私の夢が、犯されている─
概要
筒井康隆の小説を原作とするアニメ映画。
監督は今敏。
本作は今監督が原作のファンで、筒井に映画化オファーをしたことで制作に至る。
また、今監督の熱い要望で劇中音楽は平沢進が担当。二人は千年女優、妄想代理人でもタッグを組んだ。
主題歌として『白虎野の娘』が、劇中では『パレード』が起用されている。
あらすじ
ある日、夢を共有する装置「DCミニ」が研究所から盗まれてしまう。それを何者かが悪用して他人の夢に強制的に介入、おぞましい悪夢を見せて精神崩壊させる事件が発生。実際にDCミニを使用して治療を行っていたサイコセラピスト・千葉敦子は夢探偵「パプリカ」に姿を変えて事件解決を目指す。
彼女の同僚でDCミニ発明者の時田浩作は、責任者として悪夢に侵された同僚・氷室の夢に入り込む。そこで彼らを待ち受けていたのは─。
その世界観から難解な芸術映画という印象を持たれやすいが、話の大筋は『特別な機械を盗んだ犯人と、その裏にいる黒幕を見つける』というもの。
作品の特徴
この作品は『夢と現実の境が曖昧になる』という感覚を味わうことが出来る。
原作小説も『他人の夢に入り込む』ことがテーマであり、映像化したことで夢か現実か判断するのがより難しくなっている。
これは予告編の時点でも醸し出されており、予告編の最後は「なんだこれは!?」という言葉で締めくくられている。正にそうである。
台詞回しも印象的なものばかり。日本語としての文法は正しいはずだが、内容はどこか壊れている。
(例)
「速報! 屋根瓦がいざなう木陰で明日を占う未亡人! 応答は晴れ!」
「密林から繁華街へは女豹の曼陀羅を24ビットで解析…」
「おお、お前はいつぞや助けた揮発性の高い田舎娘。息災であったか。」
…などなど。特に島所長が発狂した時の「オセアニアじゃあ常識なんだよ!」は有名である。
登場人物
千葉敦子は現実、パプリカは夢の中での姿。……のはずだが行動を共にする場面もあり、本作のメインヒロインとサブヒロインを兼ねている。
- 千葉敦子(現実)
DCミニの開発・試験運用を行っている研究機関の職員。黒髪セミロングの美人で時田には「あっちゃん」と呼ばれている。
真面目で理性的な性格だが、自由人の多い職場では振り回されがち。
- パプリカ(夢の世界)
依頼者の夢の中に入り、精神の問題を取り除くことで治療を行う『夢探偵』。
赤髪のショートヘアで小悪魔的な魅力を放つ美女。敦子より一枚上手な言動が目立つ。
島寅太郎(CV:堀勝之祐)
敦子の勤める研究機関の所長。彼が重度の誇大妄想狂の精神異常患者の悪夢の影響を受けて発狂し、「総天然色の青春グラフィティや一億総プチブルを私が許さないことくらいオセアニアじゃ常識なんだよ! 」や、「思い知るがいい!三角定規たちの肝臓を! 」などと難解なことを口走るシーンはかなり怖い。
DCミニの開発者である男性。エレベーターを降りるのも一苦労という、極度の肥満体型。
子供っぽい性格だが、やる時はやるタイプ。
粉川利美(CV:大塚明夫)
島所長と大学時代から付き合いのある刑事。
悪夢にうなされていたことで、パプリカに治療を依頼する。
あいつ(CV:田中秀幸)
粉川の高校時代の友人。彼のトラウマとして夢に現れる。
日本人形(CV:こおろぎさとみ)
DCミニを通じて、他人の夢を侵食する存在。
当初はDCミニ盗難の実行犯(後述)がその正体と思われていたが…。
乾精次郎(CV:江守徹)
敦子たちが所属する研究機関の理事長。下半身不随であり、車椅子を使って移動している。
DCミニの開発により、他人の夢の中に入り込めるようになったことを快く思っていない。
小山内守雄(CV:山寺宏一)
敦子の同僚。知的な雰囲気の男性で、敦子に好意を抱いている様子。
氷室啓(CV:阪口大助)
DCミニ盗難の実行犯で、盗難直後から姿を消す。意識を失った状態で発見されるが、DCミニの影響で精神もボロボロに。
原作小説との相違点
映像化に当たって、原作から多くの点が改変されている。大きな違いは以下の通り。
- 原作では島は研究機関の所長と理事長を兼任し、乾は副理事長となっている。また、千葉と時田も常任理事として理事会の運営に関わっており、理事会内での島派・乾派の間の権力闘争の図式が明確に示されている。
- 島と粉川が友人という描写はアニメオリジナルで、原作では共通の友人である能勢龍夫が粉川にパプリカを紹介したことで接点が生まれた。アニメ版における粉川の映画に関連する設定は、能勢のものが流用されている。
- アニメ版でのDCミニは精神医療機器として既に実用化されている。原作ではまだ試作段階(主力としては1世代前のゴルゴネスというシャワーキャップ型の有線接続型コネクタを使用)、形状もカチューシャ型ではなく指先サイズの円錐形である。
余談
劇中では監督の今敏、原作者の筒井康隆も声優として特別出演している。役名はバーテンダーの陣内と玖珂。
漫画は坂井恵理版、萩原玲二版がある。
関連タグ
時をかける少女:本作と同じく2006年に同じマッドハウスによってアニメ映画化された筒井康隆による小説(監督、配給、主要スタッフ、キャストなどは異なる)。「虚構と現実の境界にある皮膜を行き来する」という共通点を持ちつつ、虚構寄りの本作と異なりこちらは現実寄りの作風となっている。
インセプション:同じく「他人の夢に入り込む」ことをテーマとしたハリウッド映画。