概要
小説『ホビットの冒険』に登場する邪竜。
「トラウグ」などと呼ばれることや「スモーグ」という異訳もある。
中つ国に住む、蛇のような胴体に赤みがかった金色の鱗と巨大な翼を持つ西洋龍。で、火竜族「ウルローキ」の最後の世代の一体で、「大龍」というカテゴリーに属するという意味では最後の個体であり、「古い火」を体内に宿していたという意味でも最後らしい。よく誤解されており、ごく最近までは主流の認識であったが、スマウグは中つ国最後の火竜でもドラゴンでもない。竜族自体は、第四紀以降も生存し続け、絶滅しなかったと原作者の手記の一つによって明かされているらしい。
第三紀の龍族の主たる住処「ヒースのかれ野」出身で、トーリン二世の言葉を借りると、幼なじみの(おそらくは)大龍たちは他にもいたようである。
第一紀末の大戦「怒りの戦い」を生き抜いた個体かどうかは不明だが、結果的に、下記の理由から、「怒りの戦い」の後に生まれたと考えられる。
- 「怒りの戦い」は、スパンは42年、旧中つ国北西部が沈む、生き延びた龍の数は不明だが、2体のみとする説もある、『ホビットの冒険』や『指輪物語』の時代に、怪物や悪霊の類が数も種類も少ないのはこの戦争の影響が大きい。
- スマウグ本人は、エレボールに来た時点では若く弱かったと話しており、やはり第二紀以降の、おそらくは第三紀出身の可能性を否定できない。
- グラウルングが未成熟の折に初出撃してから成熟するまで約200年で、それ以前の状態、つまりグラウルングとして生を受けた時期は不明。人間と同時期かそれよりも古くに誕生していた可能性もあるのだ。
- スマウグは171年ほどエレボールに巣食って成長し続けた。第三紀の始まりからスマウグのエレボール襲撃まで2770年あった。
大きさは、中つ国の関連書籍やトールキンの自筆画では全長20~25m程度とされるが、実写映像作品では全長60~90m以上、翼開長50m以上(または全長130m~141m以上)とかなり巨大化している。中つ国では、神々の影響が後年になるにしたがって減り、その影響で全ての生き物や魔法種族が軒並み大きく弱体・小型化するという特徴があり、 ただし、原作通りの大きさですら中つ国史上でも優勢だった王国の一つを滅ぼせるため、いかに強大な力を持っているかお分かりいただけるだろうか。
またの名を「黄金竜」と呼ぶが、これは元来赤い身体に、長年溜め込んだ黄金がこびりついた結果であるとされている。正真正銘の「黄金竜」である祖龍グラウルングとは別のベクトルである。こびりついた黄金は鎧の役割も果たし、特に鱗が無い柔らかい腹部を他者からの攻撃から守っている (それでも、歴代の英雄やドラゴンスレイヤーが使うような、ドワーフやエルフの特別製や対龍専用装備、稀代の魔剣など、特別な装備でないと歯が立たないが)。体内で火が燃えているらしく、いつも鼻の穴や口から白煙を漏らしている。怒らせるとこの炎を口から相手に吹き付けて焼き殺す。この特徴故か、大量の水が苦手(体内で燃やした炎が消されてしまい、最悪の場合は力を失って「消えて」しまうため)と言う意外な弱点がある。ただし、水そのものが苦手ではない。竜族自体が水に弱いというわけでもなく、エルフに確認されていたであろう水龍(シーサーペント)なんかもいたらしい。
- ナズグルが水を苦手とする理由の考察に、「ウルモの力がありとあらゆる水に込められていた/残っていた」ため、というものもある。が、もしそうならば水中や海原に悪しき存在が発生しえなかったはずである。ただし、中つ国を見捨てないとはいえ積極的な関与はおそらく止めたウルモの力をはね除けるレベルの存在がいたのかもしれない。
