概要
「影さえも美しい」「再現不可能」とされる絶世の美貌を持つ青年。
『彼の姿を見たものは心そのものが無くなってしまう』ともされている (これはせつら自身を見ただけではなく、彼を投影した写真を見たり声を聞いたりしただけでも影響が及ぶ)。
季節と天候に関わらず常に黒いコートを着用しており (ただし初期作品は例外) 、「黒い美影身」「漆黒の天使」とも表現される。
西新宿の老舗煎餅屋「秋せんべい店」の三代目で、副業に人捜し業「秋ディスカバー・マン(DSM)センター」を営んでいる。せんべいの評価は人によってさまざまだが、「美青年店主」を売りにしている事もあり、年商は約3,000万円。ただし、本人が登場すると主に容姿のせいで色々な訴訟が起こってしまう為、基本的に店はアルバイトに任せっきりである。人捜しの腕前に関しては新宿一と誰もが認める。
しかし本人は (少なくとも「僕」の方は) 、せんべい屋の経営に専念して人捜しを廃業したいと思う事もあるらしい。
酒やアルコール類が全くのダメで、コーヒーも苦いものは飲めず、クリームソーダや前茶を好んで飲む。初期作品では喫煙の描写が度々見られたが、ある作品で「タバコは嫌い」と語っている。
メフィスト病院ではあらゆる特権を持っているが、院長であるメフィストとは『奇縁』とも言える微妙な間柄である。せつらは度々彼の事を「藪医者」と罵っているが、これもその特権と縁ゆえである。彼には「依頼」により協力してもらう事もあるが、時には(直接ではないが)敵対する事もある。
彼の出生と一族の秘密の一端は「魔王伝」で明かされている。
姉妹小説の「魔界都市ノワール」シリーズには、同じく〈新宿〉で花屋を営む秋ふゆはるという従兄弟 (イラスト右側にいる白仮面の人物) が出てくるが、仲が良いという訳ではなくむしろ敵対している様子。
使用武器
細さ1,000分の1ミクロン(ある強敵への対策で更に細く削った事もある)のチタン合金製の糸で通称、妖糸(ようし)。人物や物をやすやすと切断、拘束し、単に動作だけでなく身体機能をも操る事が可能で、周囲の状況を感知する、空間に干渉するなど、その使用法は多岐に渡る。この能力故か絶大な戦闘力を有し、メフィストと並んで「新宿で最も敵に回してはいけない人物」として知られる。
二重人格
彼が恐れられているもう一つのいわれが、穏和と冷酷な二つの人格を併せ持っている事であり、それぞれの一人称は「僕」と「私」(何故この様な人格になったのかは不明だが、せつらの学生時代を描いた「青春鬼」シリーズでは既に形成されていた模様)
ここでは人格ごとに紹介する。
「僕」
せつらの主人格。春にたとえられることが多い、ぼんやりとした印象の掴み所のない性格。容姿のことがなければ出会う相手の眉をひそめかねないものぐささ。
口癖は「はぁ」。「面倒くさい」。「嫌だなぁ」と言ったやる気のないもの。茶目っ気もあり、皮肉を呟く事もある。
目的さえ達成できれば、あるいは上記のものぐさな面からそれに伴う被害や、捜索対象の非人道的な行為も黙認しており、人捜しで依頼人に会わせられれば依頼人が捜索対象を殺そうと、あるいは逆に依頼人が殺されようと意に介さない。
「私」
非道な敵を前に現れる事が多く、その戦闘力は「僕」をも上回る。
また、その圧倒的な戦闘力ゆえ、純粋に強大な敵(主人格では撃破が難しい相手)を前に現れる例もある。基本的に外道相手には極限の苦痛を与えた上で惨殺するが、罪無き者への慈悲は全く失っておらず、無言の気遣いなどを見せるシーンはむしろ主人格より多い。
メフィストが懸想しているのもこちらの人格で、事ある毎にかなり露骨な色目を使ってくる。だが、当人は全く意に介さず、むしろ鬱陶しがっている。
三番目の人格
詳細不明。前述の「僕」「私」の戦闘能力をはるかに超える力を持つらしいが、存在そのものが危険。メフィストも一切の手出しが出来ない程らしい。
「糸使い」の元祖
いまでこそメジャーである「極細の切断糸を自在に操って戦うキャラ」というスタイルを世に生み出したのは、この「秋せつら」である。
原作がインターネット全盛時代以前に流行ったキャラであるため、ネット上の知名度が決して高いとは言えないが、たとえばネット上で「糸使い」といえば真っ先に名前が上がる一人、『HELLSING』のウォルターなどは秋せつらをモデルとしていることが明言されており、若年時の姿などもオマージュとなっている。
また、ネット上では時折
「糸使いの元祖は、秋せつらの更にモデルである「甲賀忍法帖」の「夜叉丸」である」
という言説が見かけられるが、これは原作小説をきちんと読んでいないことによる誤解である。
秋せつらの「糸」のアイディア元のひとつが夜叉丸の黒縄である、というのは作者が明言している事実だが、実は山田風太郎が書いた原作「甲賀忍法帖」においては「黒縄」は名前の通りの「縄」であり、運用方法もいわゆる「鞭使い」のそれに等しい。
従って黒縄はあくまでアイディア元に過ぎず、世の中に広まっている「両手の指で無数の糸を操り、手足の如く扱って戦う」というスタイルの元祖は「秋せつら」で正しい。
余談として、甲賀忍法帖のコミカライズ「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」における夜叉丸は上記のような「糸使い」として描かれているが、これは「秋せつら」によって広まった糸使いのパブリックイメージを、逆輸入した形となっている。
より詳細な元ネタ解説
秋せつらの使う極細の切断糸「妖糸」は、上記の通り山田風太郎の小説に登場する忍者の技を主なアイディア元としている。
明言されているのは甲賀忍法帖の「黒縄」と「風来忍法帖」の「風閂」であるが、原作小説ではそれぞれ以下のような武器である。
- 黒縄:女の黒髪を編んで特性の獣油を塗り込んだ武器。角度によっては見えなくなるほど細い。イメージとしては「切断能力のある長鞭」であり、戦闘時の描写も鞭のそれに準じる。
- 風閂:女の髪を加工した武器。黒縄よりもさらに細く、基本的に目に見えないが、人体を豆腐のように両断できる恐るべき切れ味を誇り、「糸で万物を切断する」イメージの原典はこちら。ただし、基本的には何かの間に張り渡して使用する、設置型トラップの性格が強い。
つまり、遠くから巻きつけて絞めるも切るも自在の「黒縄」と、まったく目に見えない細さにもかかわらず物体をたやすく切断する「風閂」のイメージを掛け合わせ、更に「両手の指から無数に繰り出し、精妙に操作する」というイメージを追加して作り上げられた武器が秋せつらの「妖糸」であると言える。