シャドウラン>名詞:違法、もしくは合法的ではない計画を実行する為に行われる一連の活動
――『ワールドワイド・ワードウォッチ』2050年版より
油断するな。迷わず撃て。弾を切らすな。ドラゴンには手を出すな。
――ストリートの警句(『シャドウラン第二版』より)
シャドウラン(ShadowRun)とは、1989年にアメリカのFASAというところから発表されたサイバーパンク+魔法の世界をロールプレイするTRPGである。
世界観
このゲームは21世紀中盤をロールプレイする。この世界においては20世紀終盤に多国籍企業の独立勢力化が行われ、弱体化した国家に代わって巨大企業(メガ・コーポレーション)が互いに競いながら世界の実権を握っている。サイバーウェアと呼ばれる身体に埋め込む機械が広く流通し、思考でコンピュータや車両、そして銃などを制御することができる。各企業の保安部社員や企業から表沙汰に出来ない依頼を受けて活動するシャドウランナーと呼ばれる独立エージェントたちには身体改造による戦闘力強化が一般化している。世界中のコンピューターは通信回線で連結され、マトリックスと呼ばれる仮想現実の疑似空間が成立した。身体に直結したサイバーデッキを駆使して、マトリックスから企業の機密データを奪うデッカーと呼ばれるコンピュータ技術のプロもまたシャドウランナー(略してランナー)として数多く活動する。
さらに2011年12月24日、マヤ暦による魔法や、伝説の生物などの復活が発生した。人間の両親からエルフやドワーフが生まれる取り換え子現象、人間がオークやトロールになってしまうゴブリン化現象といった事件が続発し、総人口の十パーセント以上がこれらメタヒューマンとなった。これら新たな「人種」を忌み嫌う組織も現れ、激しい人種差別と抗争も始まった。一方で、子供たちの中から自然に魔法を使える者たちが現れた。企業や学術機関を中心に理論的な魔法研究が盛んになり、研究を通じて魔法を使う者はメイジと呼ぶ。一方で動物のトーテムに導かれ自然と共感することで魔法を用いるシャーマンという魔法使い、魔法の力で身体改造なしに強大な格闘能力を振るうフィジカル・アデプトと呼ばれる武闘家も現れた。ランナーにはメタヒューマンやこれら魔法の使い手も珍しくない。
プレイヤーが演じるのは、この企業が支配する社会の陰を駆け抜けて自らの信条のみに従って生き抜く者たち、先述のシャドウランナーである。ランナーは複雑かつカオスな社会情勢の中、魔法や銃弾の飛び交う世界を己の魔法やサイバーウェアや特殊技能により、非合法に近い活動を行うことになる。プレイヤーは、人間の他エルフ、ドワーフ、トロール、オークを選択でき、「サイバー空間を疾駆するエルフ」とか、「アサルトライフルを撃ちまくるドワーフ」をプレイすることができる。
ハイ・テックと幻想世界が入り交じった世界観が魅力であり、2011年の現実世界から枝分かれしたために現実に連なる社会問題(人種差別、アメリカ先住民との戦争など)が形を変えて根ざしているなど、異世界ものとは異なる独特の味わいがある。作中の年表を見ると世界が大きく変化していく様子が分かるようになっている。
日本要素
基本ルールブックにおいてゲームの舞台は北米、特にシアトルがクローズアップされているのだが、にも拘らずというか、作中では頻繁に日本要素が登場する。例えばサイバーウェアで肉体を強化した傭兵は「ストリート・サムライ」と呼ばれる。魔法の力による肉体強化で物理法則を超越した動きを見せる「アデプト」は時に「ニンジャ」に例えられる。一般人からは日本刀がランナーの象徴(5thのKatanaの解説より)のように思われている。また、日系財閥企業やヤクザが作中の背景で大きな位置を占めており、誰にとっても無視できない存在となっている。
