「我々エルディア人に残された唯一の希望
壁に潜む幾千万もの巨人で世界を踏み潰す「地鳴らし」」
エレン・イェーガー
「人類はただ、やがて聞こえてくる終末の跫音に震え、逃げ惑うのみ
あらゆる都市や文明、動植物は尽く踏み潰され文字通り全ては平らな地表と化す」
ヴィリー・タイバー
概要
パラディ島にある3重の壁の中にいる「無垢の超大型巨人」を「始祖の巨人」の力で解き放ち、行進させるというもの。
ただ歩くだけ、と単純ではあるが1体の50mの巨人が歩くだけでも大打撃なのに、推定数十万はいる巨人が群れをなして歩くため、まさに無慈悲な大量破壊兵器となる。
無垢の巨人は高温を発しており、歩行速度は馬よりも速く、大海を泳いで渡ることも可能であり、実質この地鳴らしから逃れる術は存在しない。あわよくば巨人の足下をすり抜け生き延びたとしても火傷による死傷の可能性があり、そこに広がるのは巨人達によって、無関係な動植物や人間もろとも踏みならされ高温に焼かれた虚無の世界であり、生態系は崩壊し、飢えて死んだり食料や資源をめぐる戦争が新たに発生することは避けられない。
日本以外全部沈没ならぬ、パラディ島以外全部全滅の状態を引き起こすわけである。
現実の核兵器よろしく、主な用途としては抑止力である。
100年前に145代フリッツ王がパラディ島へ移った際に「島の安息を脅かせば幾千万の巨人で報復する」と言い残したと伝えられており、マーレとの戦争で数名の巨人すら脅威になると知っている世界各国はパラディ島に手出しをすることを控えてきた。
ロッド・レイスまでのフリッツ家王族はこの抑止力を「パラディ島のエルディア人が全滅するまでの時間稼ぎ」に使おうとしてきた。実際は145代フリッツ王が次代以降の「始祖の巨人」を継承する王家に「不戦の契り」と呼ばれる呪いがかけられているため地鳴らしは発動できないのだが、不戦の契りのことが外部に漏れない限りは攻められることはなく、壁の内部に平和な国を築くことができるというわけである。
調査兵団や新女王ヒストリアはこうした破滅志向の論理は受け入れず、マーレら壁外の国と正面から渡り合っていくことを決意。
……しかし壁外の国々の技術力が余りにも壁内の上を行っていることが判明してしまったため、結局地鳴らしを使って技術力を壁外レベルまで引き上げるまでの時間稼ぎをすることになった。
旧フリッツ家と違って前向きな思考ではあるが、やっていることは大差なかったりする。
しかしこのやり方に不満を持つ者たちがいた。
エレン・イェーガーと、彼に従うイェーガー派と呼ばれる集団である。
彼らは壁の外の人類をほぼ皆殺しにすることでパラディ島の人々の暮らしを守るという過激な結論に至っており、そのための手段として地鳴らしの実行を計画した。
ちょうどよいことに、王家の血を引くジーク・イェーガーが壁内の味方を装って壁内に亡命し、「内部の人間をジークの脊髄液を利用して人質にし、その隙にエレンと共謀して始祖の巨人の力を使って全てのエルディア人の生殖能力を奪う」という計画を実行に移そうとしていたため、エレンはジークの計画に賛同するフリ、イェーガー派はエレンに騙されたフリをしてエレンとジークの接触をお膳立てし、エレンに地鳴らしを発動してもらおうと考えていたのだ。
そして計画は成功し、始祖ユミルはジークではなくエレンの願いを聞き届け……エレンは躊躇いなく地鳴らしを実行に移した。
パラディ島全ての壁の硬質化が解除され、幾千万の巨人たちは歩き出した。
世界を滅ぼす悪魔となったエレンと、それを阻止するために立ち上がったアルミン達との、最後の戦いが幕を開けた。
「人類を救うのは俺でも団長でもない、アルミンだ」
皮肉にも、エレンは自分自身の手でこの言葉を証明したのである。
是非
余りにも過激な手段のため、エレンとイェーガー派以外でこの計画に心の底から賛同した人間は登場していない。
せいぜい、ジャンが「他に手はない」と消去法で支持しかけたり、ヒストリアが黙認した程度である。
そもそも、いくら地鳴らしの力が強力で、進んだ技術を持つ壁外の国々でも止められないからといって「邪魔な壁外の連中がいなくなってスッキリ解決」とは行きようがないのである。
- 蚊帳の外で成り行きを見ているしかなかった一般市民はともかく、計画の後に国の実権を握ることになるイェーガー派はいくつもの国を消し炭にしその国に生きる人々を根絶やしにした大罪人となる。これを「壁外が先にパラディ島を殲滅しろと言ったからだ、正当防衛だ」と正当化しきるのはさすがに無理がある。
