概要
サイバーパンクでは人体と機械が融合し、脳の情報処理とコンピューターの情報処理の融合が「過剰に推し進められた社会」を描写する。さらに、社会機構や経済構造等のより上位の状況を考察し、それらを俯瞰するメタ的な視点・視野を提供するという点でそれ以前のSFと一線を画した。
しかし、思想的部分のみを押し付け、エンターテインメントとしての要素をないがしろにした作品や、後述する「サイバーパンク風」作品の跳梁、IT革命やCGMなど作家の想像を超えた現実世界の変革によって、急速に普遍化、陳腐化していった。
詳細
サイバーパンク成立以前のハードSFや、スペースオペラ、サイエンスファンタジーなどに対するカウンターとしての思想、運動。それらを体現する小説に盛り込まれた要素・スタイルを抽出し、フィクション作品として構築するのが、サイバーパンクと呼ぶ潮流であった。
”Cyberpunk”という言葉が最初に用いられたのは、ブルース・ベスキの短編小説「サイバーパンク(1980年)」であったらしい。この言葉に編集者ガードナー・ドゾワが注目し、一連の小説の潮流を示す用語として用い始めたという。つまり何が「サイバーパンク」かは、元は小説家が自称することから始まったのではなく、評論家が時代の潮流を切り開いた作品群をサイバーパンクと呼んだものであることに注意を要する。それでは、どのような潮流がサイバーパンクと呼ばれたのだろうか。
典型的なサイバーパンク作品では、人体や意識を機械的ないし生物的に拡張し、それらのギミックが普遍化した世界・社会において
個人や集団がより大規模な構造(ネットワーク)に接続ないし取り込まれた状況(または取り込まれてゆく過程)などの描写を主題のひとつの軸とした。
さらに作品に設定された抑圧的な支配構造・弾圧的な権力機構・政治腐敗に対する反発と抵抗(いわゆるパンク)を主題のもう一つの軸とする点、
これらを内包する科学的なガジェットをもとに社会や経済・政治などを俯瞰するメタ的な視野が提供され、従来のSFにおける科学技術偏重への批判的な描写が成されることで作品をサイバーかつパンクたらしめ、既存のSF作品と区別されて成立した。
尚、サイバーパンク作品でよく見られるガジェットは、
- 人体への機械・人工臓器などの埋め込み(サイバーウェア、インプラント等)によって機能や意識を拡張する人体改造的な概念
- オンライン端末を操作するハッカーの意識を電子ネットワークに投射して、拡張された感覚と意思によって行動するいわゆるバーチャルリアリティ
等がある。ただしこれらはサイバーパンクの要素のごく一部に過ぎない。パンク思想やメタ視点を欠いたまま単にそのスタイルのみを真似てこれに倣うフォロワー的な作品がサイバーパンクを名乗ることがあるが、 あくまでサイバーパンク「風」を真似ただけに過ぎない。
こうして上記のサイバーパンク的ガジェットに表されれるような表現自体が、パンク思想やメタ視点により批判されるべき存在になったため、サイバーパンク運動は急速に自壊していった。
現在のサイバーパンクと現実
90年代以降は、サイバーパンクの着想が大衆的に広く浸透あるいは、作家の着想を超えて現実化し、あえてジャンル化する必要が無いほど普遍的なものになった。さらにインターネットの普及、ユビキタス社会の進展により、サイバーパンクの感覚の一部は文化というより現実に浸透しつつある普通の事象として認識されるようになった。サイバーパンクという用語自体は、サイボーグやインターネットを取り扱うSF一般を指す用語として緩く使われる一方で、古典的なパンク思想を復興させるような作品も見られるようになってきた。
小説におけるサイバーパンク
一方、グレッグ・ベア作『ブラッド・ミュージック』やフィリップ・K・ディック作の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(原題"Do androids dream of electric sheep?")』(映画『Blade Runner』の原作)、ハーラン・エリスン作『世界の中心で愛を叫んだけもの(原題"The Beast that shouted Love at The Heart of The World")』等の作品もサイバーパンク(ないしはその前駆的作品)として列せられることがある。
これはさらに根源的な意味でサイバーパンクであるとされており、疲弊した技術やコンピュータとの融合などの「サイバーパンク的ガジェット」は全く登場しないが、それらの要素を持つためサイバーパンク(または前駆的サイバーパンク)と解釈される場合がある。
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