クトゥルフ神話TRPG
くとぅるふしんわてぃーあーるぴーじー
概要
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説から創始され、友人の小説家達と拡張して作り上げた『クトゥルフ神話』の世界観を基礎とした、アメリカ合衆国のゲーム会社、ケイオシアム社が発売したTRPG。
なお本項では公式の日本語訳に従い、特筆しない限りは俗にいうSAN値は「正気度ポイント」という用語で表記している。(このあたりの事情は「正気度ポイント」の解説部も参照してください)
世界観
クトゥルフ神話世界では、人間よりはるかに上位の宇宙的存在がいて、人間は宇宙において塵芥同然の存在であるが故に、より上位の存在には関心を持たれていない、とされている。
単なる一般人に過ぎないプレイヤーが、精神をすり減らしながら、どうしようもない「宇宙的恐怖」に晒される、というのが基本コンセプトであり、怪物を退治するのではなく、怪物やその他の脅威、世界の真実に恐怖するというホラー作品になっている。そのため、プレイヤーキャラクターの死亡率が非常に高く、ハラハラしながら「恐怖を楽しむ」ことが目的である。
キャラクターの成長を伴う冒険を楽しむようデザインされたTRPGとは、基本的なプレイ思想が異なる。
もちろんTRPGなのでストーリーを体感しながら楽しむのがプレイヤーのゲームとしての楽しみ方である。生還はゲーム上のキャラクターの目的の一つに過ぎないため、盲目的に屁理屈を捏ねてまで生き残ろうとしても楽しみを損なうことになりかねない。
その一方で自分のキャラクターの死に様を楽しむゲームというわけでもないことは理解するべきである。ルール的にキャラクターが狂気に陥っているわけでもない状況で自殺志願者のようなわざとらしい破滅的な行動をとるのはキャラクターのロールプレイとして相応しくない。死ぬはずだった状況で知恵と勇気を駆使した結果幸運の女神が微笑んで生き残れるという場面では、素直にその恩恵を受け入れ喜びに浸るべきだし、KPや仲間のプレイヤーはそれを賞賛すべきであろう。これはゲームなので生還して成功することもあれば全滅して失敗することもある。原作小説ではありえなかったようなハッピーエンドを頑張って目指すことも、ゲームならではの王道な楽しみ方である。
システム
ゲームマスターのことは『キーパー』( KP )、プレイヤーキャラクターの事は『探索者』と呼ぶ。『ベーシック・ロールプレイング(ケイオシアム社が開発した基幹システムであり、ほかにストームブリンガーやルーンクエストなどに採用されている)』が採用されており、それに基づく能力や技能の項目が設定されている。探索者の作成は、6面ダイスによる能力値の決定に加え、シナリオの舞台に合わせた職業の選択と、それに適する技能の習得によって行われる。
職業について
プレイヤーは使用するキャラクターの職業を自由に、もしくは年収に応じて決定し、その職業によって習得できる技能が異なる。探偵や警察のようなオーソオックスなものから、トライブメンバーやスポークスマンなど一風変わったものまである。
能力値について
主な項目は以下の通り。能力値の幅は基本的に3〜18だが、INTとSIZは8〜18、EDUは6〜21となっている。
- STR:Strength 筋力 力の強さ。主に力を使う場面や技能に影響。高ければ戦闘にダメージボーナスが付き、逆に低ければペナルティーが付く。
- DEX:Dexterity 敏捷 器用さ、素早さ。繊細な作業や、逃走、追跡、戦闘時の順番などに影響。
- INT:Intelligence 知性 聡明さ。習得できる技能に影響。また、高ければ様々な情報に気付きやすいが、このゲームに限っては、その世界観故に『気付いてはいけない』ことも多く、メリットだけではない。
- CON:Constitution 体力 タフさや健康状態。キャラクターの持久力に関わる。また、窒息したり、毒に侵されたときなどの抵抗力にも影響。
- APP:Appearance 外見 見た目や印象の良さ。低くてもゲーム進行にそれほど影響はないが、キャラの設定やロールプレイに影響する。
