概要
『────真の八咫烏の羽からは 何者も逃れられはしない』
さらば真選組篇後半にて、突然姿を現した謎の男。被り笠と烏の仮面で素顔を隠している。
天照院奈落先代首領にして、天導衆の一角。朧曰く「天の裁き」、信女曰く「国の命さえ攫う本物の死神(からす)」。物静かで丁寧な紳士のような口調で話すが、その本質は無慈悲で残忍極まりなく、目の前の命を奪うことに何の躊躇もない。
その剣技は同じく剣に秀でる沖田や信女ですらほとんど反応出来ない程で、肉弾戦においても戦闘に慣れていない夜兎族の神楽を「子兎」呼ばわりして圧倒する程の実力を誇る。
沖田、神楽、信女といった作中有数の実力者三名をほぼ同時に相手取りながらも、彼らをほとんど寄せ付けずにことごとく返り討ちにしてみせた。
そんな中、直後に乱入してきた銀時だけは、なぜかその剣筋に無意識のうちに反応し、ギリギリの所で渡り合っていた。
アニメ版では原作で数週間に渡って描かれた登場から素顔判明の流れが一話分にまとめられたためか、虹のような残像と共に瞬間移動する、斬撃と共に空気が振動するなど、原作以上のやや大袈裟ともとれる演出でその異端ぶりが示されている。また、初登場シーンではRPGのラスボスを彷彿とさせるような重々しいBGMの中で登場しており、多くの視聴者にその存在感を強く残した。(因みにこの曲名は「剣の記憶」であり、原作において遂に虚の素顔が露わになった回のタイトルでもある)
銀時との斬り合いの中で仮面を叩き割られるが、その素顔は……
以下、銀魂の基幹に関わる重大なネタバレにつき閲覧注意
正体
『君は 私の剣をしっているな
だとしたらそれは恐らく ぬぐい難い 敗北の記憶
君はしっている』
『君の剣は 私には届かない』
CV:山寺宏一
あまりにも残酷な真実。
第544訓(アニメ314話)にてこの台詞と共に露わになった彼の素顔は、亡き吉田松陽と瓜二つ。銀時が虚の剣筋に無意識のうちに反応できていたのも、松陽と幾度となく重ねてきた稽古の「敗北の記憶」があったためである。銀時が一時的に戦意喪失する程の動揺を受けたことは言うまでもない。
その後、神楽の叫びで自我を取り戻した銀時の必殺の一撃を全身に浴びるも…
次の瞬間、傷口が瞬時に再生していく化物の姿がそこにあった。
結局、対抗策も尽きた一行は退却を余儀なくされる。
一体、虚の正体は何者なのか。
その後、第554訓にて信女の口から真実が明らかとなった。
虚とは、アルタナ(地球人からは龍脈と呼ばれる)という巨大なエネルギーにより不死となり、500年にわたり殺戮の日々を生き続けている男。
吉田松陽とは、奈落が天導衆に仕える時代となった徳川の治世、突然謎の失踪を遂げた虚が名前を変え、身分を隠し寺子屋で子供達に手習いを教えていた際の姿であり、血に濡れた500年の中で彼がこぼしたほんの一瞬の微笑みであった。
松陽の処刑後、奈落たちがその遺体を火葬していた最中に炎の中から蘇る。
奈落はその体を調べ上げようと試みたが、いつの間にか彼は天導衆の一角にまで上り詰めていた。
なぜ突然失踪し、身分を隠してまでして子供達に手習いを教えていたのか、その詳しいいきさつは未だ不明である。ただ後述するように少年期の朧に自らの不死の血を与え延命したり、暗殺対象を多数見逃すなど、次第に「虚」から「吉田松陽」へ人格が移り変わっていたようである。またかつて獄中での朧との会話で、「奪うことしかしてこなかった自分でも何かを与えることができるのではと考え、自分に抗ったため」と語っている。しかし、「結局与えられたのは自分の方だった」とも話している。また、この時に牢番だった骸(信女)にも手習いを教えている。
蘇った虚は以前とは別人のように変貌しており、松陽としての人格は完全に失われてしまったようである。信女は彼を「松陽であって松陽でない者」、銀時は「あれは松陽じゃなく、松陽でさえ殺せなかった別の何かだ」、高杉は「先生の中にいた別の"なにか"」と評している。
しかし、「うずいているな、私の内にあるかつてあの男だった血肉が」と、まるで吉田松陽だった頃の記憶を読み取っているかのような発言もしている。
また、信女は「松陽を殺したのは銀時ではなくあの男」とも語っているが、これは「“松陽”という人格が虚によって殺された」という意味であると思われる。(これに関しては後述)
烙陽決戦篇において、かつて死にかけていた少年期の朧に不死の血を注ぐことによって延命を行っていたことが語られる。死期が迫りながらなお朧が彼に忠を尽くすのもこのため。また、この時は既に「松陽」に近い人格となっており、朧の他にも暗殺対象を多数見逃すなどしていた。また自分を慕う朧が殺し屋となるのを良しとせず、決してその技を伝えようとはしなかった。朧が「師」と仰ぐのも厳密に言えばこの頃の虚である。
