あらすじ
商人の家に奉公に出ていた亀吉が藪入りで3年ぶりに実家に帰ってくるということで、父親は楽しみで仕方なく、亀吉の帰宅の前日から「亀吉にあれを食べさせてやりたい」「あそこに連れて行ってやりたい」と言い通しで、奥さんに窘められていた。
当日、亀吉が帰ってきた。亀吉が丁寧な言葉遣いや態度で挨拶をしたので、両親は感涙にむせぶ。父親は亀吉に入浴道具を持たせ、朝湯でゆったりするよう勧めた。母親は湯屋に出かけた亀吉の荷物をふと見て、財布に高額の紙幣が3枚も入っているのに気付く。奉公先からもらった給金にしては高額なので、「もしや悪事に手を染めたのでは?」という疑惑が両親に生じた。
亀吉が朝湯から帰ってくるやいなや、父親は「誰が他人様のものを盗めと教えた!」と怒鳴りつけた。亀吉は頭にきて「人の財布を勝手に見るなんて。此れだから貧乏人は嫌だ」と反駁し、激高した父親に殴り飛ばされた。母親は父親をいったん制止し「それじゃあ、このお金はどうしたのさ?」と亀吉に問いただした。
亀吉は「去年ペストがはやった時に、店で捕まえたネズミを警察に持って行って、そのとき参加した懸賞が当たって賞金をもらえたんだ。それを店のご主人に預けていたものだから、今日の藪入りのために返してもらってきたところなんだよ」と説明した。
両親は亀吉が犯罪を犯したのではないということで安心とし、疑ってしまったことを詫びるとともに亀吉の行動をほめた。父親は「これからもお店のご主人を大事にするんだぞ。これも忠(チュー)のおかげだからな」と励ます、というオチが付く。
作品の背景
この話が作られたのは明治期のことだが、当時は公衆衛生の概念が浸透しておらず、ネズミを介したペストの感染例がまま見られた。そうした中で、ペストの感染源のネズミを交番に持って行くとお小遣いがもらえ、更に運が良ければ懸賞金が出ることもあったという。
また、小学校卒業後の子供が奉公に出されるというのは明治時代にはよくありふれたことで、「里心が出て仕事ができなくなってはいけない」ということで、奉公に出てから3年は実家に帰ることが許されなかったのである。