ファンによる考察(やあまり宛にできない資料)を含めると、硫黄や毒ガスなどをブレスとして使えたまたは垂れ流す事ができる可能性もある。実際に、例えばグラウルングの場合同様、襲われた地域は長い間荒れ果て草木が生えなかった。また、媒体によっては よだれや通っただけで金貨が溶けたり、自らを炎に包むことができると思しき描写もある。
エレボール来襲以前は灰色山脈にいたとされるが、第三紀2770年にはなれ山の財宝の噂を聞きつけ襲来。人間の国デイルを滅ぼし、ドワーフの王国エレボールを奪い取った。その後、2941年にトーリンらが訪れる60年ほど以前までは周囲を時々襲撃し、財宝の中に身を埋め、廃墟となった地中の宮殿に棲み続けていた。つまり、171年近くエレボールを支配していたが、完全にお休みモードになっていたのは60年ほどである。
ガンダルフは、この龍とサウロンが手を組むことを恐れて積極的に排除しようとした(原作では、トーリンが討伐に積極的でガンダルフはそれを後押しした)。厳密に言うと、ドワーフ達は討伐よりも宝の奪還に興味があり、それをガンダルフが利用したのだが、実際にはドワーフとビルボの旅がなくてもサウロンが竜を懐柔する前に破壊するプランをいくつか考えていた可能性が指摘されている。ビルボの起用についても、元々は別の人材を探していたがダメだったというのが理由である(参照)。
ドワーフ達には「強くて悪い長虫」や「第三紀最大の脅威」などと呼ばれ、恐れ忌み嫌われている。トーリンには(直訳すると)「スラグ」(なめくじ)や「ウィットレス・ワーム」(キ○○イミミズ)などと呼ばれていたが(欧州では、「Warm」である龍を「Worm」と呼ぶのは最大限の侮辱になる)。
また、映画の日本語字幕や作品紹介では「最強の竜」や「竜の王様」としていたが、これらは原作を知る人からしたら違和感を覚える表現であり誤解を招きやすい(そうでなくても、日本語では字幕吹き替え両方で、「第○紀」など原作の既読者意外には馴染みが薄い表現や実際の経過年数などは少なく思えるような表現にされていた)。
これまで、スマウグは長らく「中つ国最後の龍」と紹介されてきたが、実際は「最後の大龍」である。トールキンも、龍族の第4紀以降の存続を自筆にて明かしており、「指輪を溶かすほどの古い火を体内に持つ龍では最後の者」という表現であった。スマウグの討伐以降、少なくともナズグルの乗っていた「フェルビースト」が、あの時代での空飛ぶ生き物では最大とされていたので、弱体化が激しいのだろうか。
- 二次創作だが、テレビゲーム「シャドウオブモルドール」の続編「シャドウオブウォー」では、「ドレイク」が登場する。
性格
性質は老獪で残虐非道、人間の街を意味も無く破壊したり、逃げ惑う人や家畜を貪り喰う事を何よりの楽しみにしている(ただし、原作では竜族の例に洩れずひょうきんな部分もあるのだが、映画では残虐性がかなり強調されていた)。また極めて強欲でもあり、財宝や金貨の存在を嗅ぎつけると持ち主を甘言で騙したり、或いは力にものを言わせて強引に宝を奪ってしまう。一方でおしゃべり好きでもあり、なぞなぞも好む。これらは中つ国の龍族に共通してみられる特徴でもある。
奪われた財宝は彼の住処に山積みにされ、スマウグはこれら多量の財宝の全ての存在を恐ろしい程の記憶力で把握しており、原作ではビルボの手で黄金のカップを盗まれただけで逆上して大暴れし、手がつけられなくなった。泥棒に凄惨な報復があるのは言うまでも無く、とばっちりを受けて無関係の人々が犠牲になる事もある(ただし、エスガロスの襲撃は、トーリン一行にエスガロスが力を貸したと見抜いての事である)。
ガンダルフは、ビルボを忍びの者に選定した理由は、スマウグは人間・エルフ・ドワーフの匂いを嗅ぎつける・嗅ぎ分ける事ができるが、ホビットの存在は知らないであろうということから、彼を惑わすことができるであろうと踏んだからである。
