概要
広義にはバルカン半島を含む東欧で用いられるインド・ヨーロッパ語族イタリック語派に属する言語(ロマンス諸語)の総称。狭義にはそのうちドナウ川流域とそれ以北で話されるもの(ダコ・ルーマニア語)を指す。ルーマニアおよびモルドバにて国家公用語に指定されているほか、セルビア・ヴォイヴォディナ自治州の州公用語のひとつに指定されている。
原語名はLimba Română(リンバ・ロムナ)。その響きや綴りからも想像がつくかもしれないが、この言語名自体は元々「ローマの言葉」を意味しており、その名の通りかつてのローマ帝国ダキア属州の頃に移住してきたローマ人がもたらしたラテン語がその母体である。といっても先住民であるダキア人の言葉に由来する語彙も多数残っているという。
また、ルーマニアでは正教会の信徒が多く、とりわけルーマニア正教会の成立にブルガリア正教会が大きく関わっていたことから長らく宗教の場では教会スラヴ語と呼ばれるスラヴ系の文語が900年近く用いられてきたことからスラヴ諸語に由来する借用語や表現も数多い。19世紀以降のナショナリズム運動の結果としてこれらの語彙の多くがフランス語をはじめとする他のロマンス諸語の語彙によって置き換えられたものの、現在でも全語彙の1割ほどスラヴ語由来の語彙が残っているとされている。
上述の通り長らく宗教の場で教会スラヴ語が用いられてきたことからかつてはキリル文字による表記が広く用いられてきたが、19世紀以降現代に至るまでほとんどの地域ではローマ字に取って代わられている。
モルドバ語
なお、ダコ・ルーマニア語にはもうひとつの標準が存在する。ルーマニア語圏の北部にあたるベッサラビア地方は長らくロシア帝国領であり(戦間期のみ大半がルーマニア王国領となっていたが)、ソ連成立後に「ベッサラビアの住民はルーマニア人とは別民族である」という主張の一環として「モルドバ語」と呼ばれる標準を別個に制定したのである。
モルドバ語はロシア語優勢なソ連において用いられた事からルーマニアのルーマニア語に比べてロシア語の影響が語彙の面で強く、またルーマニアでは既に廃止されていたキリル文字表記が(ロシア語に合わせる形で変更されてはいるものの)復活しているという特徴が挙げられる。
ただしこのモルドバ語の存在が「自分たちの言葉はロシアよりもルーマニアに似ている」として却って「モルドバはルーマニアに近しい」という意識に火をつけた点は否めず、結局ペレストロイカ以降の民族運動の加速によりルーマニアと同じローマ字表記が再導入され、ソ連崩壊で独立したモルドバ共和国では遂に公用語としてのモルドバ語の名が「ルーマニア語」に統合される事となった。
なお、モルドバ独立時にモルドバのルーマニア化に反対する住民の多かった(そしてモルドバからの独立を宣言した)沿ドニエストルでは現在でも「モルドバ語」の言語名とキリル文字正書法が現役である。
関連タグ
恋のマイアヒ(原題:Dragostea Din Tei)……モルドバ出身のグループO-Zone(オゾン)の代表曲。おそらく世界でもっとも有名なルーマニア語の楽曲である。