作品解説
chiko氏は元々、第二次世界大戦や第一次世界大戦の偉人や国家擬人化などをモチーフとした、いわゆる劇画調の漫画を数多く投稿していた。
そしてある時、以下のイラストが投稿された。
この時点ではまだ世界観も明確でもなく、よくある架空世界のイラストにとどまっていた。
そして・・・
詳細な世界観の紹介と共に、ナンバリングが振られ、ここから物語が始まる。
あらすじ
物語の舞台は我々のそれとは異なる歴史をたどった地球。
1944年、ロシア帝国軍を主軸とした国連軍が大規模な北米大陸侵攻作戦を開始。
数多くの思いを乗せて兵士たちが北米へと舞い降りる中、戦場に凛と響く声。
人類史上未曾有の惨劇の始まりは、5年前のあの日まで遡る。
これは一人の皇女の成長と、世界中が動乱へと蠢いた大戦の記録である。
登場人物
主要登場人物
エカチェリーナ三世(物語当時は皇女)
物語の主人公格の一人。この世界では存続どころか大帝国の主となったロシア皇室のアレクセイ皇太子の第一子。
彼女を中心としたロシア帝国を視点に物語は進んでいく。
性格は、乱暴に言えば世が世なら俺達と仲良くなれそうな重度のオタク。
戦車があれば飛んでいき、ロケットがあれば(援助に)お小遣いの殆どをつぎ込み、戦艦を見れば友人に早口で熱く語り始める、まさに筋金入り。
友達付き合いも物語が始まるまでは殆どなく、周囲からの評価もそれ以上ではなかった。
だが、歴史は否応にも彼女すら変えていく・・・
ミロシュ
アレクセイ皇太子付の近衛兵(イェニチェリ)の一人。
側近の一人でもあり、エカチェリーナが市街に出る時などは必ず護衛についている。
近衛兵らしからぬ軽薄さも見せるが、親しみやすい人物。
かの有名なアナスタシア皇女に対し、若年兵の時に浅からぬ思いを抱いていたようだが、現在は複雑な心境の模様。
アナスタシア
あの有名なアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァその人。
この世界ではロシア帝国は露土戦争(クリミア戦争ではなく、それ以前のギリシア半島をめぐる戦争)の大勝利を皮切りに大きく変質しており、彼女を含めたロマロフ王朝は健在。
史実のいたずら好きという性格の影響か、成熟した今も活発に活動し、積極的に庶民とも交流を図る聡明さも見せる。
ミロシュとはいろいろあって複雑な心境もあるが、その人柄を信頼しているのか特に避けるわけでもなく、一緒にエカチェリーナを見守っている。
アレクセイ
現ロシア帝国の皇太子でエカチェリーナの父。
皇太子妃は既に早逝しており、独り身を続けている。
現帝唯一の息子であり、帝国の正当な後継者だが、劇中初登場はエカチェリーナと親子ともども式典に寝坊するという醜態をさらしており、現皇帝で父であるニコライ二世から揃って叱責されている。
末っ子ゆえニコライ三姉妹には頭が上がらず、彼女らがそろっている場合は理由をつけて退散するなど、大国の後継者という割にはあまりぱっとしない描写が続いている。
ニコライ二世
現ロシア帝国の皇帝。現実世界における日露戦争、及びソビエト革命の当事者だが、この世界では黒海以南への拡大と改革が早々に成功しているからか、立憲君主として穏当な姿勢で政務に努めている。
在命であるものの、流石に高齢となっており、次世代に第二次世界大戦前夜の重苦しい雰囲気を残したままになっていることを苦々しく思っている。
シャルル・ジャベール
この世界におけるナチスとでもいうべきキリスト社会党の指導者で、地中海連邦第二代総統。
かつてはフランス外務大臣。第一次世界大戦を引き起こした元凶(ロシア皇太子暗殺事件)とされた上に敗戦したフランスを、”一つの領土も失わずに賠償金と議会解散のみ”という破格の条件で講和に持ち込むという辣腕を見せた。歳を経た今でも変わらない聡明ぶりを見せる英傑。
キリスト社会党は中世に戻ったかのような宗教的優越思想が混ざった進化論を根幹とし、大衆もそれを熱狂的に支持しているが、彼自身は『理に基づかない人種差別』や『中身がないカリスマに盲従』する”大衆”を毛嫌いし、自らが率いるキリスト社会党や連邦の熱狂にも冷めた視線を向けている。