発音
「Smaug」はその綴りからスモーグと発音されることが多いが、筆者のトールキンによる発音はスマウグである。
実写映画版
ピーター・ジャクソン監督による映画『The HOBBIT』の第二部・第三部に登場。
四本足で前足に翼が付いた巨大な竜となり、腹に黄金を付けなくても良いほど頑丈な鱗をもっている。なお、第一部の映画公開の時点では六肢(両肩の二肢が翼)であったが、その後発売された DVD では四肢龍となっていた。 「長虫(ワーム)」である点を尊重するため&キャラクター性を深めるため、ワイバーン型で胴体は細長い(賛否両論だが、ワイバーン型の方が力強さと蛇的なアクションを演出しやすいのかもしれない&中つ国の龍の歴史を振り返ると自然な進化とも言え、地這い龍が単純な下位互換となるのを防ぐ事にも役立っているのかもしれない)。
世界中の龍伝説から発想を得ており、頭部などは特に東南アジアや中国の東洋龍の意匠が強く取り入れられている。「目が大きすぎる」や「顔がのっぺりしている」と嫌う声もあるが、東洋龍などをモデルにしていることを考慮すると、実に考えられた造形をしていることが見て取れるだろう。
- 声とモーションキャプチャをつとめたベネディクト・カンバーバッチは、ビルボ・バギンズを演じたマーティン・フリーマンと人気ドラマ『SHERLOCK』でホームズ役とワトソン役で共演したこともあり、コンビ対決として注目を集めた。
二次創作ではカンバーバッチに似せた擬人化や、シャーロック・ホームズとのクロスオーバーの人気が高い。
なお、このスマウグはブレスのタイプを用途によって使い分けられることが可能と見られており、通常の火炎放射(自身の身体を包み込むほど火力が強い)、石造りの建物を破壊するほどの体積と威力を持ち、爆風が地面で広がる溶岩かナパーム状(第一作にて)、前者の中間的な、火炎放射器のような状態(第三作)が確認されている。また、ブレスを吐く際には目と腹鱗が炎熱で輝くのも特徴。
制作段階では、完成作品よりもおそろしく巨大(ジャンボジェット二台分)になる予定だったが、ゴラム同様にキャラクター性を強調するために若干ファンシーな見た目になった。なお、デザインの段階では非常に奇抜なデザインが多数存在した。一番最初に発表されたものは、バルログよろしくジャック・オ・ランタンっぽいものだった。
原作では、映画とは違い、デイルとエレボールを襲撃する直前に近くの山か丘の頂に一端着陸して焔を燻らせた姿が目撃され、それから森に火を放ち始めた。
その他
ピーター・ジャクソンが映画監督への道を志すきっかけとなった1977年のアニメ版『ホビットの冒険』では、サーチライトのような目を持ち、毛をもち猫に似た顔を持つなどの特徴が出ていた。宝石のチョッキをしていないのは実写版と共通しているが、バルドがツグミの助けを得て倒すのは原作通りである。それ以前の紙芝居型アニメ作品では地球の古代の怪物「スラグ」と称され、尻尾の先端が物をつかめるようになっているウナギのお化けのような見た目であった(火を吐く描写はされていない)。
初期稿ではビルボが短剣でスマウグを倒す予定であったが、グラウルングとトゥーリンの話にダブるので変更されたらしい。
Iron Crown Enterprise では『怒りの戦い』を生き延びた個体であるとされ、姉妹のウトゥムコドゥールが存在し、東方にて敬われたという。
関連イラスト
関連動画
外部リンク
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ホビットの冒険 / 指輪物語 / ビルボ・バギンズ / トーリン・オーケンシールド