概要
1971年8月、心理学者ジンバルドーは「人は特別な肩書き・地位を与えられるとその役割に合わせて行動してしまう」という仮説の証明のために、大学の地下実験室を監獄と見立てて実験を行ったという。
被験者を看守役、囚人役に割り振り、実際のパトカーや囚人服を用いたり持ち物検査を行ったりと本格的な舞台を演出した。
時間が経過するにつれて看守役は勝手に罰則を与えたり暴力を振るったりするなどサディスティックな振る舞いを見せるようになり、囚人役は精神的に追い詰められ錯乱するなどの様相を呈する。
このため、当初実験期間は2週間の予定だったが、早々に打ち切らざるを得ない状況になったという。
この実験では、人は閉鎖空間で上下関係を付与されると理性の歯止めがきかなくなること、個人ではなく役割として他者を見るという非個人化などの現象が確認された。
そのセンセーショナルな実験内容・結果は大きな話題を呼び、閉鎖空間における人間の恐ろしさという文脈で語られることが多いが、近年になってやらせの側面がかなり強い、いわゆる研究不正であることが明かされている。
近年になって社会科学者のティボー・ル・テクシエが「スタンフォード監獄実験の偽りを暴く」という論文を発表した。
そこにはジンバルドーが被験者たちに、看守としての振る舞い方を細かく指示していたことや、囚人役にわざとトイレを使わせないなどの虐待じみた扱いをしていたことが記されており、科学的には全く信憑性のないものであった(実際、その後に行われた追試において再現性が低いことが指摘されている)。
なお、心理学分野における再現性が低く科学的根拠が薄い実験としてこの他にマシュマロ実験やパワーポーズなどがある。