概要
DCコミックの発行するアメコミ「バットマン」に登場する悪役(ヴィラン)の一人。
トレンチコートを身に纏い、顔中を包帯で巻いて隠しているのが特徴。主に、2丁の拳銃を用いて戦闘を行い、高度な医療技術やそれに関する知識等も利用する。
登場は“Batman“#609(2003年1月)、ハッシュとしては“Batman“#619(2003年9月)と、バットマンに登場するヴィランの中では比較的に新参と言えるのだが、バットマンの正体であるブルース・ウェインとは個人的に因縁の深いヴィランである為、登場時より活躍が注目されている。
本名はトーマス・エリオット。かつては世界的に名を馳せる程の外科医であった。
ブルース・ウェインとは幼馴染みの間柄で、また自身の生家であるエリオット家は、ウェイン家やペンギンことオズワルドの生家であるコブルポット家と、ゴッサムの長い歴史の中で深い繋がりを持った家系同士であった。
過去の境遇や先祖の因縁からも、ブルースとは映し鏡の様な関係と言え、ある意味ではバットマン最大の宿敵であるジョーカー以上の宿命を持っている(バットマン(ブルース)にとってのジョーカーとの宿命が後天的であるのに対し、ウェイン家と因縁のあるエリオット家のハッシュとの宿命は先天的と言える)。
エリオットがハッシュとして活動する目的とは、ずばりブルース・ウェインを、ブルースとしてもバットマンとしても追い詰めて絶望に追い込んだ末に殺す事…それの一言につき、その執着心は、ジョーカーとは別のベクトルで常軌を逸している他無い。
いわばジョーカーが「バットマンというヒーロー」の反存在とするならば、ハッシュは「ブルースという人間」の反存在であると言える。
ハッシュについて何よりも厄介なのは、バットマンの正体がブルース・ウェインであるという真実を唯一知っているヴィランという点である(ラーズ・アル・グールやベイン、ラザラス・ピッドの影響を受けたリドラーも知っていたが、ラーズは秘密を誰にも明かさないまま死亡し、他二人も記憶が飛んでしまう形で正体を忘れている)。
ブルースの心理を的確に見抜いているが故に、単にバットマンのみを狙わずむしろその身近にいる者達(アルフレッド・ペニーワースやバットファミリーのメンバー、キャットウーマン等)の命を狙う卑劣漢ぶりだけでなく、他のヴィランと結託する柔軟さも持ち合わせている為(ただし、バットマンにとどめを刺す事自体は自分自身が行う事に執着し、正体についても教えていない)、幾度もハッシュからの挑戦を仕掛けられるバットマンは、その都度悪意に満ちた策略に翻弄され、時として理性を失いかけるまでに暴走する事も多い。
そして2019年、ハッシュのデビュー作品である「BATMAN HUSH」のアニメ化に伴い、遂にハッシュがアニメで登場。原作通りの策士ぶりや隙あらば狙撃等によってバットマンを苦しめる姿が描かれる事になる。
過去
エリオットは幼少期より明晰な頭脳の持ち主で、戦略ゲームのストラテゴにおけるブルースとの勝負では、常にエリオットの方が勝利する程の腕前であったが、実の両親からは虐待される日々を送っていた。裕福な身でありながら酒浸りであった父親からは暴力を受け続け、元々裕福ではなかった母親の方は、そのトラウマからエリオット家の栄光へ異常なまでに執着し、ブルースと比較し続けながら哲学者であるアリストテレスの格言等を刷り込み続けた。その事で両親への憎悪と殺意が芽生えたエリオットは、車のブレーキに細工して両親を殺害し、エリオット家の財産全てを得ようと目論む。
しかし、父親の殺害には成功したものの、母親は医者であったブルースの父・トーマス・ウェインによって命を救われてしまう事になり、探偵がこの事件について調べまわっていた結果、母親の殺害は断念せざるを得なくなったエリオットは、ブルースを含むウェイン家の人間達が自分を絶望に陥れたと、不合理極まりない逆恨みを抱くようになった。
その後、ブルースは両親をジョー・チルというチンピラに殺害されてしまい天涯孤独の身となるのだが、それすらもエリオットには「家族」という束縛から解き放たれ、莫大な財産を得て自由になったと曲解・嫉妬しており、ブルース個人への逆恨みを更に加速させていく。
その後は事故の後遺症に苦しむ母親が死ぬのを待つ日々を送っていたが、マフィアの娘と惹かれ合っていたのを否定された上に、医学部への進学の資金援助さえ一方的に断られた結果、エリオットは遂に怒りを爆発させて母親もその手で絞め殺してしまう事になったが、皮肉にもこれによって復讐の完遂及び財産と自由を得ることにも成功した。
母親の殺害後、ハーバード大学での成功を経て念願の外科医になったエリオットは、その活躍から医学会でも名医として注目を浴びていた。ブルースとは仲の良い友人関係を演じ続け、時に自らの医療技術でバットマンとなっていた彼の窮地を救ってもいるのだが、その内では彼に対する醜悪なまでの憎悪を膨れ上がらせ続けていた。
そんな中、癌に侵されていたリドラーが、ラーズ・アル・グールの所有するラザラス・ピッドを勝手に用いた事によって驚異的な推理力に目覚め、バットマンの正体がブルース・ウェインである事を見破り、その秘密を莫大な報酬で売ろうとしていたのに目をつけたエリオットは、彼と取引を行い、新たにゴッサム・シティに現れたヴィラン・ハッシュとしてバットマンを標的とした暗躍を開始する事になる。
活躍
初登場作品の「BATMAN HUSH」では、まず手駒を得る為、リドラーにジョーカー、ハーレイ・クイン、トゥーフェイス、ポイズン・アイビー、スケアクロウ、キラークロック、クレイフェイスといったバットマンと因縁の深い強力なヴィラン達を集めさせ、更にはアイビーのフェロモン能力やスケアクロウの幻覚を利用して、スーパーマン、キャットウーマン、ハントレスの3人も従わせている。
