小説『日本以外全部沈没』
小松左京のパニック小説『日本沈没』のパロディ。「以外全部」の部分は小文字で書かれており「日本以外全部沈没」といった表記になっている。
『日本沈没』ヒットを祝う作家の集会で星新一が提案し、原作者の小松左京の了承を得て筒井康隆が執筆。小説雑誌『オール讀物』1973年9月号に掲載された。
タイトル通り、天変地異によって地球から高山地帯を除く日本以外の全ての陸地が無くなってしまた世界を舞台に、次々と日本列島に殺到する各国人の悲惨な境遇、そして突如世界一偉い人種となった事で徐々に傲慢になって行く日本人の姿を描いたブラックユーモア小説である。
『日本沈没』が第5回星雲賞長編小説部門を獲得するのと同時にこの小説もまた短編部門を獲得した。受賞に際し小松左京は「『日本沈没』は完成まで9年もかけたのに、筒井氏は数時間で書き上げて賞を攫ってしまった」とコメントしたという。
映画『日本以外全部沈没』
2006年に樋口真嗣監督によって『日本沈没』が再映画化されたのをきっかけに、それに便乗して本作も映像化された。ご丁寧にタイトルロゴも『日本沈没』のパロディになっているほか、非常用持ち出しセットや懐中電灯など本家さながらのグッズも発売された。監督は河崎実。
監修に実相寺昭雄、73年映画版『日本沈没』で主演を務めた藤岡弘、とドラマ版で主演した村野武範が共演を果たす等本家に負けないほどの豪華なキャスト、スタッフが集まっている。実相寺の盟友寺田農は本家『日本沈没』とのダブルオファーに悩んだ結果、こちらに出演したという。
他にも本家『日本沈没』出演者の中には本作へのカメオ出演を希望した出演者もいたが、スケジュールの都合で実際に出演できたのは松尾貴史だけだった。
また小松左京にもカメオ出演の依頼があったが「できすぎるパロディーを書かれた原作者はいつまでも根に持つ」とオファーを断っている。
バーでの会話がベースだった原作とは異なり、市井の人々の様子がメインになっているのが特徴。
原作が短編だったこともあって、河崎の悪ノリ的な特撮パロディも多数盛り込まれている。
あらすじ
西暦2011年。突如発生した天変地異によって、アメリカ大陸が1週間で海底に沈没した。
輸入品は高騰し、定員オーバーの4000人を乗せた旅客機が墜落するなどの大混乱の中、エアフォースワンに乗ったアメリカ大統領や自家用ジェットに乗ったオスカー俳優などがこぞって日本を含めた各国に移住する。
その1週間後、今度は中国大陸が沈没。さらに1週間後にはユーラシア大陸全土、そのわずか2日後にアフリカ大陸、その次の日にはオーストラリア大陸が沈没。
地球からほとんどの陸地が無くなったが、温暖化の影響でマントルが動き、挟まれた日本列島のみが突出し、影響を受けなかった。
続々と押し寄せる避難民で日本の人口は5倍にまで膨れ上がった。1ドルは5銭にまで低下し、セレブ達は一気に貧乏に、英会話学校は倒産し新たに日本語学校が出来上がる。
自家用ジェットで移住したオスカー俳優のジェリー・クルージングは妻のエリザベス・クリフトとともに家賃をドルで払おうとしたところ「今時ドル札なんて子供銀行券だよ」とあしらわれ追い出されてしまった。
一方で早い段階で日本語学校の事業を立ち上げたデーブ・スペクターは外国人相手にぼろ儲けしていた。
ジェリーたち外国の芸能人は外国の大物映画監督ルージ・ジョーカスの誘いで映画やドラマに出演する。最初は物珍しさからもてはやされたが、街に外国人があふれかえるようになると見向きもされなくなり、最終的には巨大ヒーローに踏みつぶされる一般市民役に成り下がってしまった。酒場で「100円やるから何か一発芸をやれ」といわれて一発芸を披露するが、あまり面白くなかったので50円や10円を渡されるかつての大物俳優たち。
捕鯨禁止を掲げる国も無くなったためクジラ肉が出回り、それまで日本で出回ることのなかった魚介も出回るようになった。
外国人娼婦は10円という価格となり、たった一つのおにぎりやうまい棒欲しさに仲間や体を売る者が続出。外国人犯罪が多発したため政府は治安維持部隊「GAT(外人アタックチーム)」を設立。それどころか「日本の文化・芸能が理解できない外人は国外追放」という極端な法律までもが制定された。
今や米大統領やロシア大統領が酒場で日本を持ち上げ、中韓首脳陣も神社に参拝する世の中となった。アメリカ人を妻に持つ主人公「おれ」が外国人蔑視を強める中、妻のキャサリンは彼に愛想を尽かしうまい棒を万引きして捕まったジェリーをかばい、国外追放を受けた。
そんな中、北の某国が国内でテロを起こす。そして田所博士は日本の破滅を予言した。
出演者
おれ(主人公):小橋賢児
古賀:柏原収史
後藤:松尾政寿
ジェリー・クルージング:ブレイク・クロフォード
エリザベス・クリフト:キラ・ライチェブスカヤ
キャサリン(「おれ」の妻):デルチャ・ミハエラ・ガブリエラ
古賀明子(古賀の妻):土肥美緒
ラインバック元アメリカ国務長官:ビル・ダーリング
デンプシー元国連事務総長:サラム・ジャーニュ
北の独裁者:ジーコ内山
ハリウッド映画監督ルージ・ジョーカス:ブルマンド・サンデイ
マジックガール:プリマベーラ
怪獣(スーツアクター):谷口洋行
電一:南郷勇一
電車内の日本人:加藤礼次朗
ナレーション:木村裕二
GAT・赤木隊長:岡村洋一
GAT隊員:田崎敏路、清水一哉、原田光規、岡本光規、本宮賢二
アナウンサー:三上哲
ウェイトレス:菅野沙織、一本木蛮、木村美幸、小峰柚子、野中聖治、渡部瑠美
出前持ち:ユリオカ超特Q
大家:つぶやきシロー
デーブ・スペクター(日本語学校「デーブ・スペクター日本語学院」校長):デーブ・スペクター
結婚したばかりの若手議員:イジリー岡田
機関銃で襲撃する北のウェイター:インゴ
予報士・森田良純:松尾貴史
酒場の男:筒井康隆(特別出演)
編集長:黒田アーサー
伊達官房長官:中田博久
田所博士:寺田農
安泉純二郎首相:村野武範
石山新三郎防衛庁長官:藤岡弘、
スタッフ
原作:筒井康隆(角川文庫刊)
原典:小松左京
監修:実相寺昭雄
企画:叶井俊太郎
監督:河崎実
脚本:右田昌万、河崎実
音楽:石井雅子
製作協力:コダイ
製作プロダクション:リバートップ