曖昧さ回避
- ニコニコ動画へ投稿された、小雨大豆と酔狂倶楽部制作【酔狂文庫:秋の怪談 酔狂都市伝説】内のショート動画『コインロッカーベイビー』
- 1971年前後に起きた社会現象のコインロッカーベイビー。絶対にやってはいけない行為。
本項では1.について記載する。
概要
2010年10月01日にニコニコ動画へ投稿された、小雨大豆と酔狂倶楽部制作【酔狂文庫:秋の怪談 酔狂都市伝説】内のショート動画『コインロッカーベイビー』。
不思議なネタバレ注意。
コインロッカーベイビー
その出会いは赤子がコインロッカーに捨てられた所から始まる。
生真面目な性格の彼女?(意思のある不思議なコインロッカー)は、自分の中に新生児が放り込まれた時は相当慌てたに違いない。なぜならコインロッカーの扉には【生き物は入れないで】と書かれているのに、人間が産み立てほやほやの赤子を捨てるもんだから、きっと外に出してあげたくて仕方なかったであろう。
しかしコインロッカーの中でもかなり生真面目な彼女(?)。自分の都合で鍵も無しに扉を開ける事が出来るはずもなく、かといってこのままでは自分の中で赤子は死んでしまい、後に発見されてしまうだろう…。
この子の命を助けたい。
だけど勝手に扉を開けてしまえばコインロッカー失格。そんな葛藤の中、生真面目な彼女(?)が出した結論。
それが自分の中で赤子を育てる事だった。
※※真似して子どもをコインロッカーに捨てるのはご遠慮下さい(絶対にマネしないでください)。※※
大抵のコインロッカーは面倒臭がりばかりで、捨て子を育てる所か挨拶さえも返してはくれません。
そんなわけで人間の母親となったコインロッカー。
コインロッカーに育てられた娘がいうには、母の中はかなり快適な生活環境だったようでー
- お腹が空いたと思えば、天井からパンやミルクやお菓子が降ってきて、
- 退屈だなと思うと、天井からビックフットのぬいぐるみ(ではなく携帯?のストラップ)が降ってきた。
- 携帯電話その物が降ってきた事もあった。
赤子だった娘にとって初めて手にする、その折り畳みの携帯機器は(頭の上に黒くて硬い塊が落ちてきた衝撃も合わせて)衝撃的で、その時まで「光」というものを見たことがなかった彼女は、携帯電話の液晶画面の光に驚いて興奮してちびってしまった…。それで母からポケットティッシュを投げつけられた事は今でもよく覚えているとの事。
今まで暗闇の中で娘を育てていた母は、それ以降人間の子どもにとって光が大切である事を知り、晴れの日には我が子のいる部屋(ロッカーの天井)に光を届けた。
娘とってそれはそれは不思議な光景で…
そして……
素晴らしい景色(本物の青空)だった。
- 寒い冬の日は、娘が震える前に天井からふかふかの毛布とカイロが降り注ぎ…
- 夏は、母がコインロッカーを水で満たし娘を泳がせた日もあった。
- お気に入りのストラップを勝手に捨てられた事で母娘は新聞紙をぶつけ合って喧嘩をし、その翌日に天井からバンドエイドが降ってきた。
雨の日も雪の日も嵐の日もコインロッカーの中にいる娘にとっては関係のない事で、毎日がそれ以上にひっちゃかめっちゃかに刺激的で楽しい日々を過ごした。だから娘は「寂しい」という感覚を母の外から出るまで分からずに育った。なぜなら彼女のそばにはいつも母がいて、常に娘を優しく包んでいてくれたのだから。
しかし、この奇跡で順風満帆のように思えた母娘の生活に限界が訪れる…。
それは大きく育った娘の体が原因だった。
旅行カバンも入る一日600円の大型コインロッカーの中とはいえ、子ども一人を抱えるには限界があったのだ。寝返りさえ困難になり、床ずれならぬコインロッカーずれで体が痛くても、娘はそれで泣く事はなかった。
一心同体である母と娘。物言えぬコインロッカーといえども、"不安"・"戸惑い"・"焦燥感"…そして"悲しみ"といった母の気持ちは痛いほど娘に伝わってきた。だてに長いこと預けられてきたわけではない。それくらい幼い娘でも、その思いを感じ取る事が出来たのだ。