これは元ネタであるニューロマンサーの影響によると思われるが、そもそもアメリカ製サイバーパンクにおける日本要素は基本的にジャパンバッシング時代の「アメリカが日本企業に経済支配されてしまう」という考えから来ているので、今の目で見たら古臭いうえ偏見も入っている。当然、日本人「さらりまん」はエコノミックアニマルであるし、日本国内では男子の帯刀が合法である上、主な用途は護身ではなく切腹である。あと日系企業グループの名前が「レンラク(通信関係に強い)」だったり「シアワセ」だったり。シアワセは財閥企業なので、創始者一族の名字でもある。直近ではシアワセ一族が作中で天皇陛下に嫁いでいたりもする。まあ、この辺りの違和感はシャドウランに限った話ではなく、海外製フィクションにおける日本要素全般に言える話であるし、逆に日本製フィクションにおける海外描写も大概なのだが。
最初に翻訳された第二版の日本語翻訳版は東京を主な舞台とする。日本帝国と呼ばれるこの時代の日本は、ほとんどの都市が特定の企業の支配する拠点となっているが、最大の都市である東京は各企業の勢力がぶつかり合う緩衝地帯となっている。企業間の暗闘から時に報酬を得、時には企業の悪行から虐げられた人々を守りながら、東京には多くのランナーが活動している。ただしこれらはグループSNEによる(原書には無い)独自設定が多く、その影響で現在展開している第4版以降の日本(こちらは原書に忠実)との乖離が発生している。
なお、このSNEオリジナル東京は、シアトルという日本人に馴染みの無い都市よりは身近な国・都市の方がやりやすいであろうということ、原書の日本帝国及び東京は非常に治安が高く(日本帝国には、世界でも珍しい公的機関としての警察が存在する)、また民間人に銃器の携帯が認められていないということもあり、遊びやすさを優先するという判断の元、当時の版元であるFASAの許諾の元に再設定が行われた経緯がある。
登場キャラクターの例(日本版リプレイの主要人物、依頼の舞台)
ここでは富士見書房刊リプレイ集の主要キャラを取り上げて、具体的な登場人物の例示にする。アーキタイプと呼ばれるルール記載の職業と技能のセットで作成されたキャラ中心だが、独自に技能等を決めて作成されたキャラも含む。
彼らは仕事帰りの企業人、荒くれ、犯罪者、そしてランナーが集う街東新宿を拠点とし、歌舞伎町にある酒場“シルバー・ムーン”にて依頼を待っている。また、彼らが活躍する依頼の舞台についても、末尾でいくつか補足する。
六堂(りくどう)
極限までサイバーウェアを埋め込んで銃撃・格闘とも最強を目指す男。
戦闘では冷酷だが義理堅く人情に篤い。
第一部終盤は彼と過去の因縁のある敵との戦いが中心となっている。
紫雲(しうん)
銃撃の名手で、情報収集や破壊工作にも優れた元企業工作員。冷静で思慮深い男性。
かつては中米の新興企業アズテクノロジーに所属していたが、わけあってランナーとなった。
第二部でジェーンが自分たちを利用していたことを知り一度はチームを離れる(紫雲のプレイヤーは本当にパーティーから抜けるつもりだったらしい)が、マオに付き合う形で彼女たちに助力し、ジェーンの窮地を救う。
マオ
都市に息づく自然の力を用いるシャーマン。トーテムは「猫」。魔法に加えて自然の精霊を行使することもできる。
好奇心旺盛で気まぐれな女性だが、仲間思い。第二部でジェーンが自分たちを利用していたこと、その過程で殺がつらい思いをしたことに激怒し紫雲と共に一度はチームを離れるが、ジェーンのことも放っておけず彼女の元に戻った。
Dヘッド
電子世界を操り、企業や様々な組織のコンピュータシステムに侵入し、工作や情報収集をこなすデッカー。エルフの男性で、飄々としたマイペースの性格である。
第一部の前日談である第二部、第三部では登場せず、デッカー役は後述のジェーンの知り合いのNPCが代用していた。そのデッカーは第三部ラストで直接登場しており、明記されていないがDヘッドであることが示唆されている。
殺(シャア)
フィジカルアデプトの少女。魔力を格闘能力に転換する技で戦えるので、精霊など通常の攻撃手段に強い相手を得意とする。裏世界を生き抜いていきながら、見た目通り性格も幼く明るい。本名は「桂(ケイ)」で、「殺」の名は死亡した師匠から受け継いだ。マオとはその頃に知り合い、よくつるんでいる。