- POW:Power 精神 精神の強さ、魔術的な素養。このゲームにおいては最も重要な能力値の一つ。運や正気度ポイント、MPの算出などに使われ、低いと非常に不利になる。
- SIZ:Size 体格 身長や体重。高ければ戦闘にダメージボーナスが付き、逆に低ければペナルティーが付く。ロールプレイや設定にも影響。
- EDU:Education 教養 教養の高さ、および学歴。基本的には就学年数を表す。技能習得に影響する。一般的に探索者の年齢はこのEDU+6歳以上とされる。
- 年収・財産:文字通りキャラの年収と財産。主に探索者の職業選択やロールプレイに影響するが、場合によってはゲームの進行に関わることもある。なお、職業に学生を選択した場合は別ルールが存在するが、設定や処理が煩雑になりやすいためあまりこれを重視しないKPもいる。
上記の数値を基に、以下の能力も算出される。
- SAN:Sanity 正気 本作最大の特徴で。心の強さや勇気を表す。POW×5で算出される。よく言われる「SAN値」とは異なるパラメーターなので注意。この値がそのキャラクターの心の基準値であり、この値より正気度ポイントが下回れば消耗し、怯えていたり混乱していることを表し、上回れば安心、安定あるいは勇気に満ちていることを表す。この値は基本的に変動しない。「クトゥルフ神話」技能でも変動しない。
- 正気度ポイント:Sanity point SANから派生しているパラメータ。心の健康度、どの程度消耗しているか、怯えているかなどを表す。重ねていうが能力値のSANとは別のパラメーターとして考えられるべき要素。昭和の頃に出版されたクトゥルフTRPGの日本語資料では「SAN値」と翻訳されていたため現在でもその単語が広まっているが、能力値のSANと混同されることが多かったために訳語の見直しが図られ、現在における公式の日本語ルールブックでは「正気度」という日本語表記を使うことが徹底されている(ただし公式リプレイではあえて「SAN値」と呼ばれることがある)。キャラクター作成時、正気度ポイントの初期値はSANと同じ値から始まる。初期最大値は99で、「クトゥルフ神話」技能の値で最大値が減少する。いわば心の耐久値で、衝撃的な出来事や恐怖などを体験すると減少。短期間に大量に失えば、プレイヤーは「発狂」ロールプレイをしなければならない。行動を強制される要素としても大きいが、本意はロールプレイを楽しむためのシステムである。極限状態では恐怖のあまり合理的でない行動をとってしまうのが人間だが、プレイヤー自体はキャラクターを俯瞰した位置にいて冷静でいられるために、そのようなロールプレイが発生しにくいため、システム的に導入されているもの。必ずしも精神障害を発症するシステムではない。0になればそのプレイヤーキャラクターは「永久的発狂」という状態になり、NPC化(操作権が完全にKPに移行)する。回復や増加の手段は少ないため、基本的には減る方が多い。神話的事象に関わることで確実な破滅が待っていることを表すシステムでもある。NPCにも設定されているステータスであり、時には相手の精神状態を把握するのも重要になる。
- 耐久値 キャラクターの耐久値。CONとSIZの平均で最大値を算出。肉体的なダメージを受けると減少し、治療行為で回復する。一回で現在の半分以上のダメージを受けると「ショックロール」を行い、失敗すると意識を失う。2以下は重篤で絶対に意識を失っている状態。
- アイデア 直感力や理解力。INT×5で算出。高いと情報収集に有利でヒントを得やすいが、『知ってはいけない事実に気付いてしまう』事により正気度ポイントが減少したり狂気に陥ってしまう可能性もある。
- 幸運 運の良さ。POW×5で算出。高ければ思いがけない幸運に出会いやすくなる。シナリオや展開によっては、生死やクリアに関わる重要な数値である。
- MP:Magic Point マジックポイント ゲーム中で習得する魔術の使用に消費される。数値はPOWそのまま。正気度ポイントや耐久値と異なり、時間経過で回復する。
- DB:Damage Bonus ダメージボーナス 戦闘時の追加ダメージ。STRとSIZの合計値を基に、専用の表から算出。合計値が高いほどボーナスが付くが、逆に低い場合はマイナスもあり得る。基本的に肉体が直接関係する近接技に影響。