- 多数の動植物の種類が絶滅し、海洋・陸上・地中の動植物が大量死してしまい、短期間における海水の大量蒸発による海水面の低下と塩害、巨人から発せられる水蒸気は温室効果ガスであり、地形の変化やこれらのガスによる超温暖化や気流などの変化や酸素や循環物質の生成量などの変動や大量の灰からくる大規模気候変動や大地や海洋の栄養度の低下、腐敗した動物の死骸から大量の毒虫や疫病が発生したり、などなど、どう転がっても良い結果にならないと思われる(現実から考えれば、新たな生態系が安定するまでは数十万~数百万年費やす)。それこそ、ある意味でこの作品の象徴とも言える「鳥」は、比較的被害が少なく済む系譜である。
- また、超質量による振動が果てしない回数繰り返されるので、マントルなどに影響を与え大規模災害を引き起こす可能性もある。
- ついでに言うと各壁を構成していた巨人たちが一斉に外に動き出すことから、ウォール・シーナ以外の壁内人類や動植物も虐殺の対象になっている(一応、島を出るまでは列を作って行進したというセリフがあるが、結局は上層部ほど被害が少ないという格差がさらに拡大することになる)。
しかし、イェーガー派もこういったデメリットに全く無知だったわけではない。
イェーガー派がこうした冷酷無慈悲かつ、リスクもある選択をせざるを得なかった理由としては、
- そもそも壁外でパラディ島に好意的な国がヒィズル国ぐらいしかなく、大多数の国はエルディア人の国というだけで思考停止で悪意を向けてくる。エルディア人の権利を訴えるために活動している団体すら「我々は被害者だがパラディ島の住民は違う、彼らは滅ぼされても仕方ない」などと壁内人類に責任転嫁する始末である。
- そのため、元々パラディ島はいつ殲滅作戦の標的にされてもおかしくなかったのだが、マーレが軍事力で他国に圧倒され滅ぼされるかもしれない状況を前に、ヴィリー・タイバーがパラディ島の脅威を世界中に訴える行動を起こし、「マーレと共にパラディ島を滅ぼそう」というメッセージを力強く発信、世界もこれを支持する構えを見せた。
- つまり地鳴らしを発動しなければパラディ島内が地鳴らしされたのと大差ない状態になっていた可能性が高い。
といったものがある。
つまり、壁内人類にとって大多数の壁外人類は「実際に手を上げないだけで定期的に死ね死ねコールを浴びせてくる血も涙もないいじめっ子」同然の存在だったのだが、そこにさらにヴィリー・タイバーという「死ねと罵るだけでなく実際に息の根を止めるべきだ」と煽り立てる者まで加わってしまった。
こうなるともう、壁内人類のとるべき道が何らかの実力行使しかないのは道理ではある。
実際、アルミンもエレンが始祖の巨人の力を手にした際、ウォール・マリアの巨人を動かして壁外の軍勢を総崩れにし、こちらもやる時はやるのだと示せばいいと口にし、実力行使そのものには一定の理解を示していた。
(エレンがやろうとしたのはそれ以上の蛮行だったわけだが)
結末
天と地の戦いと呼ばれる決戦で地鳴らしは止められたが、数日間に渡って地表のほぼ全てを踏み均し、結果的には全人類の8割が死ぬという大虐殺となった。
壁外人類の全滅とはならなかったが、一応この辺りはエレンの思惑通りであったとのこと。
(エレンは壁内人類が壁外人類と力を合わせて自分を止めることまで想定済みで地鳴らしを発動しており、自分を止めた壁内人類の代表が英雄となることで、先述のパラディ島のエルディア人=死すべき悪という図式を無効化すればよいと考えていた。詳しくはエレン・イェーガーの記事も参照)
果たしてエレンの思惑通り、最終回で描かれた3年後の世界では復興のために即座にパラディ島への報復はされず、和平交渉の使節がパラディ島へ向かう様子が描かれた。
単行本最終巻での加筆では、数十~数百年後の間はパラディ島は平穏であり続けた。その後、パラディ島が戦場となり、破壊される様子が描かれたが、これが地鳴らしに対する報復だったか、それとも全く無関係の戦争だったのかは不明。どちらともとれる描き方となっている。
誤記
ヴィリー・タイバーが演説中に「文字通り平らな地表と化す」と言ったことで「地均し」と間違えられることがあるが、巨人が地面を鳴らして歩くということで「地鳴らし」である。
防ぐ方法
作中世界では、防ぐ方法はない災厄として描かれていたが、現代の軍事力で防ぐ方法があるかという議論はかなり意見が分かれるところである。
60mの巨体と、近づくだけで服が発火するほどの高温、推定数千万の隊列を防ぐすべがあるか。
おそらく現代の技術でも防ぐことは出来ないと思われる。あの巨体でも縦1m横10cmと弱点は狭く、さらに熱を発しており蒸気により気流も変わるため精密な誘導は実質不可能である。
核兵器で消し飛ばすくらいしかないが、一発では当然すべてを殺しきることはできないため何度も核兵器を使う必要がある。
そんなことをすれば核による汚染で地球は滅亡する。
結論としては防げるが地球は滅亡するといったところだろうか。
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