近鉄80000系「ひのとり」
大阪~名古屋間の都市輸送はJR東海の東海道新幹線と近畿日本鉄道(以下、近鉄)の名阪特急が競合関係となっている。スピードで勝ち目のない近鉄は、車内の居住性を向上を目的として新型の名阪特急用車両の開発を決定。従来車両よりもアップグレードさせたのが本系列である。
なお「ひのとり」は50000系の「しまかぜ」と同様、列車名でなく車両の愛称であり、車体にはひのとりをモチーフにしたマークが付けられている。
車内
開発にあたっては21000系『アーバンライナー』以来行われてきたマーケティング調査が行われた。車体デザインは先進的でスピード感あふれる形状で色は透明感のある深い赤とし、次世代特急用車両であることをアピール。車体そのものについては衝突事故時に安全に配慮された設計にした。
車両はレギュラー車両とプレミアム車両の2種類を用意し、両先頭車2両がプレミアム車両、中間車がレギュラー車両として区分される。
- プレミアム車両は2013年に導入された50000系『しまかぜ』と同等の仕様で、眺望性を重視したハイデッカー構造で大きな窓ガラスを取り入れ、快適性を重視した全席3列シート、シートピッチは日本最大級の1,300mmとし、座席表皮は本革を採用し、電動リクライニング、レッグレスト、高さや角度を調整できるヘッドレスト、背面にはバックシェルを取り入れたプレミアムシートを導入。さらに横揺れ防止対策としてフルアクティブサスペンションを搭載する。
シートピッチや座席の構造は新幹線車両のグランクラスと同一であるが、リクライニング時に座面を前にせり出す構造にしたことで後方のバックシェルの出っ張りをグランクラスの座席よりも抑えた形状となっているため、視覚的な空間はグランクラスよりもゆとりある構造となっている。
- レギュラー車両は一般的な4列シートではあるが、JR東日本の在来線特急車両用グリーン車と同等のスペックを誇る座席が用意される。背もたれの高さをより高く、シートピッチを1,160mmに拡大し、こちらも背面にバックシェルが取り入れられた。荷物棚や仕切り扉はガラス製とされ、開放感のある車内が創出される。
バックシェルタイプのシート導入により、シートを倒す際の後部座席への了解のやり取りが要らなくなった。その反面、バックシェルの出っ張りにより、座面間の視覚的な空間は従来のレギュラー車両の座席(1,000mm前後)と同等に映るという声もある(足元の空間には影響がないため、前述のとおりグリーン車並みの余裕がある)。
インバウンド対応の強化として、全車に大きな荷物を収容できるようロッカー等の荷物置き場を整備し、インターネット接続サービスとして無料Wi-Fiを提供、車内案内表示装置は4ヶ国語対応にした。
座席以外でもゆったりとくつろげるようユーティリティースペース(ベンチスペースやカフェスポット)を整備し、全車に空気清浄機を設置、窓ガラスは紫外線・赤外線をカットするものを採用、またデッキや荷物置き場等に防犯カメラを設置する。
また、近鉄特急は2000年代初頭より、喫煙車を廃止する代わりに喫煙ルーム(喫煙室)の導入を順次行なってきたが、本系列も3号車に喫煙ルームを設けている。
運用
2020年3月14日に運行開始した。2021年までに8両編成3本・6両編成8本の合計72両が投入され、主に停車駅の少ない名阪甲特急(大阪難波駅~近鉄名古屋駅間)の運用に充当される。間合い運用で近鉄奈良線の阪奈特急(大阪難波駅~近鉄奈良駅間)の運用にも入る。
レギュラー車両とプレミアム車両の両方とも、乗車時には普通運賃・特急料金とは別に「ひのとり」用の特別車両料金が必要(レギュラー車両は最大200円加算、プレミアム車両は最大900円加算)となる。また、名阪チケレス割が不適用のため、前日予約までのアーバンライナーとの価格差はそれぞれ最大500~1,400円の値段差となる。
今回の80000系投入に伴い、21000系・21020系『アーバンライナー』は汎用特急として名阪乙特急中心の運用に回し、12200系『スナックカー』を玉突きで廃車にする方針としている。
補足
80000系は車両番号で3種類に分けられており、VVVF制御装置のメーカーおよび編成形態で区別されている。いずれも車内の形態は同じ。
- 0番台:HV01〜04編成。制御装置は三菱製、6両固定編成。
- 10番台:HV11〜14編成。制御装置は日立製、6両固定編成。
- 50番台:HV51〜53編成。制御装置は三菱製、8両固定編成。