概要
近世の武士に苗字帯刀と共に与えられた特権で、相手から「無礼」を受けた時は、その場で斬り捨てても処罰されないとされる、一種の「決闘」の権利である。「無礼討ち」とも呼ばれる。
……と書くととんでもない権利であるが、相手が無礼を働いたことの証明(それも証人付き)は必須とされ、実は正当防衛で斬り殺した場合など以外ではめったに認められないものであったらしい。また、その「無礼」の範囲も「耐え難いもの」である必要があり、ちょっとした軽口程度では、ほぼ認められない。例えば、あるとき町人に金を借りた武士が、借金を返さないものだから、町人がその武士の家の前に「こいつは金を返さない酷いやつだ」と大書した旗を立てた。武士はさすがに辞めてくれと言ったが、裁判では「町人の言い分が正しい」とされた事例が残っており、その程度では無礼でも何でも無かったらしい。
むしろ、武士の名誉を傷つけた者に対して処罰を下すのは武士階級としての一種の義務でもあり、明らかな無礼を受けたにもかかわらず相手を斬らなかったことや、斬り捨てようとして逃げられたことで切腹させられることもあったという。
他にも「一太刀しか浴びせてはならない(とどめを刺そうとしてはいけない)」「認められても自宅謹慎」など縛りは多く、さらに相手の反撃で負傷・死亡でもしようものなら「武士の恥」という扱いになる(当時は脇差であれば町人でも携帯できた)。
このように「切り捨て御免」とは特権と言いつつ実は武士でもそう簡単には使えない、言うなれば慣用句としての「伝家の宝刀」のような権利だったのである。町人の方も、それを承知しているので、「無礼」にならない範囲で武士を挑発するような不届き者もいたようである。