概要
ヨーロッパの伝承などに登場する妖精の一種。またはファンタジー物の小説やゲームなどに登場する架空の種族のこと。多くの場合、そのキャラクターは“邪悪の手先”として設定されており。魔王や強大な魔力を持った悪の魔法使いの悪の軍団の兵士として、主人公たちの前に立ちふさがり敵対する。
一般的に日本語表記では「トロール」だが、「トロル」と表記する場合もある。
外見的イメージ
ファンタジー物の小説やゲームなどでは“定番のキャラクター”ではあるが。同じく架空の種族でありファンタジー物でも頻出のオークやコボルドに比べると、特にこれと言った“固有の共通イメージ”を持っていない。
ほとんどの場合、
- 大きな体(身長2m~5m)
- とてつもなく怪力
- 動きは鈍重で頭の回転も鈍い
…という描写される事が多い。
作品や描き手の解釈によって様々なのは言うまでも無いが。映画『ハリー・ポッター(Harry Potter)』では怪力だが極めて愚鈍であり“ウドの大木”で、昔の漫画などで描かれる様な原始人をそのまま巨大化させた様な外見だった。ファンタジー小説の古典である『指輪物語』でもほぼ同様の解釈で描かれているが、さらに巨大であり性格も凶暴であった(ハリー・ポッターシリーズでは身長5mほどなのに対して、指輪物語では10mを有に超える)。
絵本『三びきのやぎのがらがらどん』でも土気色の肌の巨人(顔だけで子ヤギほどもある)として登場する(まあ、長男ヤギに瞬殺されるが…)。
またジョージ・ルーカス原案の映画『ウィロー(Willow)』では、全身が赤毛の毛むくじゃらで、垂直の壁を自由に登ったり出来る。動物のオランウータンにそっくりな外見で表現されていた。大きさもオランウータンと同じくらい(身長2m程度)。
ほとんど人間と同じ様な外見を持っている物から。毛むくじゃらだったり、頭に角が生えていたり、時には“一つ目”の巨人として描かれる事もある。体型もでっぷりと太って腹が突き出たものや、逆に筋骨隆々で引き締まった肉体を持つもの、時にはガリガリに痩せて骨と血管が浮き出たミイラの様な描かれ方をする場合もある。
妖精としてのトロール
元々は北欧神話に登場する妖精の一種。伝承によってその姿形は様々で一定のイメージは存在しない。「毛むくじゃらの巨人」であったり、「小柄な老人」であったり、時には「赤毛の美人」であったりもする。これが背景となってか、姿を自由に変えられる魔法が使えるとされる。
古代北欧諸国では魔術は「トロッルの審判」と呼ばれ、魔法使いがトロッル的な属性を持つと思われていた。健部伸明編『幻獣大全』によれば、トロールコナと呼ばれる女性のトロールは力もさることながら魔力を備えるとされる。古北欧(ノルド)語で怪物、妖怪を指す一般名詞「トロッル」で表されるいわゆるトロールは、巨人ヨトゥンの末裔で在るため、スノッリ・ストゥルルソンのエッダでは「巨人」とトロールを互換性のある言葉として使われる。
英語表記で“Troll”、スカンジナビア半島諸国でも概ね「Troll」表記である。ただデンマークでは「Trold」と書かれる。デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが書いた『アンデルセン童話』所収の『すずの兵隊』で、しっかり者の錫の兵隊の人形を大変な目に遭わせるのが小さく黒いトロール(sorte-trold)で、『妖精の丘』に出る、ノルウェーのドヴレ山のトロールが「dovre-trold」。なお『雪の女王』に出てくる「いいものが映らず悪いものが誇張されて映る鏡」を作ったのはトロール。
日の光に当たると石になってしまうため、トロールは日没から日の出までしか姿を見せないとされる。
またグリーンランドやカナダ地方のイヌイット族に伝わる伝承では。トロールは邪悪な巨人であり、夜な夜な徘徊しては人を襲い、住処に引きずり込んではその肉を切り裂き喰らうとされ。妖精と言うよりは“人食い巨人”と言った方が近いイメージである。現在でも北欧地域に住む人々は、どちらかと言うとこの“人食い巨人”の方のトロールを信じている人が多い。
ノルウェーの諺では、急に物が無くなった時などに「トロールのいたずら」と言われる。前述の様に人間を襲って食べてしまう怪物としてのトロールと、人々の生活の身近に潜んで時折いたずらをする妖精としてのトロールの2つのイメージが混在していると言える。これは日本の秋田地方の民間伝承である「なまはげ」と通じるものがある。
