概要
第二次世界大戦中に日本海軍が建造した輸送艦。一部は日本陸軍機動艇として運用された。
ガダルカナル島の戦いなどでの前線への輸送任務に苦戦した経験から、敵制空権下高速突破可能な専用輸送艦として開発された戦車揚陸艦。
当初は海軍が味方地上部隊への補給物資や増援部隊を輸送する目的で計画されていたが、途中で同様の戦車揚陸艦を既に機動艇(SS艇)として独自開発・運用していた陸軍が加わり、陸軍からの資材提供を受ける代わりに一部を陸軍機動艇として供給する事になった。
戦車揚陸艦という事で艦首を海岸に直接擱座させて揚陸するスタイルとなっており、艦首部分の門扉が前に倒れて揚陸用のスロープとなる構造となっている。また戦車の搭載スペースは上甲板と船倉の二段になっており、船倉の内扉と上甲板から艦首通路に向かうスロープを兼用とする事でいずれのスペースからも直接戦車が揚陸可能な構造となっている。
船体は直線と平面が多用された形状とブロック工法が採用され、戦時中の大量増産に対応している。一方で本来波が穏やかな南方の島嶼部での運用を想定していた事から航洋性は高くなく、硫黄島方面など日本近海の荒海での使用においては強度不足気味であり補強工事を要した。ただし復原性には配慮されており、後に機銃を大量増備する際にも安定性が確保できた。
なお、動力は戦時標準船向け出力2,500馬力蒸気タービン(第二号型海防艦に搭載されていたものと同一のもの)として設計されたものの、最初期に生産された6隻(101号、102号、127号、128号、149号、150号)についてはタービンの生産が間に合わず、代わりに400馬力ディーゼルエンジンを3基搭載する事になった。そのため、『特務艇一般計画要領書 附現状調査』では本来の蒸気タービン式のものを「SB艇(T)」、ディーゼル式のものを「SB艇(D)」として区別している。またSB艇(T)を指す俗称として戦後「第百三号輸送艦」という呼称も発生している。
当初は特設軍艦の一種である「特設輸送艦(雑用)」に類別されていたが、1944年9月の艦艇類別投球別表改定により「二等輸送艦第百一号」に改められた。また特設輸送艦時代の1944年6月から一部の艦の陸軍移籍も行われ、機動艇のうちSB艇(海軍製の戦車運搬艇、の意)に分類された(一部は後に海軍へ返還)。
艦艇名は海軍が「第○○号輸送艦」、陸軍が「機動第○○号艇」とされ、いずれも既存の一等輸送艦やSS艇との区別のため101号から始まる3桁の番号が与えられている(例:第百一号輸送艦、機動第一〇一号艇)。
最終的には75隻が建造され、69隻が完成した。このうち陸軍には35隻が供給され、更にそのうち13隻が海軍に返還されている。戦没艦艇総隻数は陸軍に移籍したものについての資料が不足しているため定かではないが、最終的に海軍所属となったものについては31隻が戦没、5隻が大破着底と記録されている。
同型艦艇
同型艦艇は、陸海軍合わせて69隻が竣工、6隻が終戦時未成。他さらに28隻の建造が予定されていたものの戦局の悪化に伴い取りやめられている。
二等輸送艦は就役時・戦没時の分類、所属、番号など入れ替わりが見受けられるので、以下の表では海軍内での仮称艦名番号順に並べる事とする。なお、陸軍時代の艇名・動向については不明点も多いため以下の記述が誤っている可能性がある事も付け加えておく。
二等輸送艦としての艦名 | 特設輸送艦としての艦名 | 陸軍SB艇としての艇名 | 備考 |
---|---|---|---|
第百一号輸送艦 | 第百一号特設輸送艦 | ディーゼル機関 | |
第百二号輸送艦 | 第百二号特設輸送艦 | ディーゼル機関 | |
第百三号特設輸送艦 | |||
第百四号輸送艦 | 第百四号特設輸送艦 | ||
第百五号輸送艦 | 第百五号特設輸送艦 | ||
第百六号輸送艦 | 第百六号特設輸送艦 | 機動第一〇一号艇(初代)または機動第一二〇号艇 | |
第百七号輸送艦 | 第百七号特設輸送艦 | 機動第一二三号艇? | |
第百八号輸送艦 | 第百八号特設輸送艦 | 機動第一二五号艇? | |
第百九号特設輸送艦 | (番号不明) | 戦後、復員船「SB第百九号」として復員輸送に従事 | |
第百十号輸送艦 | 第百十号特設輸送艦 | (番号不明) | 戦後、復員船「輸第百十号」として復員輸送に従事 |
第百十一号輸送艦 | 第百十一号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百十二号輸送艦 | 第百十二号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百十三号輸送艦 | 第百十三号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百十四号輸送艦 | 第百十四号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百十五号輸送艦 | 第百十五号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百十六号特設輸送艦 | 機動第一〇三号艇 | ||