大きくなった娘は窮屈な所で体は痛くても、それ以上に切なさで心の中が痛かった。
"これ以上母を困らせたら、(母に)捨てられるのではないか"
"もう二度とこの生活を送れないのではないか"
そして、その不安は現実のものとなる。
ある日、天井から届いていた贈り物がぱたりと途絶えたのだ。始め母が忘れていたのではないかと娘は思ったが、まる一日何も降ってこない事で異変に気付く。不安と焦りと腹ペコの中、心の底から湧き上がる嫌な予感に蓋をしようと、必死になって楽しいことを思い浮かべた。
だけどそれは全て……
楽しい日々の思い出ばかりだった。
ではなくお団子が…
言葉は喋れなくとも、毎日話して笑ってー
喧嘩した日には決まってバンドエイドが降ってきてー
娘はその小さな手で、それを母に(目の前にある扉の内側に)貼ってあげたのだ。
毎日毎日、常に娘の頭の上からはいろんな物が降ってきた。暖かい陽の光。飽きる事のない不思議で素敵な贈り物。そしてそれらと一緒にいつもー
気づくと娘の目から大粒の涙が零れ落ちていた。今までどんなに痛くても泣かなっかたのに一度涙が流れると、それと一緒に不安・焦り・嫌な気持ちが心の底から次々に溢れ出てきた。
"ああ…もう母は私の事を嫌いになってしまったのだろう…"
"わがままで、いたずらばっかで、大きくなってばっかの私だから…"
そんな時、頭の上からポトリと小さな塊が落ちてきた。それが娘には何か分からなかったけれど、握るとなぜだか不思議と元気が湧いてきた。
"さあ、巣立ちなさい。"
そう物言わぬはずの母の声を娘は聞こえた気がした。それは彼女がいるコインロッカーの鍵……
そして一枚のバンドエイドだった。
こうして娘は母の下から巣立ち、外の世界へと羽ばたく事になったのだ。
因みに娘は発見された際、身元不明の誘拐児童とされた。コインロッカーで育てられた謎の少女として世間を賑わせたが人の噂も七十五日。世間も落ち着き里親が決まると、彼女はごく普通の人間の女の子としてごく普通の家で育つ事となった。
娘にとって外の世界は母の中と随分違い、広く明るく眩しくて、毎日毎日新しい発見で一杯だった。
そんなこんなで胸以外は元気に育った彼女は、ある日一つの怪談話を聞くことになる。
それは中学の林間学校で友達から聞いた怪談話。友達はおどろおどろしく話すのだが、彼女にとってはこれが何とも可笑しな話で、面白くて面白くてギュッと大きなビックフットのぬいぐるみを抱きしめながら涙を堪えるのに必死だった。
それはモノを食べる不思議な怪物のお話。
それは恐ろしい怪物…
その名も……
”神隠しのコインロッカー”
そう。天井から降ってきた数々の贈り物は、母が別のロッカールームから盗んできた物だったのだ。あの生真面目な母が娘のために泥棒をしてくれた話と知り、それが面白くて面白くて…
現在、娘は硬く暖かい母の体の中から出て、広く明るい陽の光の下で元気に生きている。
今の彼女があるのは勿論、コインロッカーの…
母のおかげだ。
と昔を振り返りながら故郷のコインロッカーから制服を取り出して着替えを済ませたコインロッカーの娘(メイン画像内の手前にいるポニテ娘)。
制服のままで出歩き禁止と校則が厳しい学校に通う娘は、母に制服を預かってもらっていたのだ。
母のコインロッカーが「カチンッ(金属音)カチンッ(金属音)」と娘になにやら注意すると、「そんな怒らないでよ。これでも一応節度ある学校生活を送ってますよ。」と厳しい母に育てられたから心配いらないと娘は答えた。その後スカートの丈をまた元に戻された事に怒る娘と、「カッチン!(金属音)」とスカートが短過ぎる事に怒る母。
傍目にはコインロッカーに向かって両の拳を上げて地団駄を踏みながら文句を言うポニーテールの女学生の姿だが、それは昔と同じように喧嘩をする母娘の姿だった。
娘「ほんと…(私の母は)堅物なんだから。」
コインロッカーの神様だ。
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カーネーション…花言葉は「純粋な愛情」。赤色の花だと「母の愛」などの意味を持つ。