの関係
中川夏紀
低音パートでユーフォニアムを担当している同級生。2年生。
同じ中学校の出身だが、希美と知り合ったのは北宇治高校の吹奏楽部に入部してからになる。
入部当初の夏紀は、どちらかといえばやる気のない当時の3年生(今の卒業生)に近い立場だったが、夏紀にとって希美は「憧れ」の存在であり、夏紀にとって高校から吹奏楽部を始めるきっかけとなった人物でもある。(原作2巻、229~231ページ)
夏紀が希美の復帰をサポートしていた理由は、物語の1年前、「憧れ」の対象である希美が当時の3年生部員との衝突に苦しんでいた際に手助けすることができなかったことに対する「罪滅ぼし」にあった。(原作2巻、233~234ページ)
希美の部活復帰後は、同じ「チームもなか」のメンバー同士としてコンクールメンバーのサポートに当たっている。
吉川優子
トランペットパートに所属している同級生。2年生。
中学時代からともに吹奏楽部の活動に励み、また、物語の1年前は同じ「やる気のある1年生グループのメンバー」であったが、希美が退部の際に彼女の親友であるはずのみぞれに声をかけず、さらにその後もみぞれに対するフォローを行わなかったため、その結果としてみぞれが希美に対してトラウマを抱いてしまうことになり、優子は希美に対して腹立たしさを感じるようになった。
そして吹奏楽コンクール関西大会の直前、希美がみぞれの前に姿を現し彼女が逃げ出した際に、優子は希美に対してそれまで溜めていた怒りを爆発させている。
希美の部活復帰騒動が収束を見せたのち、希美と優子のあいだに距離感があるためか、ふたりが直接的に絡む描写はないものの、原作小説ではみぞれや夏紀を交えた南中学校出身の4人組で行動している描写があるため、両者に目立った遺恨はない模様(原作3巻、105~106ページ)。また、希美は優子の次期部長就任に関して同意の声を挙げている。(TVアニメ2期13話)
仕事を抱え込みすぎた優子と夏紀の言い争いを不安に思った久美子に対しては、「あすか先輩の呪い」と称し、有能すぎる人間=あすかの後を追うことの大変さを説明している。このときの夏紀の優子への説教に対しては「過保護」と表現している。(第二楽章前編、283ページ)
コンクールシーズンを終えて部活を引退してからの夏紀との会話においては、部長として振る舞う優子を口元を緩めながら思い出し、「理想的な部長だった」と振り返っている。(短編集2巻、136ページ)
田中あすか
吹奏楽部の副部長を務めている、ひとつ上の先輩。3年生。
あすかは「希美ちゃん」と呼んでおり、希美は「あすか先輩」と呼んでいる。
吹奏楽部を去る際に希美はあすかに引き止められており、希美はその際にあすかに告げた言葉に未練を感じて「特別」な存在として位置付けている(原作2巻、153~155ページ、TVアニメ版2期2話)。なお、あすかが希美を引き止めようとした理由として、あすかは希美が卓越したフルートの実力を有していたためにそうしたと明かしている。(原作2巻、200ページ)
偶発的な出来事によって希美とみぞれが和解すると、あすかは希美の部活復帰を承認している(TVアニメ2期4話、原作2巻、276ページ)。部活復帰後においても希美にとってあすかは「特別」な存在であり、あすかの退部騒動の最中に行われた駅ビルコンサートの際にあすかが姿を現すと、希美もあすかのもとに駆け寄っている。(TVアニメ2期7話)
中世古香織
トランペットパートのリーダーを務めている、ひとつ上の先輩。3年生。
原作小説では両者の直接の絡みはない。希美は物語の1年前において真面目に部活動に取り組んでいた先輩のひとりとして、香織の名前を挙げている。
希美からの呼び方は「香織先輩」。
小笠原晴香
吹奏楽部の部長を務めている、ひとつ上の先輩。3年生。
原作小説での両者の直接の絡みはないが、希美が物語の1年前において真面目に部活動に取り組んでいた先輩のひとりとして、香織とともにその名を挙げている。
ただし、あすかや香織に比べると希美の晴香に対する評価は低いようで、あすかや香織とは異なり、先輩づけではなく「小笠原さん」と呼んでいる。晴香もまた希美のことを「まあ、うちが言っても聞いてくれるような子やないけどね」と述べている。(原作2巻、88ページ)
なお、「さん」呼びについては夏紀も「小笠原サン」と呼ぶ場合があるため、評価の高低との関連は不明である。(原作1巻、245ページ)
黄前久美子
低音パートでユーフォニアムを担当している、ひとつ下の後輩。1年生。あすかの直属の後輩でもある。
希美が吹奏楽部の副部長であるあすかに復帰の許可を得るべく低音パートを訪れたことが、久美子と希美が出会うきっかけとなる。(原作2巻、70~73ページ、TVアニメ版2期1話)
それを契機として、久美子はこれまであまり交流がなかった南中学校出身の2年生である鎧塚みぞれや吉川優子たちとも関わっていくことになる。
高坂麗奈
トランペットパートに所属しているひとつ下の後輩。1年生。
作中を通じて麗奈は希美に対して好意を抱いてはいない。希美が1年生のときに上級生部員と対立して退部した件については「逃げた」と評しているほか(原作2巻、117~118ページ)、関西大会前の時期に希美が部への復帰を申し出た際にあすかが反対したときも、希美の行動が部に混乱をもたらすとしてあすかの判断を支持している。
吉川・中川体制に関して希美があすかと優子を比較した際には、優子は部長として有能であると真っ向から反論しており(第二楽章前編、283ページ)、さらにみぞれがオーボエの実力を完全に発揮できない件については、希美のみぞれの才能に対する嫉妬が原因と考えている。(第二楽章後編、185ページ)
関連イラスト
冬制服
夏制服
水着姿
メイド服(北宇治高校文化祭)
中学生時代