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スイセンの香りとガーネット
高校時代からの美穂の夢だった花屋を開いて、一ヶ月が経った。最初こそ調子が良かったものの、最近はからきしダメだ。私が仕事から帰ると、美穂はいつも安いウィスキーを傾けている。その姿は、とてもやつれて見えた。 ある晴天の土曜日、私は親父から車を借りて、美穂を福井県の越前までドライブに連れ出した。美穂は、私が美穂の店の運営資金に給料のほとんどを出していることを負い目に感じているみたいだ。私にできることは多くはないけれど、せめて少ない資金提供をして、夢を追いかける美穂を見るのが、なにより幸せだった。それが、美穂を高校時代の夢に縛り付けていたかもしれない。花屋を経営するのがつらくても、やめられないのかもしれない。私は車を路肩に止めて、続けるか立ち止まるかを尋ねた。美穂は、続けたいと言ってくれた。 少し走ると、どこからともなく、さっぱりとした甘い香りが漂ってきた。越前名産のスイセンの香りだ。温室を見つけて立ち寄ると、どうやら売れ残って困っているらしい。美穂は破格で大量に買い付けて、継続的に卸してもらう話もつけてきた。 帰ってすぐスイセンを店先に並べると、その香りに誘われて、店は初日以来の大繁盛だ。このスイセンを店のウリにして、これからも続けていく道筋が立った。 閉店後、部屋に上がって休憩をしていると、美穂がなにやら言いたそうにしている。これは告白されるな、と直感して、私は先手を打ってそれを止めた。私たちは、恋人同士じゃない。友達程度でもない。まさに友達以上恋人未満。そんな不安定な足場に立っているからこそ、手を強く握るのだ。美穂の想いを私はわかっているし、私の想いもきっと、いくら鈍感とはいえ、美穂には伝わっている。今更、あえて「付き合ってください」「よろしく」なんて言う必要はないんじゃないかと思った。 ひとまず引き下がったかと思った美穂は、赤いチューリップを私にプレゼントした。花言葉は「永遠の愛」。けれど、今日ばかりはそれだけじゃなさそうだ。チューリップ。美穂が込めた、もう一つの想い。チューリップだ。 「恋人にならなきゃ、しちゃダメ、かな」 「さあ、どうだろ。試してみる?」 ※「あの春の日」の出来事(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10563763) ※「たぬき顔の女子大生」たちの物語(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10509159)9,223文字pixiv小説作品