千匹皮
せんびきがわまたはせんひきのかわ
本作は近親相姦がモチーフに使われている。
昔ある所に、大層美しい妃を持った国王がいた。ところが妃はある時病に倒れてしまい、夫に「自分と同じ位か、それ以上に美しい方でなければ再婚しないで下さい」と遺言を残し息を引き取った。
王はその言葉に従い長い事再婚しなかったのだが、数年後。妃の忘れ形見である王女が母に似て美しい事に気付き、あろう事か自分の娘との結婚を決意してしまう。王女はそれを阻止するべく父王に嫁入り道具として『月のように輝く銀のドレス』、『星のように煌めく白金(プラチナ)のドレス』、『太陽のように光る黄金のドレス』、そして『国中に住まう千匹の動物の毛皮で出来たコート』という難題の品を所望する。ところが国王はそれらを全て数日のうちに仕立て上げ、「婚礼は明日行う」と宣言する。王女は万策尽きた事を悟り、3着のドレスと母の形見の金の指輪と少量の香辛料を持ち、千匹のコートをまとって王宮から逃げ出す。
こうして長らくの間旅をしていた王女は、ある森の中で休んでいた所を獣と間違われて猟師に見つかり、とっさに「千匹皮」と名乗る。千匹皮は森の領主である王子の城へ連れて行かれ、下働きとして料理番に雇われる事となった。
ある日城で晩餐会が開かれる事になり、千匹皮は会場を見に行きたいと料理番に断りを入れ、身体の煤を落として持ってきた月のドレスに着替え王子の元にやって来る。王子は突然現れた美しい娘に心奪われるが、娘は王子とダンスを踊ると何処かへ消えてしまう。消えた娘はドレスを着替えて再び千匹皮になり、王子に香辛料を使ったケーキを振る舞った。王子は娘が忘れられず夢うつつのままだったが、食べたケーキがとても美味しかったので千匹皮に礼を述べた。
次の日の晩餐会も、千匹皮は料理番に断りを入れて煤を落とし、星のドレスを着て王子とダンスを踊るとまた何処かへ消えてしまう。そして千匹皮に戻ると、今度は香辛料のケーキの中に形見の指輪を混ぜて出した。王子は出てきた指輪に驚いたが、あの娘が置いていったものだと思い、大事に取っておく事にする。
また次の日、千匹皮は太陽のドレスを着て王子とダンスを踊るのだが、王子がいつもより長く踊ったために戻る時間がなくなってしまい、仕方なくドレスの上から千匹のコートをまとってケーキを作る。しかしケーキを運んだ際コートからはみ出したドレスに気付いた王子が声をかけ、それでもなおはぐらかす千匹皮の指に例の指輪をはめるとピッタリと一致した。
こうして千匹皮もとい王女は自分の出自を明かし、王子は王女を妃に迎えた。
なお、原作では他国の王子ではなく、父王とそのまま結婚する。
ペロー童話では、王女が結婚の条件として突き付ける難題に、王国の至宝であり財源でもある「黄金の糞をするロバ」の皮で作ったコートを要求する「ロバの皮」版も存在する。
また王女が指輪を混ぜるケーキがスープになるバージョンもある。