その他の人物
異なる世界線とはいえ、我々の世界に実在した歴史上の人物が多数登場する。
ただし、全く異なる性格になっていたり、想像もつかないような登場をしている。
ロマノフ王朝の人たち
ほぼ全員が生存。ただし、ニコライ二世の弟で第一帝位継承者であったミハイルは、現実のオーストリア皇太子の代わりという形になるが、第一次世界大戦の引き金となる暗殺事件に遭遇して亡くなっている。
プロイセン王国の人たち
かの有名なパイパーやマンシュタインに該当する人物が登場するが、今作におけるドイツの境遇を反映してが、そこまでの強国ではなく、さらにハインツ・グデーリアンが軍から追い出されて、傍から見れば迷惑なイエロージャーナリズム活動をしている有様である。
アメリカの人たち
リチャードソン大統領やオマー・ブラッドレーなる人物が登場している。ブラッドレーは北軍(旧合衆国)に属していたこともあって冷遇・・・が生易しいほどの扱いをされている。
曰く『大統領は北軍が(無駄死にで)消滅することを願っている』と。
労働者連合(ブリテン島)の人たち
大英帝国を打ち倒し、労働者の楽園を作ろうとした人たち。
国家の首班となった彼らは質素に生活をしているが、そのような生活水準が『上等』と言えるレベルに社会全体は貧困に苦しんでいる。しかも、先の革命とグラスゴー虐殺事件が大きく尾を引いて相互不信も強く、テロリズムを推進する共産党が堂々と蔓延るなど、他国と比べても末期感が強い。
ジョン・スティール
労働総括委員会代表。
名目上は労働者たちの集合体、という体制の労働者連合における政府機構を代替する労働組合。それらの代表たちを統括する委員会の代表なので、対外的な国家元首・・・という複雑なお立場の方。元設計士だが、ロシア諜報員の協力で革命を成功させた人物。
上記の通り、絶大な権限がありながらも徹底的に清貧に徹しており、能力はさておき人柄は良識ある人。
・・・だが、市中の民衆や統括委員会の仲間からは文句を度々言われる、死んだ(とされる)友人の未亡人からはグラスゴーで家族を皆殺しにされた恨み節を言われて苦悶の表情を浮かべる、その友人は生きていて地中海連邦の対ロシア包囲網の陰謀に加担して労働者連合の解体を望んでいる、などかなり不憫な描写が目立っている。
大英帝国(カナダ)の人たち
ブリテン島を追い出された人、カナダに移民していた人、さらにアジア系の移民、それに加えて労働者階級と資本者階級の確執など、ありとあらゆる差別と憎悪の坩堝となっている。
なお、現在の所、現実世界とリンクした人物はそこまで描写されていない。
ジョン・チャーチル大佐
名前と言動より、おそらく現実世界のジャック・チャーチルその人。
英王立サツマ・ライフル連隊の指揮官で、サクラジマを眺めながら出征している描写がなされているが、現実と変わらず、第二次世界大戦がはじまったことで非常に嬉しそうである。
劇中の表現より、サツマ連隊は恐らく薩摩出身者で構成された部隊と思われるが、グルカ旅団のように出身者で構成されているだけなのか、英印軍のように植民地化された土地で編成された部隊なのかは不明。(というより、劇中では日本がどのような状況かは全く明かされていない)
中東の人たち
旧オスマントルコの皇帝と、その亡命先のエジプトの首脳陣が登場。
ムラト6世
現オスマントルコ皇帝(スルタン)。
前帝が崩御したことで戴冠したばかりの12歳の幼君。
思い付きで国政に介入しようとし、我儘で外交を欠席するなど、言動が幼い子供そのもの。
挙句、世界征服のノリでロシア帝国へ戦争をふっかけて世界の支配者になりエカチェリーナ略奪の妄想を抱くなど、地中海連邦の甘言の影響とはいえ、非常に危険な方向に傾いている。
アフマド・アリ・フセイン
オスマン朝エジプト総督。
名目はオスマントルコが任じた総督ではあるが、あくまでエジプトとエジプト人の安全を優先する中立主義者であり、ムラト6世や過激なオスマントルコ主義者が掲げる反ロシア政策には、小国で影響力がなく非現実とみて否定的。
