1983年に宮崎駿が徳間書店のアニメージュ文庫から出した作品で、チベットに伝わる民話を元にしている。
初版発行当時、宮崎は『カリオストロの城』で興行的な失敗をして以来「企画が馬糞臭い」と言われ、「となりのトトロ(ただ、「娘が一人だけ」「お父さんが考古学者ではなく小説家」等設定が若干違う)」や、「天空魔城」などが却下されていた。そのためアニメ化の企画を「いっそ中国で」と思ったものの、日本の出版社で通してくれることになったので、こういう形での発表になったらしい。なおこのころから、「漫画とアニメは文法が違う」のでアニメーターの方は漫画が描けないという経験則がアニメ関係の人の中に浸透し始め、アニメに行く人は、あまり漫画描かなくなったの。だから貞本義行とか安彦良和とかは特殊部隊なの。そうすると普通は、こういうの描いてるとつぶれる筈なのだが、そういうわけで宮崎駿アニメ作品が、この作品以降ばこばこ出ている。この辺はすごいことなんだよ。
原典は「主人公はリア充」「出発時は合計100人パーティ」「さすがに弓矢で武装」「途中でお金持ちの三人姉妹の末娘と仲良くなる」「最後は国へ帰ってめでたしめでたし」という者であるが、「独身の王子」が一人で(タブーらしい)ヤックルへ鞍を置き出発し、多分姉妹を救って、西の土地へ赴き、途中で別れ、落ち合う北の国で一応遭遇するが、という者へ改変されている。
こういうスタンスでね 自称パクリとか原作レイプとか言ってくれないと。
ただ、「オオムギを取りに行く(原典では蛇王が持って厳重に管理)」目的や、「途中でヒントをくれる老人(原典ではアイテムもくれる。「おおっ火ぢゃな 凍えた哀れな老人をあたらせてくれるかな」とか「そうかそうかナンをくれるか 老人に親切なものへは福が舞い込むぞ ヒヒヒ」とかいう俗っぽいじじいではない)」など、一応かろうじて原典に登場するものがなくはない。
作中の世界の設定や登場人物、話の展開、動物などは後の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』などに登場し、『もののけ姫』の原点の一つとなった。
ジブリ映画『ゲド戦記』は原作とは違う原案としてシュナが使われた。
1987年にNHKがラジオドラマとして製作・放送し、シュナの声はアシタカと同じ松田洋治が演じた。
シュナが時代遅れの銃を用いるのに対し、「もののけ~」での主人公は同じヤックルに乗りながら、石の矢じりの矢を用いるという、原典に近い設定になっている。
「ラピュタ」の天空の城のシーンで、一瞬だけ登場する「ミノノハシ」はこちらでは「成獣」が登場する。なお「もののけ姫」の絵コンテには「ミノノハシ」と書かれた生き物が出るが、そのいきものの特徴である「ヨロイのようなしっぽ」が、アニメでは縞々のもふもふである。
宮崎が振り回す中尾佐助の農耕論では、「日本における大麦の相対的利用の量は異常」という問題があり、畑ごと来てないとこういう現象が起こらない筈の割に西の土地から畑が来ていない、という主張がされていたが、中尾らはこの作品の発表辺り(厳密には1970年代後半)から、「ナラ林文化」という、地中海系農耕文化の影響がある、アジアの農耕文化(日本と中国の東北地方)をとなえだしている。ちなみに、シュナは大麦(劇中では「黄金の穀物」)を蒔いて終わりだけど、しかも「ナン」くっとるけど、「もののけ姫」で、野生のレイヨウ(多分)の家畜化をする、麦も育てて炒って食う、というナラ林文化を継承する兄ちゃんの、田舎は、対象化された「照葉樹林文化」が失われる前の形で残っておるのがざっくり描かれ、えー。
物語
深い谷の小さな国の王子・シュナは、ある旅人からどんな土地でも実る黄金の種の話を知り、やせた国を救うためヤックルに乗って、西へ向け旅に出た。