概要
オーストラリアの先住民・アボリジニ、ポンガポンガ民族の伝承に登場する虹蛇。
全ての水、動物、そして人間たちの母とされており、伝承によると最初、この世は何もない無限に広がる砂漠であり、たった1人でそこに横たわっていたエインガナはそれに飽きて世界に生命を溢れさせようと思い立ち、風、水、火、石などといったこの世に存在全てを作り出し、最後に人間を始めとする生き物を身籠ると水中へと潜り、再び水面に浮かび上がった際に長い陣痛に苦しむが、膣を持たないため産むことができなかった。世界を旅していた老いた精霊・バルライヤが槍で肛門近くに穴を空けて人間たちを産み落としたとされる。
野犬の一種であるディンゴの「カンダグン」が産まれたばかりの人間達を追い回すと、人間達は鳥やカンガルー、飛べない鳥のエミューやオオコウモリやハリネズミへと変化して逃げていった。
エインガナは全ての川も造った。エインガナは自分が産んだ全ての生き物を再び飲み込み胎内の生き物達に向けてこう言った。「おまえたちみんながわたしの言うことを聞き、わたしの指示を守るというのが、わたしの意思である」そして再び生き物達を世界に放った。
また、エインガナは全ての生き物に付けられている“トゥーン”と呼ばれる腱で出来た紐を持っており、その生き物が死ぬ時にはじめて紐を手放すとされている。死んだ生き物の霊は自らが生まれた国へと帰っていくという。
なお、現在はエインガナの姿を見ることは誰もできないが、今でも何処かに住んでいるとされ、普段は水の真ん中の洞窟に棲んでおり、乾季が終わるころに雨を降らし、雨期になって水かさが増えると大水の真ん中に立ちあがり、大水が引くと元いた住処へと帰って行くとされる。そしてエインガナが再び姿を現す時、全ての生命を自由にするといわれている。つまり、雨季に降る雨水自身であるエインガナは雨となり生き物の全てを飲み込み、雨季が去ると水が引くために姿を消すのである。
参考文献
『世界の民話 36 オーストラリア』小沢俊夫訳、ぎょうせい〈世界の民話〉、1986年4月10日。ISBN 4-324-00065-4。