なお、公務以外ではオネエ言葉を多用し、あまりにも国内情勢が混沌としているのでヤケクソ気味に引退願望を口にするほどお疲れの模様。
ケナン・パシャ
エジプトの防衛大臣。
エジプト総督とは異なり、イスタンブール(現ツァーリグラード)の奪還を含めたオスマン帝国復活(東欧を含めた最大領域)を切望する民族主義者。
彼とは公然の不仲であり、他国高官がいる社交場でも遠慮なく衝突している。
秘密裡に地中海連邦高官と接触しており、彼らの思想は嫌悪しているものの、上記の夢のためにはムラト6世を利用しつつ同盟関係になることすら視野に入れている。
アジアの人たち
大中華帝国の帝室メンバー、とりわけ第三皇女・劉杏が中心的な登場人物。
この世界のアジアには、漢民族中心の大中華帝国、清の後継国家である満州国が中国大陸に並存しており、緊張関係にある。
劉杏
現皇帝の第三皇女。皇族としての自意識が非常に強く、周囲に対しても名高き帝室の一員としての姿勢を崩さず、差別と偏見に抗い、ノブレスオブリュージュを体現して高潔に振る舞う才女。
ただ皇族としての意識が強すぎ、故に周囲に徹底した壁を作ってしまい、エカチェリーナに合うまでは友人を全く作ろうとしなかった孤独な生き方をしていた。
彼女もまたエカチェリーナと同じく戦争の悲劇に振り回され、大きくその運命を変えていく。
ちなみに、日本と縁のある登場人物は殆ど登場していない。作中で「カゴシマ」という地名が出たことはあるが、日本が史実のような近代国家なのか、それとも別の政体の国家となっているのか、はたまた他国の領土となっているかは全く不明。
判明しているのは「戦車を含む機甲部隊を編制可能な組織がある(元英国の労働者連合は軍民共用のトラクター程度なのでそれより遥かにマシ)」「カナダの英連邦とは今も繋がりがある」程度。
世界観
ロシア帝国が存続しているのを皮切りに、ドイツが未だ領邦分裂状態であるなど、大きく異なった世界情勢となっている。
登場国家紹介
ロシア帝国
現在判明している限りでは、1836年の戦争においてオスマン帝国に歴史的な大勝利。
結果、東方正教会の聖地であるコンスタンティノープルを獲得し、以後、自由主義革命などを経験するものの、巧みに立ち回ることで立憲君主制国家ロシア連合帝国として再誕。
かつての大英帝国を上回り、第一次世界大戦を勝利して唯一の超大国として君臨していた。
しかし物語が始まる1939年では、第一次世界大戦の後遺症とやはりこの世界でも起こった世界恐慌の影響でほころびが見られ始めている。
地中海連邦
この世界の第二次世界大戦における枢軸国に相当する国家。
ただし、この世界ではファシズムともいうべき思想は生まれておらず(ただし、ファッショを利用したために蔑称としてファシストは存在する)、スペインで生まれた宗教的・社会主義的・民族優越思想でもある『新テイヤール主義』(この思想はオリジナルだが、テイヤール主義と根幹となるオメガポイントは現実に存在する理論)を信奉し、それに共感した国家や民族が連邦国家を成している。
その規模はスペイン・北イタリア・フランスはおろか、その社会主義的思想に共感した南アメリカも連邦入りするなど、史実の枢軸よりも遥かに巨大となっている。
ジャベール総統を筆頭に各地域から逸材が集まり、”ジャベール・ギャング”なる綽名で呼ばれる、強い信頼関係で結ばれた上層部が国家を運営している。
なお、地中海連邦が信奉する『新テイヤール主義』に反発する愛国者もおり、彼らの中にはあの大佐もいる。
ドイツ領邦諸国
この世界ではドイツを徹底的に干渉地帯として扱おうとする列強が統一に反対しており、強大化したロシアとフランスの圧力で統一を呼びかけたベルリン会議が頓挫。
結果、プロイセンが共和国化するなど、史実とは大幅に異なる経緯をたどる。
おまけに、プロイセンを中心とした同盟が第一次世界大戦を引き起こし、領邦同士で砲火を交えたこともあり、物語開始当初は『ドイツ統一はありえない』という慣用句が成立するほど、相互不信に満ちた分裂状態に陥っている。
