和田慎二作品群の登場人物。
同作者作品群において一貫して登場する日本を牛耳る巨悪。
概要
すでに自身では抱えきれぬほどの膨大な権力を持ちながら、それでもなお飽き足らずに更なる強大な権力を求め、時(寿命)すらも捻じ伏せんと暗躍し、人の身では決して持ちえることの出来ぬチカラをも己のものにせんとすら企む謎の老人。
その毒牙は日本のみならず、国際的犯罪組織すらも、その腕に収めている。
出自は定かではないが幕末の頃には既に存在が確認されており、その時点で老人。そして現在まで残されている写真データを分析すればきちんと年を取っているという、どうみても規格外の人外のはずであるのに、どこから見てもただの人間であるという不条理すぎる巨悪。
原作本編内で麻宮サキにボヤかれた通り、将に、"信楽の狸親父"は"信楽焼の狸"の如く狡猾なのである。
その長い生の中で日本の政財界に根を下ろし、その権力に任せて、日本という国そのものを自分の思いのままにむさぼってきた、まさに老害。しかして、その権力欲はとどまるところを知らず、時に偶然発見された麻薬を用いて全人類奴隷化計画すらも企むという底なしの野心を持つ。(のちには、その権力すらも「所詮は愚かしい自己満足」「そこそこのオモチャ」と傲然と言い放った)
登場作品
『お嬢さん社長奮戦中!!』(1972年、DXマーガレット春号)にて初登場。
ここでは繊維メーカー「信楽繊維」の社長として登場。主人公の会社であるライバルメーカー「浅野繊維」に敵対的買収合併(会社の乗っ取り)を仕掛ける悪役として辣腕を奮った。偽造書類を駆使し、詐欺師を抱きかかえて策略を企てるなど、後々の事を思えば、そこそこセコくも可愛い(?)企みを巡らせている。(ちょっと目の前の羽虫がうっとうしいから叩いてやろう、という程度の事であって、本気ではなかったのかもしれない)
次に『快盗アマリリス』(1973年、別冊マーガレット11月号。のちの『怪盗アマリリス』のプロトタイプ)にて再び登場。
主人公・椎崎奈々こと怪盗アマリリスの故郷であるN町周辺に鉄道を引いた「信楽鉄道」を中核として形成される信楽コンツェルンを束ねる会長として姿を現した。
偶然見つけた「人の自律思考能力を奪う麻薬」を使った企みのテストタウンとしてN町を選定。町の市民経済にするりと入り込み食品メーカー「信楽食品」とスーパーマーケット部門「信楽商事(信楽スーパー)」をハブ企業にして麻薬入りの食品をばらまき、町の人々を自分たちに逆らえない人形へと徐々に作り替えていった。
ちなみに、この麻薬。副反応(副作用)として太るのだが、そこは信楽コンツェルン。「信楽繊維」を軸に大きめサイズのオリジナルブランドと専門店を出し一般服を子ども用サイズと、さらにLサイズの服をSサイズと言い張ってすべてをごまかした。(Mサイズは一般服のLLサイズ、Lサイズは一般服のLLLLサイズである)
しかし、これはあくまでもテスト。その企みの本丸は日本国・日本政府そのもの、さらにこれが成功した暁には地球全土の国家・コミュニティを作戦の視野に入れており、日本では既に総理大臣を始めとする与野党の有力政治家たちがターゲットにされていた。
しかし部下がアマリリスの幼馴染であった佐藤容子とその兄に企みを気付かれた事で、彼らを「始末した」ため、アマリリスの怒りを盛大に大人買いする事に。アマリリスの策略によって麻薬とその原料は世に欠片も残さず処分され、信楽老は逃亡に使ったスノーモービルを攻撃されて爆死。残された信楽コンツェルンはアマリリスの告発により全ての罪を暴かれて瓦解した。
(……え? このテの作品の爆死など死ぬ死ぬ詐欺の常套手段だって? うん、まぁ…ねぇ……)
ところが(と、いうか案の定というべきか)『5枚目の女王』(1975年、講談社『月刊mimi』11月号)にて復活。神恭一郎も関わった事件の裏で暗躍を見せる。
そして、ついに『スケバン刑事』第二部に満を持して参戦。学生組織「青狼会」や犯罪組織「猫」を率いる黒幕として登場する。
若者たちの功名心や中二心、権力者の野心など、人が決して逆らえない欲望を巧みにくすぐり世界へのテストケースとして日本の権力の意図的な置換をたくらむ。
その中で自らの孫娘すらもアッサリ切り捨てるという外道行為は必見。最期はサキと神恭一郎の二人によってトドメを刺され、ついに鬼籍に入った……と思いきや!
