概要
架空の大陸「レムリア」を舞台とした、剣と魔法のヒロイック・ファンタジー。1965年から70年にかけて、全六巻が執筆された。
日本語版は、ハヤカワ文庫より全六巻が1973年から78年の間に発売されている。
主人公のゾンガーは、バーバリアンの傭兵であり、豪放磊落、剣一本でその身を立て、やがて一国を興し王となる……という、「英雄コナン」によく似たキャラクターであり、物語自体も似たところがある。
しかし、ハワードと異なるリン・カーターの物語は、コナンシリーズとは異なる魅力を有しているのも確かである。全六巻で物語もそつなくまとまり、この時代における、コナン以外の(そしてコナンに似た)ヒロイック・ファンタジーとしては、佳作ともいえる作品である。
物語
レムリア大陸北方、ヴァルカルト生まれの男、ゾンガー。
彼はトゥルディス国の傭兵をしていたが、ある日に酒場で貴族と賭けを行い、それに勝ったのに支払いを断られた事から争いを起こし、ついうっかり殺してしまった。
牢に入れられ、鎖で拘束されるも、友人の戦士アルド・トルゥミスの手引きにより脱獄。そして、脱出の際に特殊な魔法の金属「ウルリウム」を用いて建造された「飛行艇」を手に入れ、そのまま空中から脱出した。
飛行艇をなんとか操縦し、やがてチェシュの密林の上空に辿り着いたものの、トカゲ鷹グラックの襲撃を受けて墜落。密林に棲む怪物たちに襲われるも、魔法使いシャライシャにより救われる。
シャライシャは、強力な戦士を一人、必要としていた。世界を滅ぼす悪竜の王が復活しようとしているため、それを倒す霊剣が必要なのだと。
飛行艇を修理し、二人は霊剣の材料となる『星の石』が保管されている、ツァルゴル国に向かう。
塔に保管されていた石を奪取し、船へと届けたは良いものの、ゾンガーは捕まってしまった。
闘技場で慰みに、怪物と戦わされて殺される事になるが、前王の息子のカルム・カルヴスと知り合い、シャライシャの助けでともに脱出する。
星の石を剣に鍛えるため、一行は焔の神ヤマトを崇める黄色いドルイド僧が治めるパタンガ国に入る。シャライシャの手により石は剣に鍛えられるが、ゾンガーとシャライシャはドルイド僧たちに囚われてしまった。
そこでゾンガーは、ドルイド僧ヴァスプス・プトルに結婚を迫られている、パタンガ国最後の王族、スミア姫と出会った。三人は処刑の寸前に、カルム・カルヴスの操縦する飛行艇に助けられ、霊剣を完成させた。
だが、悪竜たちの住処に赴く途中。空中でゾンガーは空の怪物の群れに襲われ、巣に運ばれてしまった。
シャライシャ、カルム・ガルヴス、スミアはゾンガーを欠いたまま、悪竜の王スススアーアとの決戦を余儀なくされてしまう……。
登場人物
- ゾンガー
主人公。レムリア大陸北方、ヴァルカルトの生まれ。
豪放磊落な偉丈夫。長剣を武器に用い、傭兵として戦いの場を渡り歩き、幾多もの手柄を立ててきた。勇敢な戦士であり、戦いの際には容赦はしないが、仲間や友人と認めた者に対しては情に厚い。そのため、ゾンガーに恩を感じる者もまた多く、彼の窮地を救ってくれる事も多かった。
魔法や魔法使いに対しては不信を抱いているものの、マジックアイテムや魔法の武器を用いる事には抵抗はない。
牢に閉じ込められる事も過去に多く体験しているが、そうなった際には一休みして、食事を取り、そうした上で今後を考える……という事を実践している。そのため、常に食事を欠かさない。
飛行艇を奪い、シャライシャに出会ってから、様々な大冒険を繰り広げ、ついにはトゥルディス、パタンガ、ツァルゴルの三国をまとめ上げ、それらの王の上に立つ『王の中の王』となる。
- スミア
後に、ゾンガーの妻となり、ゾンガーの興した王国の妃となった後、王子をもうける。
- シャライシャ
- カルム・カルヴス
- シャンゴト
- ザール九大魔導師
- タラバ
- アダマンクス
- マルダナクス
- ピトゥマトン
- 頭脳のヴァル
- マルドルド
- 髑髏のゾト
- サルガネト