第百十七号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百十八号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百十九号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十一号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十二号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十三号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十四号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百二十五号特設輸送艦 | 機動第一二七号艇? | 終戦時未成 | |
第百二十六号特設輸送艦 | 機動第一二八号艇? | 終戦時未成 | |
第百二十七号輸送艦 | 第百二十七号特設輸送艦 | ディーゼル機関 | |
第百二十八号特設輸送艦 | ディーゼル機関 | ||
第百二十九号輸送艦 | 第百二十九号特設輸送艦 | ||
第百三十号特設輸送艦 | |||
第百三十一号輸送艦 | 第百三十一号特設輸送艦 | のちに雑役船(交通船)に類別変更、「第一黒潮」と改称 | |
第百三十二号輸送艦 | 第百三十二号特設輸送艦 | ||
第百三十三号輸送艦 | 第百三十三号特設輸送艦 | ||
第百三十四号輸送艦 | 第百三十四号特設輸送艦 | ||
第百三十五号輸送艦 | 第百三十五号特設輸送艦 | ||
第百三十六号輸送艦 | 第百三十六号特設輸送艦 | ||
第百三十七号輸送艦 | 第百三十七号特設輸送艦 | 戦後、復員船「輸第百三十七号」として復員輸送に従事 | |
第百三十八号輸送艦 | 第百三十八号特設輸送艦 | ||
第百三十九号輸送艦 | 第百三十九号特設輸送艦 | ||
第百四十号輸送艦 | 第百四十号特設輸送艦 | ||
第百四十一号輸送艦 | 第百四十一号特設輸送艦 | ||
第百四十二号輸送艦 | 第百四十二号特設輸送艦 | ||
第百四十三号輸送艦 | 第百四十三号特設輸送艦 | ||
第百四十四号輸送艦 | 第百四十四号特設輸送艦 | ||
第百四十五号輸送艦 | 第百四十五号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百四十六号輸送艦 | 第百四十六号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百四十七号輸送艦 | 第百四十七号特設輸送艦 | (番号不明) | 戦後、復員船「輸第百四十七号」として復員輸送に従事 |
第百四十八号特設輸送艦 | 機動第一一三号艇 | ||
第百四十九号輸送艦 | 第百四十九号特設輸送艦 | ディーゼル機関、のちに雑役船(交通船)に類別変更、「第二黒潮」と改称 | |
第百五十号特設輸送艦 | ディーゼル機関 | ||
第百五十一号輸送艦 | 第百五十一号特設輸送艦 | ||
第百五十二号輸送艦 | 第百五十二号特設輸送艦 | ||
第百五十三号輸送艦 | 第百五十三号特設輸送艦 | ||
第百五十四号輸送艦 | 第百五十四号特設輸送艦 | (番号不明) | |
第百五十五号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百五十六号特設輸送艦 | (番号不明) | ||
第百五十七号輸送艦 | 第百五十七号特設輸送艦 | ||
第百五十八号輸送艦 | 第百五十八号特設輸送艦 | ||
第百五十九号輸送艦 | 第百五十九号特設輸送艦 | ||
第百六十号輸送艦 | 第百六十号特設輸送艦 | ||
第百六十一号輸送艦 | 第百六十一号特設輸送艦 | ||
第百六十二号輸送艦 | 第百六十二号特設輸送艦 | 機動第一〇一号艇(2代目?) | |
第百六十三号輸送艦 | 第百六十三号特設輸送艦 | 機動第一〇二号艇(2代目?) | |
第百六十四号輸送艦 | 未成艦 | ||
第百六十四号輸送艦 | 未成艦 | ||
第百七十二号輸送艦 | 戦後、復員船「輸第百七十二号」として復員輸送に従事 | ||
第百七十三号輸送艦 | |||
第百七十四号輸送艦 | 戦後、工作艦「輸第百七十四号」として復員輸送を支援 | ||
第百七十五号輸送艦 | 未成艦 | ||
第百七十六号輸送艦 | 未成艦 | ||
機動第一一一号艇 | |||
機動第一一四号艇 | 戦後、復員船「SB第百十四号」として復員輸送に従事 |
上記の他、艇名不明の陸軍SB艇3隻の竣工記録が残っている。