概要
人を選別し、適性によって役割りを定めるデスティニープラン。ギルバート・デュランダルとアウラ・マハ・ハイバルはその仕組みを管理し、人々を導く者たちを作った。それが、「アコード」だ。
以下、ムック本『Special Edition 運命に抗う意志』より引用。
コーディネイターの次の進化人類。最高評議会議長ギルバート・デュランダルが提唱したデスティニープランを管理し、人々を導く者としてつくられ、テレパシーや人の心を読む能力を持つ。アウラがコロニー・メンデルで開発に関わりデュランダルやラクス・クラインの母親も共同研究者だった。
ナチュラルはおろか並のコーディネイターでは太刀打ちできない戦闘能力とパイロット能力を備えている他、
- テレパシーの様な感応能力を持ち互いの精神を読んで言葉を交わさずともコミュニケーションが取れる他、人の心を読む
- 戦艦の中で宇宙にある対象の位置をさがす感知能力。
- 更には一種の洗脳状態に陥れていた。
精神干渉及び洗脳のプロセスは、
【対象の精神波動を察知しリンクを確立→対象の過去の経験を流用しトラウマ等を刺激し奥底にあるどす黒い感情を励起させる→せん妄状態にさせる(キラには見えるはずのないミケール大佐を見せていた)】
といった流れ。
干渉を受けた人物の目は充血したかのようになり、やがて眼が赤くなってしまう。また、ある種の錯乱状態となり他の人間からの声掛けに聞く耳をもたなくなってしまう。
劇中ではこの精神干渉を行ったのはグリフィン・アルバレストの他、終盤に彼女も自身の意識を共有した相手のビジョンに落とし込んでおり、小惑星裏の敵機を透視させている。その際相手の瞳の色が彼女の瞳の色に変化している。
福田監督は後のイベントの際に「『SEED DESTINY』の最後の方からそれっぽいような描写をちょこちょこ出していた」と語っている。実際最終決戦の際にラクスがSEEDの発現時にキラの精神を感知している描写があるので、恐らくはこれを指している可能性が高い。
監督曰く、アウラとユーレン・ヒビキは共同研究しているのでキラ・ヤマトにアコードと近い遺伝子やテクノロジーを放り込んでいるのではないかなという設定。キラに対する「失敗作」というセリフは両澤氏によるもので、「アコードはESP、ムウ・ラ・フラガはニュータイプ的なもの、キラはアコードほどの能力はない普通のコーディネイターという意味合いだったと思います」と、考えて述べている。
「とりあえずこの子たち全員が挫折を知らないエリートです。そして、自分たちのあらゆる価値観に対して疑問を持ってない。この2点は絶対必要かなと思います」「教育的な部分も大きいと思いますけど、彼らは実際に何でもできるからタチが悪い。もちろん彼ら同士でも対抗心とかライバル心みたいなのがあるんでしょうけど」(HOBBY JAPAN 2024年4月号・監督インタビューより抜粋)
弱点
コーディネイターを上回る高い基礎能力に加え、ナチュラルやコーディネイターを問わずに人間誰しもが抱く負の感情を介して精神へ干渉する能力は確かに恐るべき「脅威」と言える。
だが「自分達が成功を納めるのは当然のことである」という過剰なまでの全能感に溺れ、「敗北」や「挫折」、「恐怖」、「絶望」、「理不尽」、「不条理」といった人が生きていく以上いずれは嫌でも思い知る事になる所謂「負の経験」が皆無であった。
これらの成功体験しかない背景からか、自身の知らない物事に対する耐性が極端に低いという、戦場含めた実務で活躍させるには致命的な不安要素を抱えている。実際、シンとの戦いで取り乱し始めた後のアコードたちの様子は、ブーステッドマンやエクステンデットを想起させるほどであった。
アウラの影響から外れ育てられた一人にはそのような様子は全く見られないため、アウラの教育の結果、或いは感応能力に付随するのか、不安定さはアウラの直属のアコードにのみ見られる特徴であると言える。
