概要
黒博物館シリーズ第二弾。
ロンドンのドルリー・レーン王立劇場に出るといわれた幽霊「灰色の服の男」と、歴史上の偉人を絡めたダークファンタジー作品である。
『黒博物館スプリンガルド』同様にロンドン警視庁の犯罪資料館「黒博物館」の学芸員と幽霊「灰色の服の男」との回想という形で物語が展開される。
ストーリー
ロンドン警視庁の「黒博物館」に展示された「かち合い弾」と呼ばれる謎の銃弾。
ある日、銃弾同士が正面からぶつかり合って潰れている不思議なその弾を見せて欲しいという老人が訪れた。
学芸員が老人を「かち合い弾」まで案内すると、彼はこの弾の由来を話すという。
すると突然彼の身体から一体の幽霊が現れた。彼は自分を「灰色の服の男」だというのだ。
生前決闘代理人だったという彼が言うには、人々は知らず知らず互いに「生霊」を飛ばし合い相手の心を折ろうと争っているのだと。
劇場は観客が劇に熱中している間「生霊」を飛ばさない静かな場所だから好きなのだという。
そんな彼の元に一人の若い女性が訪れて、自分を取り殺して欲しいと依頼してきたのだ。
彼女の名前は「フローレンス・ナイチンゲール」。
後に近代看護教育の基礎を作り上げた偉大な看護師である。
運命の出会いを果たした二人。
「灰色の服の男」と「ランプの淑女」の不思議な冒険が始まる。
登場人物
グレイ
[演:萩原隆匡、金本泰潤]
ドルーリー・レーン王立劇場に住み着く幽霊。<灰色の服の男>と呼ばれており、彼が客席に現れる公演は大成功するというジンクスがある。
巻き毛のウィッグにコートとハット、手袋と乗馬ブーツに身を包んだ、胴体だけがぽっかりと抜けている細面の男。何十年も数々のオペラを観続けたため、その場その場でシェイクスピアの作品群から台詞の引用をそらんじて見せる。
生前は名うての決闘代理人であり、日常的に命のやりとりにその身をさらしていたためか達観した人生観の持ち主である。よく言えば冷静沈着、悪く言えば冷めきった人物。
ある日出会った病める少女フローレンス・ナイチンゲールに興味を抱き、彼女に取り憑いたことで本人も予想だにしない数奇な物語に足を踏み入れることになる。
本作の狂言回しである。
フローレンス・ナイチンゲール
[演:谷原志音、真瀬はるか]
本作の真の主人公。閉塞しきった自分の人生に絶望していた折りにグレイの噂を聞きつけ、自身を取り殺すよう願い出た。しかし彼女の願いは退屈を持て余していたグレイの興味を引き、”自身が最も絶望した瞬間に取り殺す”という契約の元で取り憑かれることとなった。
奇しくもグレイという頼もしい幽霊に取り憑かれたことで持ち前の才覚と行動力を存分に発揮するようになり、世界史にも残る偉業をなしてゆくことになった。
剛胆で決断力に富んだ女傑であるが、年相応の弱さと狂気に片足を突っ込んだかのような危うさを秘めている。
彼女を傷病者のためにその身を粉にして働き続けた白衣の天使ととるか、強迫観念の赴くままに突き進む狂人ととるかは読者の手に委ねられている。
その他の主要人物
ジョン・ホール
[演:瀧山久志、野中万寿夫]
軍医長官であり全陸軍野戦病院責任者の男性
フローと同じく元決闘士である亡霊のデオンを従えている。
軍医の立場でありながら戦場で負傷した兵士や劣悪な環境を改善せず隠蔽するなど、患者の命を軽んじ自身の出世が優先第一な利己主義で冷酷非道な性格の持ち主で本作の悪役。。フローが現れたことにより自身の地位を脅かされたことでフローを激しく逆恨みし、仕えているデオンにフローの抹殺を依頼する。
シュヴァリエ・デオン
[演:岡村美南、宮田愛]
ジョン・ホールに使える眉目秀麗な女性の幽霊。
彼から護衛役として置かれており、生前はヨーロッパで活躍していた元凄腕の決闘士であった。
騎士としての名誉ある最期を飾るためにジョンから命令されフローを狙う。
ボブ
[演:平田了祐、菱山亮祐]
劣悪な環境で餓死寸前だった所フローに助けられ命の恩人としてフローを慕う少年兵。
明るく勝気な性格であるが頭の回転が速く、何かと気が利く。その一方で霊が見えるため、グレイに対してやや警戒心を抱いている。
ミュージカル
2024年に劇団四季にてミュージカルとして上演開始。本作がオペラを下敷きにしているが故の妙であろう。
ミュージカル演目の表記は『ゴースト&レディ』