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『恐怖のコタツ地獄』
SFはネコです。 (あらすじ) 「是那」はホラーミステリーアトラクションを専門としてポイントを稼ぐ、その筋ではホワイトディテクティブとして知られるネコである。ネコ達は「お世話係」と呼ばれる人間によって衣食住全般を世話され、食料と引き換えられるポイントを稼ぐために用意された各種アトラクションに足繁く通っている。 今回是那は和風ホラーミステリー『恐怖のコタツ地獄』に挑んでいたが、謎を解明するアイテムの一つ「日記帳」を開いて予期せぬ記述に出食わした。 自分達に熱心に奉仕する「お世話係」の狂気とも呼べる愛情で全編埋め尽くされているはずが、１ページのみ筆者が正気に戻って「なぜ自分達はネコのことばかり考えているのだろう」と疑問を呈す。 これは裏切りだ。ネコはお世話係が無償の愛を捧げてくれるからこそ今の生活を続けていけるのに、こんな本音を知らされては信用できないじゃないか。 もちろんこの記述はイレギュラーなもので、直ちにアトラクション運営が放送で是那にその場を動かないよう警告するが、ミステリー定石では真実に目覚めた者はシステムに排除されるに決まっている。 是那は危険を覚えて脱出を敢行。アトラクションの隠し通路に不正に侵入してお世話係の裏を掻く。監視室では彼らが日記の不正を何者か外部侵入者の破壊工作と疑い捜査するのを盗み聞いた。 アトラクションが収められている専用棟の資材搬入口から外の街に脱出した是那は、しかし自分の家に戻るわけにもいかない。街頭情報端末を使用して街の外への脱出を模索するも、お世話係が彼女の行方を探っていた。ポイントを登録する電子端末が首輪に仕込まれており、街の設備を使う度に居所を知らせる。アルミ箔を巻く事で電波を遮断。 たまたま道を歩いていた男の子ネコに頼んで電動スクーターを借りて都市物流センターへ行く。ここには大型自動運転トラックが街の外から高速道路を通って物資を届けている。トラックの屋根に乗って他所に行こうという算段だ。日頃は運動系アトラクションを嗜まない是那だが、ネコ科のチカラで施設の妨害策をクリアして最終ゲートの上から飛び乗った。 高速道路を進むトラックの上で是那は初めて西日に光る海を見る。アトラクションではないリアルな冒険に興奮を隠せないがお腹が空いてきた。物資輸送は完全無人施設で行われるので、そこに降りたらお世話係も居なくて食べ物も無い。慎重に降りる場所を定めねばならない。 トラックは高速道路を離れて海辺の小さな町に停まって荷物を下ろしている。ここにはお世話係が多数住んでいそうなので飛び降りた。 街とはまったく異なる古びた生活感の漂う町。探索をしている内に、街では絶対に見ない年老いたお世話係を発見。その人は足元に絡みつく小動物に餌をやっていた。見たことのない四足歩行の獣の顔は自分達と同じ。これは知性を持たない原始的な猫ではないか。 驚いて逃げ出す是那は小学生の一団に捕まって可愛がられそうになり、必死で逃げ延びる。街のお世話係はネコに対してカカシのようなそっけない態度しか取らないが、それが自分達にストレスを与えない正解だと知る。 是那は町に設置されてある「ネコ科飼育舎」に迷い込む。ライオンやトラ、ヒョウが檻の中で飼われているがもちろん言葉など話さない。だが一人話しかけてくる者が居る。 彼はすでに３０才の齢を重ねるネコ知性化実験の失敗者だ。考えるばかりで行動を起こさず、それでいて獣性を保ったままの危険な生物。だが知性が定着せずただの猫になったと見せかけて人間を騙し、この飼育舎で悠々と暮らしている。 是那は彼が失敗策なら自分は何を与えられたのかを尋ねる。彼曰く「軽佻浮薄に与えられるままの娯楽を消費するニンゲンの代替物」 人間社会が円滑に希望を持って継続再生産していける未来を、知性化ネコに全力で奉仕する事で実現したと説明してくれた。 彼、マヌルは久しぶりに檻の外を見たくなったと是那に頼んで錠を外してもらう。だがその礼として野生の洗礼、鋭い爪の一撃を与えた。ネコがネコ同士正常に喧嘩をして慣れていれば避けられた攻撃だ。まったくに無警戒なほど外に暮らすネコは人間に飼い馴らされている。 大型獣の吠え声に目を覚まして起き上がる是那。必死に飼育舎を離脱する。海辺の町はどんよりと暗い雲に覆われ今にも雨が落ちてきそう。誰一人表には居ない。是那もどこか家に入ってご飯を食べないと、と思うがもう歩けない。雨はほんとに嫌だけど、でも全部が嫌いなわけではない。にわか雨に降られた時小柄なお世話係の女性の傘の下に入れてもらい、楽しくおしゃべりしたのを思い出す。 ああ自分はお世話係嫌いじゃなかったな、と最期に想いながら冷たい雨の下絶命する。 ここまで映画でFINE 上映が終わって観客のネコ達が無作法に立ち上がり、口々に感想を言い合った。やりたい放題に散らかした観客席のゴミを中年男性のお世話係が黙々と片付けていく。9,947文字pixiv小説作品