リドラーの手も借りていたとは言え、初登場作品でこれだけの事をやってのけた点だけでも、ハッシュが新参ながらも強力なヴィランである事を物語らせている。
そして、強力なヴィランや洗脳されたキャットウーマンと連戦させられ、心身共に追い詰められたバットマンをより精神的に追い詰める為、クレイフェイスの変身能力を利用する形で、バットマンが親友と信じている自分の死体を偽造し、ジョーカーが殺した様に見せかける事で、理性を失ったバットマンが怒りに任せてジョーカーを殺害する様に仕向けており、その場にいたキャットウーマンでもバットマンを止める事は出来なかったが、駆けつけたジェームズ・ゴードンの必死の説得によって未遂に終わっている。
更には、過去の悲劇を思い起こさせるべく、今度は以前ジョーカーに殺されたジェイソン・トッドに擬態させたクレイフェイスに現在のロビンであるティム・ドレイクを襲わせてバットマンを責めさせるが、自分の正体を知っているはずのジェイソンが名前の「ブルース」で呼ばなかった矛盾を見抜かれた事で、正体が発覚している。
しかし、実はこの時ティムを襲っていたジェイソンは、最初こそ蘇っていたジェイソン本人であり、途中でクレイフェイスに入れ替わっていたと言うのが事の真相である。
つまり、ジェイソンがラザラス・ピッドの力で蘇ったその背後には、ハッシュことエリオットの存在があったのである。
その後、エリオットはハッシュとして真実を知ったバットマンと直接対決し、横槍を入れてきたトゥーフェイスに撃たれる形で池に転落するが、それはクレイフェイスの擬態であり、エリオットは姿を消す事になった。
「BATMAN Heart of Hush」では、再びブルースを追い詰めるべく暗躍を行うのだが、過去のトラウマによってブルース・ウェインの全てを奪いとるという執着心に駆られていた事から、なんと整形手術によってブルースと全く同じ顔にするという正気の沙汰とは思えない行動に出ている。
更にはバットマンを一番精神的に追い詰める為の計画としてスケアクロウと手を組み、バットマンに身近な者を狙う事を示唆。アルフレッドやバットファミリーに注意を呼びかけるのを逆手に取る事で、キャットウーマンことセリーナ・カイルを標的に定める。ハッシュはバットマンが本心ではキャットウーマンを愛していながらも、クライムファイターと犯罪者という立場の違いから、その真実を受け入れられずにいるにいる心境を見抜いており、「キャットウーマンが死ねばバットマンの心の一部が死ぬだろう」とまで評していた。
子供を誘拐したスケアクロウをバットマンが追っている隙を突いて、キャットウーマンを誘拐したハッシュは、医学技術を用いて彼女の心臓を奪い取るという残忍な凶行に出て、それに気づいたバットマンを予想通りに追いつめる事に成功。バットマンはスケアクロウを尋問する際に理性を失いかけるまで暴走する事になり、これにはバットマンをイジる事に執着しているジョーカーですらも楽しんでいた。
しかし、皮肉にもこの展開と結末によって、バットマンことブルース本人が、キャットウーマン(セリーナ)を本当は心の底から愛してしまっていたという真実を気付かせてしまうに至っている。また、この話ではキャットウーマン本人も、バットマンが自分を心の奥底ではどう想ってくれているのか悩んでおり、ジャスティスリーグのメンバーであるザターナに占ってもらっていた程である。
メディア
『GOTHAM』
ブルースと同年代の学生であるトミー・エリオットとしてシーズン1に登場。
両親を失い悲しみに暮れていながらも復学したブルースに対し、陰湿な嫌がらせ行為を行っていたが、後にアルフレッドの助言を受けた彼によって殴り飛ばされるという、後の因縁を想起させる様子が描かれている。この出来事が原因で、ブルースは再び登校拒否に陥った。
なお、シーズン2では、ウェイン家と深い因縁のある5つの家系の一つとして、エリオット家が挙げられている。
『バットウーマン』
こちらもトミー・エリオットとして登場しているが、既に両親が他界して大企業の経営者となっている。
本作は“バットマン=ブルース”が姿を消したゴッサムが舞台となっており、原典と同様に母親を救って相続のチャンスを先送りにしたウェイン家を恨んでいる。もっとも、母親を救ったのはブルース本人という設定に変更されている。
両親やバットマンがいなくなった後もブルースを越える事に執着しており、彼の従姉妹であるケイト・ケインに対してはパーティー会場の人々を人質にする形でバットマンを呼び出すよう要求。
バットウーマンに扮したケイトと対峙した際には救助活動で力を十分に発揮できない彼女を一度は追い詰めたものの、直後にアリスに殴り倒されて気絶。その後、逮捕された。
本編後半で再登場してアリスの手によって原典と同じ姿へと変えられてしまった。
ゲーム
『バットマン アーカム・シティ』
本編の数ヶ月前から、ある目的のために3人も殺害し、本編中でも更に3人を殺害していたことが、サイドミッション『アイデンティティ窃盗』にて判明する。
アーカムシティ内での現場では、顔に傷を負ったブルースの姿が目撃されたとの証言が出ているが…。
『バットマン アーカム・ナイト』
満を持して取って置きの計画を実行すべく、ウェインタワーに潜り込んでうまく事を運ぶ。
しかし、原作コミックとは違ってブルースとバットマンが同一人物だと知る機会が無かったばっかりに…。