また、Huldre(フルドレ 「隠れた民」の意)と呼ばれる、人間のサイズのものも伝えられている。これはフルダルホット(huldar hottr)、フリズスヒャールムなどと呼ばれる赤い帽子をかぶって姿を消し、地下の国で牛を飼うと言われる。また、フルドレの女性は「牛の尻尾」が生えている他は美人のお姉さんで、歌を歌って牛を放牧し、(主に「取り換え子」の被害にあって返された子が成長した)若者を誑かして自分の国へ連れて行き若者を堕落させる。さらにフルドレを一応こちらへお嫁に来させる(洗礼を受けさせると尻尾が取れるそうである)とかハーフもできるなどと言われる。またある種のお約束で、トロールはハウグフォルク(丘の民)と呼ばれ、土の精霊を使って丘の中へ金銀を集めるとされるが、フルドレもそれをするという。
トロール伝承が各地へ伝播したと思われるものとして、シェトランド諸島、オークニー諸島でトロウ(Trow)と呼ばれる、人間なみかそれ以下の身長を持つものが考えられる。バイオリンを奏で、人間へちょっかいを出しまた気に入った者へは祝福を与える彼らは丘の中に住居を構え、金銀で内装を飾り立て、陽光に弱いというトロール的な特徴を持つ。彼らの内の海に住む者は、魚の皮を下半身に穿いていわゆる人魚となったり、アザラシスウツを着て陸上へ上がる(セルキーとよばれる)と言われる。
ラップランドと呼ばれるサーミ人の国では、スターッルと呼ばれる森の精霊が言い伝えられている。これは怪力で人を食うという特徴から、トロール伝承が伝播したものと考えられるが、サーミの伝承がさらに伝播したと思しき、フィンランドのスターロ(「月明りだけで歩ける夜」に子供を守ってくれるトトロっぽい描写)や、スウェーデンのスタッロ(あほ)が伝わっている。
詩人英雄エギル・スッカラグリームスソンを筆頭とするアイスランドの豪傑の祖先ハールビョルン(ノルウェー北部のハロガランドにあるラフニスタ島の長)は英語版Wikipediaでも記事名が「ハールビョルン・ハールヴトロール」であるがこれは渾名らしい割に、彼の息子ケティル・ヘイング(Ketil hoeng)はトロールのところで弓の射撃術を習い、その師匠の娘と結婚してグリム・ロッデンキンドという子供を作っている。
ムーミンとトロール
よくスウェーデン系フィンランド人トーベ・ヤンソン作のアニメや童話でお馴染みの「“ムーミン”もトロールである」とされるが、作者は否定している。
原書では「ムーミン・トロール(Mumintrollet/Muumipeikko)」と表記されてるせいでそう解釈されているのだが、ヤンソン自身は「トロールと言う名前の別の妖精」と述べている。尚、「ムーミン」と「トロール」のどっちが種族名なのかは作品中でも曖昧で明確に区別されていない。
設定上ではムーミンの世界には、民家のタイルストーブの裏に住む家住みトロール、海を徘徊する海のトロール、ムーミンの祖先種族「山のトロール」(「前の戸棚を追い出されてムーミンの家に来た」のがおるが)がいる。さらに、デビュー作のタイトル『小さなトロールと大きな洪水』でのSmatrollen(スウェーデン語で「小さなトロール」)はムーミンを指すが、後のムーミン絵本でクニット(Knyttet)と呼ばれるSmatorollenが登場する。これは服を着ていて(ムミーンは全裸で体毛に覆われる)人間に近い容姿をしている(ムーミンはカバでもなくてヴァーレルセルっていう妖精なの!!あの変な生き物はまだこの世におるの!!多分!!)。また時折ムーミン谷の皆さんのお願いを叶えてくれる「飛行おに」の原語「Trollkarl」は直訳すると「トロールの人」である。
ファンタジー内でのトロール
作品や描き手の解釈によって様々なのは言うまでも無いが。ほとんどの場合はオークやゴブリンも同時に登場し、それらと比べて圧倒的に大きな体格を有して腕力に優れたパワーファイターとして描かれる事が多い。その反面、あまり知的活動は得意とせず。「大男、総身に知恵が回りかね」を体現している場合が多い。
