概説
世界各国、特に北アメリカ大陸とオーストラリア大陸、西アフリカ一帯を中心に伝承される蛇神。
その名の通り虹の化身であり、天候を操り雨を降らせる力を持つ。
オーストラリアの蛇神伝承
特に明確にその姿を残すのが、オーストラリアのアボリジニたちの伝承である。
著名なのは創世の虹蛇であるウングッド・エインガナ、洪水伝承を持つユルルングルの三柱の神だろう。
ウングッド
アボリジニ伝承における根元神。
ウングルとも呼ばれる。
海しかない世界にで海底の泥が集まって生まれ、己しかいない寂しさを失くすために命を生みだそうと考える。
そこでまずブーメランで海を撹拌して泡立て、その泡で巨大な大地を作り上げ、そこに無数の卵を産んで生命を増やしていった。
これがアボリジニ伝承における創世神話である。
エインガナ
ウングットとは別の創世神話を持つ虹蛇。
この世の最初は無限の砂漠であり、エインガナはこの風景を見飽きて世界を生命であふれさせようと思い付く。
そこでエインガナは水中に潜ってあらゆるものを創造し、最後に長い陣痛の末に人間を産み落としたという。
エインガナは全ての生命に関わる「紐」を所有しており、エインガナが紐を手放した種は絶滅する運命となる。
ユルルングル
オーストラリア南部の伝承に登場する虹蛇。
ユルングとも呼ばれる。
銅の体を持ち、聖泉「ミルリアナ【Mirrirmina/岩の錦蛇の背中】」に棲んでいる。
“父なる蛇”と呼ばれる天候神で、その声は雷鳴であり、彼の住む泉は虹色に輝くという。
長らく泉の底で眠りについていたが、自身の子孫に当たる人間の姉妹が泉に経血を落としたことでその臭いで目覚め、起きた勢いで洪水を引き起こした。そして姉妹とその子供たちを、勢い余って呑み込んでしまう。
その後、蛇による集会が開かれ、ユルルングルは自分の子孫を呑み込んでしまったことを告白し、彼らを吐き出すことを約束する。そうしてユルルングルは姉妹と彼女の子供たちを吐き出すと、ユルルングルが所持する魔法のディジュリドゥ(アボリジニ伝統の管楽器)が独りでに鳴り響き、アリが姉妹と子供たちに噛みついて蘇生させた。
この伝承からアボリジニの一部の部族では、“成人の儀式”として嘔吐を経験することになっている。
アフリカの蛇神伝承
創造神である女神マウ(マウウ)が最初に創造した存在は蛇で、世界創造を手伝った後に海底でとぐろを巻いている。虹はこの蛇が天にアーチをかけたものであり、雨を降らせる役割も持つ。
アメリカの蛇神伝承
アイダ
ハイチの虹蛇。上記の伝承がアフリカ系住民によって伝わり、変化したものだといわれる。
イシュ・チェル
マヤ文明の「虹の婦人」と呼ばれる女神で、頭に蛇を置き交差した骨が刺繍されたスカートをはいた姿で描かれている。怒らせると大雨を降らせ洪水を起こすといわれる。
インディアンのショショーニ族の伝承では、虹は大きな蛇が天空に背をこすり付けて生じさせ、雨や雪を降らせるという。
中国の蛇神伝承
虹霓/虹蜺
漢字で「虹」という字が虫偏なのは竜の一種であるからである。
虹はこの竜の体であるといわれ、雄雌を表す漢字で虹霓/虹蜺(コウゲイ/Hóng ní)と表記する。
アンフィスバエナのような両方に頭のある体をしているとされ、光学的に通常見えるのが虹(オス)で時々見えるでかいやつが霓(メス)と言われ、彼らは出てきて「水を飲む」と言われる。ものすごく大昔は虹の出現そのものがかなり怖かったので、甲骨文字に、「(方角)に(時々リア充の)虹出現す 禍無きか」と書かれたものが結構ある。