- ラダマンドゥス・ヴォト
レムリアの怪物
レムリアには、失われた動植物とともに、多くの怪物が存在する。
- オプ
- グラック
- ザムフ
- スロルグ
- ゼマダル
- ポア
- スリツ
囚人や罪人の処刑にも用いられている。処刑対象の罪人をこのスリツの樹近くに放り、血を吸わせるというもので、罪人が吸血される様子を見る事は、貴族たちの娯楽にもなっている。ゾンガーもこの刑に処されそうになった。
アイテム、特殊な品
- ウルリウム
レムリアの錬金術師、オーリム・ポンが創造した、銀灰色の合成金属。完全に無重量の性質を有し、そのために浮遊する。この金属を用いて船などの乗り物を作り出せば、それは浮遊し飛行する事が可能になる。雷撃を受けると、無重量の性質が消えてしまう。
- ネメディス号
その船体は植物の鞘のような形状で、舳先から船尾まで約6m。舳先と船尾、甲板部中央と竜骨下部に、それぞれプロペラが付き、ゼンマイ仕掛けで回転させる事ができる。
ウルリウムの特性で空中に浮かび、四方向のゼンマイのプロペラを回転させ、推力を得て前進・後退、上昇・下降が可能になる。甲板上には簡単な操縦盤が備え付けられており、四つのプロペラを動かす四本のレバーが付いている。これを上に上げれば上げるほど、プロペラの回転が速くなる。船体の形状から、海上に降下すればそのまま船としても用いる事は可能。
甲板中央部の小さな船室内には、寝台の他、照明用の油ランプの他、水と保存食などが入れられていた。
ゾンガーが奪取した後、チャシュの密林上空で、グラックに襲われて破損し墜落。しかしシャライシャにより修復され、霊剣を復活させるための冒険者たちの足となる。船名は、修復の際にシャライシャが名付けた。かつての古代王朝ネメディスから命名している。
冒険が終わった後、ゾンガーの所有物となった。のちにゾンガーは、王国を興した時にこれを量産し、空中船団を結成する。
- 平原遊牧民の大強弓
角を層状に重ね合わせた弓で、全長は1.8m以上。引き絞るのには並大抵の力では敵わず、普通の人間が普通につがえて矢を放つ事はほぼ不可能。弓弦は竜の腸を用い、用いる矢の長さは大槍の半分ほど。矢の鏃も、カミソリのような鋭利な鋼鉄製。
この弓はレムリア大陸極西部の平原に住む、青い肌の遊牧民イェガ族が良く用いている。これを愛用していたと言われている「青い肌の巨人ルモアハル」の伝説は、ゾンガーも耳にした事があった。
トゥルディス王バル・トゥルリドは、飛行艇を何艘か建造し、この強弓の射手を乗せて、空中から敵軍へ矢を掃射する部隊の編成計画を有していた。
- 星の石
- ネメディスの霊剣
神々が星々の欠片を用い鍛え上げた剣で、強大なる力を秘めている。この剣を用い、ズンガルトは己の命と引き換えに、人類を隷属する悪竜とその王を葬り、勝利をもたらした。
オリジナルの剣は、既に失われて久しいが、悪竜たちが復活の兆しを見せたため、シャライシャは新たな剣を必要としていた。
書籍
ハヤカワ文庫より、全六巻が発売。
一巻:ゾンガーと魔道師の王(THONGOR AND THE WIZARD OF LEMURIA)
二巻:ゾンガーと竜の都(THONGOR AND THE DRAGON CITY)
三巻:邪神と戦うゾンガー(THONGOR AGAINST THE GODS)
四巻:ゾンガーと魔道師の都(THONGOR IN THE CITY OF MAGICIANS)
五巻:時の果てに立つゾンガー(THONGOR AT THE END OF TIME)
六巻:海賊と戦うゾンガー(THONGOR FIGHTS THE PIRATES OF TARAKUS)
これらの本編の他、ゾンガーの短編が三本ほど存在する様子だが、邦訳は為されていない。
そのうちの一編は、若き日のゾンガーの活躍を描いた前日談。自身の一族を滅ぼされた後に盗賊稼業を行っていたゾンガーが、失われた都市の城砦地下にて、魔法の宝石の力で700年を生きた魔道師と対決するというもの。