要はパイロット能力そのものは非常に高い素質を持っているが、戦闘経験をあまり持っていないが故に想定外の事態に対してアドリブが効かない温室育ちである。
また、思考をクリアにするSEEDとは相性が悪く、劇中ではSEEDを発現させたシンに対して「思考が読めない」と困惑する描写もあり、アコード達もこれまでSEED発現者と対戦したことがなかった様子。
更には、心を読めるが故に相手の思考が想定外のものの場合や心の闇が深すぎる場合は逆に読んだ側が影響されてしまい、アコード同士で精神をリンクさせている場合は連鎖的に影響を受けてしまう(実際、アコードの一人が死の恐怖に怯え断末魔の悲鳴を上げながら戦死した結果、他のアコード達三人もその一人の恐怖の感情を読み取ってしまい、連鎖的に恐慌状態へと陥り、後を追うように戦死している)。
さらに、「心を読む能力」自体もあくまで表面的な、「何をする」レベルの思考を読めるだけで、心の奥底に隠した心理まで読める訳では無い。実際にアコードの一人は、ある人物への感情を心の奥底に隠して周囲に全く気付かせなかった。
この点から見ても、劇中で行っている精神干渉は相手の表層心理だけを観測して行っているものである事が推測される。「闇が深すぎる」のではなく「人のトラウマの上っ面だけを見て知った気になっていただけ」という方が正確だろう。例のアレを呼び寄せてしまったのは、相手の表層心理が読めなかった故に、心の深層部分まで迂闊に踏み込んでしまったせいなのかもしれない。実際のところあの能力は、本人達が思っている様なお手軽洗脳攻撃として軽々しく扱っていいものではないのではなかろうか。
ユーラシア兵士から核ミサイルを発射するためのパスコードを読み取る際も頭に思い浮かぶよう銃を突きつけ脅迫する必要があった事実が露呈している。
そもそも、実戦経験を積もうにも彼等の戦闘は
- 事前にジャマーを掛ける事で相手の耳と口を塞いだ状態に追い込み、読心能力で相手の行動を先読み、無人MSによる弾幕で逃げ場を塞ぐ
- 自分達はテレパシーで自在に連携が取れる上に、必要が生じれば精神干渉で敵を錯乱させる事が可能
- 搭乗機体は牽制射程度ではびくともしない堅牢な装甲を持ち、こちらにダメージを与えうる敵や武装は奇襲で真っ先に分断or破壊する
といった具合で相手がカタに嵌まり切ったところを悠々と掃滅する、言ってしまえば「初見殺し」「わからん殺し」が基本戦術であり、元より状況変化に対応する経験を積める様な戦い方ではない。それどころか、回数を重ねれば重ねる程読心能力と機体性能に依存するようになっていくことは明白である。
事実、アコードの大半は生き死にの戦いを緊張感もなくゲーム感覚で楽しんでいた(単に強者の余裕というわけではあるまい)。
上記の弱点も、その殆んどが自分が攻め込む「奇襲」ではなく、相手を迎え撃つ「迎撃」の際に露呈したものである。こっちから一方的に不意討ちする分には強いが、総じて事前対策を打たれての護りには脆いのが欠点と言えるだろう。結局、どんな優れた才能や超常的な能力を付与しても、それが本人の努力によって培ったもので無いのなら、それを十全に扱う精神が独りでに付いてくる事などそうそうなく、むしろその才能に「使われてしまう」のだ。
なんとも皮肉だが『「タネが割れれば」大したことない』というところであろう。
アコードとデスティニープラン
上記の事実からも、究極のコーディネイターを名乗るアコード達の実態は『歪んだ完全性』と言わざるを得ない。
曲がりなりにも平和を目指したデュランダルが管理者を作ろうとしたとは考えられない、本来の理念とは異なる存在としてアウラ個人によって創造された。といった視聴者の意見もあるが、デュランダルがアコードの開発に関わっていたことは劇中の描写からして事実だろう(冒頭の言葉、幼児化してるアウラと幼いアコードたちとの写真、ターミナルの調査結果)。
- デュランダルはアウラとの意見の相違から彼女と袂を別ったのかは不明。小説版にて「アコード達とデュランダルとの関係」について映画では描写されていなかった情報が明かされているが…?(後述)