それが今では元老院を抹殺し春雨の力をも掌握しようとする等、宇宙で最も危険な生物と化している。後に三凶星の一角である猩覚は「今の春雨はたった一人の男の、ただの玩具に成り下がっちまった」と語っている。
刀
黒い刀身に卍型の鍔とどこかの斬魄刀と似たような形状だが、実はこの卍型は史実の吉田松陰の家紋と同じである(五瓜に卍)。恐らくこれもまた「虚=松陽」の伏線の一つであったと考えられる。
烙陽決戦篇での活躍
烙陽に集った銀時らの前に再び現れ、掌握した春雨総十二師団の総力を挙げて銀時達及び元老院の依頼を受け参戦していた星海坊主と共に行動する第七師団の生き残りの者たちを殲滅しようと指揮を取る。しかし、春雨や奈落の手勢が次々と突破されていく状況を目の当たりにし、遂に自ら出向くことを決意。第九師団後続部隊壊滅の報せを受け、銀時達の始末を朧に任せて自身は星海坊主らの交戦地へと向かう。
事前に、神威との確執にけじめを付けんとする星海坊主から横槍を入れぬよう忠告を受けていたのだが、これを無視して親子喧嘩(兄妹喧嘩)に介入。
星海坊主、神楽と交戦中であった神威を不意打ちで斬り掛かるも、星海坊主によって阻まれる(この時、神威を庇った代償として星海坊主は左の義手を失った)。
船の砲撃により彼ら親子を分断後、己の家族を守らんとする星海坊主と交戦。宇宙最強と謳われる彼とまさに「規格外」の熾烈な戦いを繰り広げた。その様は「夜兎の生ける伝説」との異名をとる星海坊主が手応えを感じられず生命の危機を感じるほど。しかし危機を告げる本能を強引にねじ伏せた星海坊主の渾身の一撃によって右腕を吹き飛ばされる。だがこれもアルタナの恩恵により即座に再生させ徐々に彼を追い詰めていく。ところが上記の顛末から虚が妻・江華と同じ、アルタナの力による不死者であることを看破した星海坊主が咄嗟の機転でアルタナの結晶石を片手に差し違える覚悟で心臓を握り潰す。これによりその肉体は絶命するが事前に全てのアルタナの力を右腕に移していたため、その吹き飛ばされた右腕から完全な再生を遂げる。
その後「やっぱりアナタでも私は殺せませんでしたか」と嘆息しながら、星海坊主の腹に刺した己の刀で彼の右腕を胴体ごと両断。星海坊主に身動きも取れぬほどの重傷を負わせるが、虚自身も急激な再生により己の中のアルタナが尽きてしまい、止めを刺さずにそのまま撤退した。
星海坊主を「唯一自分を殺せるかもしれない存在」と評し、また決着後は「お互い命一つ捨てる覚悟がなければ勝てぬ相手だった」と発言していたことから、実力そのものは星海坊主と互角程度と思われる。
ただし、アルタナによる不老不死といった反則級の恩恵があることから、作中最強クラスに位置する人物と言っても過言ではないだろう。
過去(以下、単行本未掲載の内容につきネタバレ注意)
かつて虚は幼少期からその不死という特徴故周りの人々から「鬼」と恐れ疎まれてきた。幾度も殺され、その度に蘇るという壮絶な苦しみを味わいながらも死ぬことができない彼は、やがてその苦しみから逃れるため無数の人格を形成することとなる。
そして永き時が過ぎ幽閉されていた牢獄が朽ちた後、これらの無数の人格が今度はかつて自分「達」がされていたのと同様に殺戮を繰り返すようになる。やがて時の朝廷に捕縛されるも、そこで与えられたのは八咫烏(死神)の面(顔)だった。
それ以来人を恐れ、或は憎み、或は人に焦がれる無数の「自分自身」を持つ虚は500年の間、時の政権が移ろうともただ奈落の首領として殺戮の日々を送ることになる。そんな中、そんな無数の「己」に抗おうと生まれたのが後の「吉田松陽」となる人格だった。
彼は無数の虚を抑え込み、無限に続く血の螺旋に終止符を打とうと様々な行動で抗い続けるも、とうとう「全ての虚を終わらせる」ために生まれた今の「虚」に敗れることとなったのである。
「松陽を殺したのは貴方(銀時)じゃない、あの男よ」という信女の言葉はまさに何の比喩でもない、そのままの事実だったのだと言えよう。
目的
虚は、無限に続く命の中で魂がかき消えてしまうほどの苦しみを味わい続けてきた。苦しみから逃れようと無数の自分を生み出したが、それでも苦しみから逃れることはできなかった。
そしてついに全ての苦しみを終わらせようと、これまで生み出してきた自分を殺し、終焉に向けて行動を開始したのである。
虚は、地球が生んだ怪物である。地球のアルタナを食らう限り死ぬことはない。終わることができない。
そして達した結論は…「この地球(ほし)ごと終わらせればいい」。
実は、アルタナの門を唯一制御することができ、入手には天導衆の総意が必要とされる「鍵」を密かに奪い、遠征の中で他の星々のアルタナを暴走させていた。それによって星々の民の怒りや恐怖を全て天導衆に向けさせ、彼らのいる地球を全宇宙からの戦火に曝すつもりだった。
自らを終わらせるためならば星のひとつやふたつ平気で食い尽くす死神、それが虚である。