怪盗アマリリスのアルカディア作戦編でアッサリと復活。本条亜里沙が結成させた「怪盗アマリリス・ムウ=ミサ・忍者飛翔」によるドリームチーム(今風に言えば和田アベンジャーズ)と、ナチス・ドイツが封印したという「遺産」を巡って激突した。
和田慎二作品の主人公2名が命を賭して葬ったはずの巨悪が何の前触れもなく蘇ったことにファンは激怒したという。(そして、それぞれ信楽老と因縁があり、その死を確認したはずのアマリリスとムウ=ミサは驚愕した)
ここでなんと信楽老は不老不死を手にせんと暗躍していたことが明らかになる。(おそらくはドラマ版からの逆フィードバック。それを知ったムウ=ミサは「化物と呼ばれるだけでは飽き足らず、神にでもなるつもりか!」と憤怒の勢いで問い質した。信楽老はそれに対する返事を返していないが当たらずとも遠からずらしき反応を返している)
そして、和田慎二の逝去により、彼は永遠に正義に倒されない巨悪と化してしまった。和田慎二作品の範例を考えるなら、こんなバケモノキャラ、超少女明日香の逆十字に関わっていてもおかしくない存在でもあるため、ますます作者の逝去が悔やまれる。
映像作品での扱い
一方のTVドラマ版「スケバン刑事Ⅱ」では、2代目麻宮サキ・五代陽子の家族を殺した張本人で、終盤では警察すらも手中とし圧力をかけて陽子を孤立させることに成功する。不老不死による永劫の世界支配を望んでいた。
しかし陽子の仲間であるお京&雪乃、そして警察を裏切った西脇の後押しを受け、自らも本名である「早乙女志織」を名乗った陽子の捨て身の攻防によって不老不死のもくろみもろともに打ち砕かれ、最期は巨悪に屈したことを悔やんだ暗闇指令の反逆によって射殺された。
ただしここでは2代目サキこと陽子は負傷しながらも無事に生還。その際西脇の計らいで“「五代陽子」が死んで「早乙女志織」が転入してくる”形で平凡な学生生活に戻るというハッピーエンドだった。
原作とは異なり、ただの権力欲と滑稽な夢想にとりつかれた外道として描かれ、人間の範疇を超えているかのような描写は行われなかったが、この内容については和田慎二も気に入っている。
余談
どこからどう見ても和田ユニバース上、考え得る限りにおいては最悪の『ただの人間』である信楽老。しかし、この『ただの人間』でありながら「最悪の巨悪」である、という立ち位置や構図は、和田慎二作品においてはある存在を彷彿とさせるところである。
それは『超少女明日香』に登場する地球史上最大にして最悪の悪生霊・黄金のドクロ。自らのために自然を捻じ曲げ力とする、この存在と対峙した砂姫明日香は「信じたく(気付きたく)なかった」と苦渋に満ちた思いを吐露し、この生霊の正体を、このように看破した。
「自然をねじ曲げて自分のための力に使い、壊れていく自然には目もくれない」
「……そんな存在はただひとつ! あなたは…”人間”の生霊ね!」
そう、黄金のドクロの正体こそ人間が進歩しようとする意志の集合具現体そのものであったのだ。
明日香が指摘した言葉の「自然」を「人間」あるいは「社会」に置き換えれば、それは丸々、信楽老の在り方となる。
黄金のドクロは最後「地球は狭すぎる」と言い残し、明日香に倒される事無く天の虚空へと消えていった。と、なれば、信楽老もあるいは………。
ちなみに──。
和田慎二は黄金のドクロ(あるいは信楽老)の末路に関して「漫画の中には(物語や構成の都合上)入らなかった」として、改めてあとがきで(明日香のセリフとして)こんな言葉を遺している。
あそこには、誰もいないのに───
人として誰よりも優れ上を目指す。
そのために、あらゆる犠牲をものともせず、あるいは「そんなものだ」と嘯き、踏みつけることも何とも思わずに進み続ける。あるいは、それが「みんなのため」だと信じて対する者を排除し続ける。
そして望む『上』を得た時、その場所には何もなくなっていた。それは自らが全て壊してしまったから。
人は他の人がいなければ、人たる事はできない。
黄金のドクロも、信楽老も、ある意味では、そんな寓意を背負った存在であったのかもしれない。