- 第一、遺伝子に基づく適材適所を設ける事による社会の公正・公平化を目的としたプランに対してそのプランの結果に沿うよう支配者に適した人間を人為的に造り出すという手段を善しとするのは、能力主義社会において人為的に能力を引き上げた人間を生み出す事で発生した、コーディネイターとナチュラルの血と憎悪の歴史を繰り返す本末転倒な行為に他ならない。世界の指導者として生み出されたアコード達の指導者となっている存在が容姿も人格も幼稚そのものな子供だという事実も、デスティニープランによって本来否定されるべき人間の持つ欲望の真理そのものと言うべきところだろう。
『敷かれたレール、に定められた運命の上を疑うこと無く歩くことを是としている』彼らが、例え不完全であろうとも『愛と自由に生きる確固たる意志』を持った人々に敗北するのは必然だったのである。
- 一部、あまりにもフリーダム過ぎる男に死んでも死にきれない負け方をして「流石に哀れ過ぎる」と観客に同情された男もいるが…。
小説版にて
イングリットとリデラードは姉妹の関係にあたるが、アコードは全員が兄弟で姉妹なのでそのことはあまり意味はないと言及されている。また当事者達にはそういった認識はないようで、オルフェやイングリット視点でも仲間という言葉しか使われていない。
そして映画でははっきり描かれなかった「アウラとアコード達とデュランダルとの関係」について小説版下巻で描写されている。
デュランダルとアウラは今の世界を公平で平和な世界に変えたいと望み、その世界を導く存在を創り出す役目をアウラは担い、アコード達を誕生させた。
「デュランダルはラクスをあきらめ、切り捨てようとしたが、アウラは反対だった。」と記述されているので『DESTINY』でのラクス・クライン暗殺未遂はデュランダルの独断で行われたと思われる。
しかし、オルフェがキラと交戦時「自分たちにとって父とも言えるデュランダルを殺し、デスティニープランを頓挫させ、自分達の存在意義を奪った。そのうえラクスまで───!」と認識している為、アウラはデュランダルがラクスを切り捨てようとしていた事実はアコード達に伏せていたのではと思われる。
メンデルでアウラとユーレンはライバル関係で、ともにより優れた人類を作り出そうとしていた。アウラは、すべてにおいて卓越した能力を示し、他者と完璧に融和できる個体、新しい世界にふさわしいアコード達を創り出したが、ヒビキに計画を一蹴されており、その際の彼の言葉を鑑みるに二人の方針は優れたコーディネイターを作るという点である程度一致していたが、単に最高(事前に調整したとおり)の才能と可能性を持つコーディネイターを作ろうとした点とより優れたコーディネイターを以て世界を統制しようとした点で相違があった模様。ちなみに、ヒビキ曰く「遺伝子を操るだけじゃ満足できずに、他人すべてを操ろうなんて、きみはとことん傲岸だね。」
なお、小説においてアコード達は「自分達は優越した存在」という自負を持つが故に失敗や苦難に直面する事に精神が耐えられず、あまつさえある人物に至っては『最強としての自負がある為に意識して才能をセーブする癖がある』という、生命体として致命的な欠点を抱えていたことが捕捉されている。
才能を与えるだけで超人が作れると思い込んだ創造主による教育の弊害といったところであろう…。
該当者
- ラクス・クライン:アウラの管理下に置かれていなかった唯一のアコードとされる。
ラクスとオルフェ以外のメンバーの苗字はすべて古代に使われていた銃(ダニエルのみ剣)の名前からとられている。
関連タグ
カナード・パルス:アコードやキラと同じく、コズミック・イラの業の深さにより産み落とされた者の一人。方向性は真逆ながらも己の出自や運命に縛られていたが、ある者との出会いによりそれらを吹っ切る。アコード達にももっと早くそのような出会いがあれば、彼らの運命も変わっていたかもしれない。