領邦として最有力なのはプロイセン共和国の他、地中海連邦と国境を接しているザクセン王国(なお、統一が不可能と言われている最大の理由が、この2国が心底憎みあっていることにある)。
労働者連合(旧大英帝国)
見慣れない名前と思って当然。
なんと第一次世界大戦末期にロシア側が行った海上封鎖をきっかけに英国にて社会主義革命が勃発。
そのまま政府と王室を追い出し、サンディカリズム社会主義国がブリテン島に誕生した。
・・・が、当然というべきか、この混乱で資本家なども全て追い出し、革命直後の飢饉とアイルランド独立をきっかけとしたスコットランドでの虐殺など、もはや目も当てられないほどの惨事を繰り返した結果、バターすら殆ど流通しないほど国家が疲弊。かつて栄華を誇った大英帝国は見る影もない。
大英帝国(現カナダ)
社会主義者によってブリテンを追い出された政府・資本家層がカナダに落ち延びて成立した国。イギリス連邦の一つでもあるため、カナダではなく大英帝国の後継国として扱われている。
社会主義者に追われたせいか、市井では鬱屈した雰囲気が漂っており、人種差別もかなり蔓延っている。
第一次世界大戦でロイヤルネイビーは壊滅したものの、連合国もといアメリカ合衆国の大艦隊が警戒するほどの戦力は維持している。
アメリカ合衆国
この世界ではなんと”南北戦争が引き分け”で終わり、辛うじて生き延びた南軍もといアメリカ連合国は凄まじい軍事偏重で弩級戦艦を何隻も要する軍事大国として爆誕している。(南北戦争当時、ロシアが南軍を支援していたと暗喩されている)
しかも物語の開始4年前となる1936年(つまり現実世界でラインラント進駐など、大戦へと走り始めた年)、連邦法改正に端を発した北軍たる合衆国の内戦勃発を見計らってワシントンへ進軍、統一を達成している。
劇中では全体的に衝動的な言動をする人物が多い。
オスマントルコ(正確にはエジプト総督領)
1836年の露土戦争にて大敗し、コンスタンティノープルを失陥した際、オスマントルコは皇帝を追放して共和国となり、後にロシア連合帝国に加盟。オスマントルコ皇帝はエジプト総督領に落ち延びた。
そうした経緯から、即位したばかりの皇帝を含めてロシアに敵愾心を持つ者が多いが、国力比は雲泥の差であり、皇帝も総督に助けられたという借りがあるために目立った動きはできていない。
なお、現皇帝は12歳のムラト6世。あまりにも幼く、国際情勢も自身がおかれた境遇を殆ど理解していない。家庭教師として送り込まれた地中海連邦のスパイの甘言に乗せられ、戦争を起こして世界の支配者になり、エカチェリーナを手に入れる願望を抱くなど、言動も思考も子供そのもの。
大中華帝国
1889年、漢民族の反乱によって清王朝が倒れ、反乱指導者の劉虎が初代皇帝として即位し成立。
史実の中国とは異なり、列強諸国の侵略に脅かされずに独立を保っている。一方で、清王朝の残存勢力が満州国を建国しており、中華全域の統一はなされていない。
帝国を統べる今上の皇帝は自身の皇子を地中海連邦に、皇女をカナダに留学させ(後にロシアへ移動)、緊張高まるヨーロッパ情勢に介入しようと試みている。
用語解説
『新テイヤール主義』
詳細は劇中にて。
元ネタは実在したピエール・テイヤール・ド・シャルダンが提唱したテイヤール主義で、劇中でも触れられている。
第二代総統のジャベールによって理論がさらに改良されたらしく、急激な連邦拡大の一助となっている模様。
連合帝国
ロシアの通称。正式名が『三月七日憲法を共有する諸国の連合帝国』とある通り、自由主義革命時に要求を受け入れて立憲君主制へと移行し、リトアニアやトルコといった様々な地域や国家が連合体になったことから。
そのため、かつての皇帝と比べて権限は小さく、外交権などは帝国中央政府が担っている。
関連イラスト
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