ジェーン・ドゥ
第二部、第三部に登場。本名は「司(つかさ)」。双子の姉の「式部(しきぶ)」と共に行っていたオリジナル魔法「記憶転写魔法」の実験中にランナーたちに襲撃され姉を失い、復讐のためにランナーになり六道たちを集めた。当初は六道たちは復讐のための手駒だったが、彼女自身が非情になり切れてなく、徐々に彼らと絆を結んでいく。実験の影響か記憶が一部あいまいになっている。
襲撃時に重傷を負った後遺症で魔力が弱まっている「バーンドアウト・メイジ」であり、サイバーウェアを埋め込んで戦闘能力を補っている。
生きていた姉との悲しい別れ、その後の記憶転写魔法を巡る戦いの後、第三部ラストでこれ以上六道たちを巻き込ませないように、知り合いのデッカー(Dヘッド)と入れ替わるように何処かへと去っていった。
遠山探偵事務所
メディア関係者とストリート・チルドレンが集まる渋谷、その裏通りにある「プラチナ・ビル」という小汚い雑居ビルにある探偵事務所。企業関係の仕事を請け負い、またランナーに情報を売ることもある。
ライトニング
池袋の街は企業間の激しい紛争で破壊され、そこに危険なヤクザやギャングらが住み着いている。その中でも最近急速に弱小組織を吸収して強大化しているギャング。首領は魔法使いらしい。
東電子技術研究所
巨大企業「三浜」の子会社である東電子の施設。業務内容はサイバーウェアの開発となっているが、実質は他の企業の製品を分解して技術を盗んでいるらしい。所内は私有地であるので、許可なく侵入すれば企業の判断で「処分」される。これは企業法によりどこの企業にも認められている合法的警備の範囲である。
関連イラスト
シリーズ展開
アメリカにおける状況
この世界はアメリカにおいてはシェアード・ワールド(フィクションにおいて、複数の著者が同一の世界設定や登場人物を共有して創作する作品群)とされ、作品もアメリカにおいては複数発売されている。
また、製造元が2001年、第3版の途中で事業停止し、他社に権利を売却、その後そこからサポートや、版あげ等の活動が続いている。
版によるゲーム性の違い
初版から3版に関しては「年表の追加及びそれに伴う情勢変化」「ルールの追加」程度と推測される。
しかし、4版に関してはルールが大胆に変化しており、単純に言えば「ルールの単純化」、「魔法の単純化」などがその例として挙げられる。
日本においては
日本においては1994年に第2版がグループSNEにより翻訳され、富士見書房により発売された。さらにはコンシューマゲーム(SFC、メガCD)にも移植された。しかし日本独自展開を優先させた結果、1997年に第3版発売前に富士見書房のTRPG事業縮小により結局翻訳サプリをひとつも出すことなくサポートが終了してしまった。
再び日本におけるサポートが始まったのは2007年であり、出版は新紀元社からとなった。こちらは日本独自の展開はほとんど行わず、速度は遅めではあるもののサプリメントの翻訳もきちんと行われている。なお本国では第6版が展開しているが、日本はこのまま第5版の翻訳を続けるとの事(第6版の評価が良くないこととの関連は不明)。
アースドーンとの関連
同じくFASAが展開していたTRPGアースドーンとは共通の世界観を持ち、「アースドーン[第四世界](紀元前3113年8月12日まで)>(2011年12月24日までの)現在[第五世界]>シャドウラン[第六世界]」と約5200年周期で”魔法の復活と消失”を繰り返すことで世界が更新している(ちなみに計算によると第七世界の開始は7137年4月4日)。また一部のキャラクター(主にドラゴンと一部のエルフ)はアースドーンにも登場している。
これはお遊び的な要素が強かったが、FASAが倒産して制作会社が分かれてからはこういったクロスオーバーはほぼ行われなくなった。
Pixivにおけるタグに関して
自PCイラストが多いが、これはこのゲームは設定上状況イラストは死ぬほど面倒なためでは無いかと推測される。