INTとEDUの数字を基に技能値を決め、習得したい技能にポイントを割り振る。以下は特徴的な技能。
- 図書館
情報収集技能。図書館のような「広大な情報量がある場所」の中から必要なものを収集・処理できるかに関わる。このゲームでは最も重要な技能の一つ。
- 目星/聞き耳
両者共に探索に関する技能。成功すれば、周囲の異変やちょっとした変化、細かい仕掛けなどを「目星」は視覚的に、「聞き耳」は聴覚的に知覚し、正しく理解できる。
- 心理学
相手の心理状態を見抜く技能。成功すれば対象の心理状態、性格、発言の虚実などが分かる。ただし、ダイスはKPが振り、その結果は隠されたまま情報が渡されるため、PLには成否が分からない。そのため、中途半端に習得していると、成否が予想しづらいためかえって混乱を招いてしまう。
- クトゥルフ神話
文字通りクトゥルフ神話に関する技能で、成功すれば超常現象や魔術、怪物などの情報を、収集の過程を飛ばして簡単に手に入れることができる。非常に便利な反面、取得した分だけ正気度ポイントの上限が下がるというデメリットがある。キャラ作成時に習得する事は出来ず、シナリオ内の経験を通して上がっていく。
- 精神分析
精神状態を改善させる技能。狂気に陥った者の精神状態を回復させ、一時的に正気に戻す事が出来る。唯一ゲーム中に正気度ポイントを回復できる技能だが、回復量や使用できる条件には制限がある。
主な特徴
- プレイヤーは多少専門的な知識を持っている場合があるが、それでもあくまで一般人の範疇である。
- 一部を除き、正面から正攻法で邪神およびその眷属を倒す事はほぼ不可能となっており、その代わり、生き残るための何らかの対抗策や予防策は用意されている場合が多く、いかに情報を集め、正しく推測するかが重要になる。
- ルールに曖昧な部分が多く、ゲーム進行役であるKPの裁量権が大きい。
- 状況によっては基本能力値が減少する場合がある。その場合、能力値のどれか1つでも0になると死亡する。
- とにかくキャラが死にやすいので、KPやシナリオによって程度の違いはあれ、軽率な行動をとったりさいころの出目が悪いとあっさり死亡する。
- 情報を正しく収集・処理し、用意された対処法が実行出来れば生き残る事は可能だが、だからといってハッピーエンドになるとは限らない。事件の黒幕や内容などが不明のままだったり、状況が全く解決しないまま終わったり、そもそも用意されていた結末に救いが全くなかったり、とクリアしたのにバッドエンド同然というケースも少なくない。
そのほか
- このゲームは昭和61年にホビージャパンより第二版が翻訳、発売および展開が行われ、その際の名称はクトゥルフの呼び声という名称で販売され、商標登録された。
- また、第5版の翻訳が平成5年にホビージャパンより発売された。この際サプリメントが統合されヴィクトリア朝のイギリス、禁酒法時代のアメリカ、そして現代がプレイできるようになった。
- このルールの発売当初は1920年代のアメリカを舞台としたのホラーであるが、少し手を加えれば「現代もの」として使用することができたため、そのようなプレイを行うユーザーも存在した。その後、1890年代のイギリスや現代を舞台にしたサプリメントも登場した。
- 平成16年にはエンターブレインより、第六版の翻訳がクトゥルフ神話TRPGとして発売された。
- また、クトゥルフ神話を扱ったゲームとして平成15年に「d20システム」( ダンジョンズ&ドラゴンズなどで用いられる汎用システム )を用いた「コール・オブ・クトゥルフ d20」がMTGなどを発売しているウィザーズ・オブ・ザ・コーストより発売され、日本では新紀元社より発売されている。
- また、ニコニコ動画での実況でよく使用されるルールのひとつであり、動画に関連したタグが複数存在している。
- pixiv上でもリプレイやシナリオがCoCシナリオタグで投稿されている為、pixiv小説でも該当タグ等で作品を発見する事は可能だろう。ただし、一次創作をメインとしたピクシブ文芸は当然として、小説家になろうやカクヨムへの投稿は規約違反(TRPG用語を扱っている段階で二次創作扱い)となるので注意されたし。