また、ゲームや小説などでは凄まじい再生能力を有している場合が多い(『魔法戦隊マジレンジャー』みたいに再生能力ゼロの単なる脳筋バカが出てくることもあるが)。
ただしTRPGの『トンネルズ&トロールズ(Tunnels & Trolls)』では人間同様の知的レベルを有しており。通常はモンスター側としてプレイヤーが触れる事が出来ないトロールを、明確にプレイヤーが使用可能な1個の種族として定義している。このため非常に強力なキャラクターを作る事が可能となる。
コンピュータゲームのカメオ:エレメンツオブパワーでは、高い鍛冶技術と機械技術を持ち、集団かつ高い統率力を有し、敵対勢力であるエルフを騙すほどの知能を持っている。
また近年になって、新しく発表されるゲームなどではトロールの扱いは急速に向上している。今まではただの敵役でしかなったトロールが、最近になって発表されるTRPGやMMORPGでは、多くの場合プレイヤーが使用可能な種族に入っている事が多い(同じくただの悪者扱いされてきたオーガやゴブリンにも言える)。
その際、今まで固定化されていた“人食い巨人”のイメージから変化して邪悪な種族ではなく、エルフやドワーフなどと同様に様々な設定が施される事が多い。しかしながら外見的なイメージ設定は、むしろ単純に大柄な人間の姿に若干のアクセント、例えば「浅黒い肌」や「筋骨隆々した肉体」などが付加されるのみで、既存の小説やゲームなどで描かれてきた“モンスター的な側面は完全に消失”している場合も多い。特に「筋骨隆々した肉体」と言う特徴は、一種の「筋肉女萌え」の派生とも考えられる。
ただし純粋に“悪の勢力を演じる”という主旨のRPGも存在するので注意(『ウォーハンマーRPG』など)。
創作物でのトロール
ディズニー映画『アナと雪の女王』では、クリストフと家族のような間柄の小人族。
普段は岩に擬態している。族長はかつて事故でエルサの氷の魔法に当たったアナを魔力で治療したがアナがエルサを怖がることを懸念し、エルサの魔法に関する記憶を楽しかったことを除き消していた。アナの心に氷の魔法が当たった際には真実の愛が氷の魔法を解くということが必須であることを教えた。
小説『ハリー・ポッターと賢者の石』ではハロウィンの日にホグワーツを襲撃した巨人として登場。緑の肌、棍棒装備、スキンヘッド、粗末な服装、恰幅の良い体型などドラゴンクエストシリーズのボストロールと一致する点が多い。
女子トイレで一人泣いていたハーマイオニーを襲撃していた際に駆けつけてきたハリーとロンと交戦するも、浮遊術「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」で棍棒を奪われそれを頭に落とされ倒された。
この事件がきっかけで、ハリー、ロン、ハーマイオニーの絆は揺るぎないものとなった。
杖を鼻の穴に突っ込まれるなどハリー・ポッターシリーズのモンスターでは珍しくギャクテイストな描写がある。
他、スキンヘッドでいちばん大きく狂暴な山トロル、薄緑色の肌を持ち薄くもつれた茶色の髪の毛があるものもいる森トロル、髪の毛はある上に角まで2本生やした頭部、紫がかった肌をして橋の下に住む皮トロルの3亜種に分かれる上に「いかに人間(Being)として認められないか」に関する挿話まで付いたり、ホグワーツ魔法魔術学校の「賢者の石」を守る仕掛けの内での番人として雇われていたり、闇の魔術に関する防衛術の授業で、有名作家の書いた『Travels With Trolls』と言う本が教科書として使われていたりする
メガテンシリーズではゴブリンと同じく一貫して妖精で、どのナンバリングでもランダムエンカウント時に遭遇した場合は会話で仲間にすることができる。
姿形は真女神転生1までは安定してなかったが真女神転生ifにて毛皮を纏った愛嬌のある青肌メタボの巨漢として描写されてからはずっとこの姿である。
その他
インターネット・トロル
英語圏では、いわゆるインターネット上の掲示板やブログのコメント欄などに、ネガティブな書き込みを繰り返す行為や人物~即ち“荒し”の事を「インターネット・トロル(Internet-Troll)」と呼ぶ(ただ単に“troll”と称する事も多い)。
またまれに、周囲の迷惑を顧みない人物の事を評して、単に「トロル(troll)」と呼ぶ事もある。意味合いとしては日本語の「厄介者」とほぼ同義。